Fあ普通高等教育“十一五”国家级规划教材 总主编谭晶华
新世纪高等学校日语专业本科生系列教材
日语综合教程
---------- 第七册-----------
季林根编著
qj[上海外语教育出版社
外教社 SHANGHAI FOftQGN lflNGURG€ €DUCAT1OH PR£SS
图书在版编目(CIP)数据
日语综合教程.第7册/季林根编著.
—上海:上海外语教育出版社,2017 (2020重印)
(新世纪高等学校日语专业本科生系列教材)
ISBN 978-7-5446-4964-3
I•①日…II•①季…m•①日语一高等学校一教材 IV.①H369.39
中国版本图书馆CIP数据核字(2017)第!20501号
出版发行^ 上海0卜语搴廊辛t
(上海外国语大学内)邮编:200083
电 话:021-65425300 (总机)
电子邮箱:[email protected]
网 址:http://www.sflep.com
责任编辑と江龙娣
印 刷:上海华业装璜印刷厂有限公司
开 本i:787 X 10921/16 印张13.75 插页4 字数328千字
版 次:2017年6月第 1版 2020年7月第4次印刷
印 数:5 000册
书 号:ISBN 978-7-5446-4964-3 / H - 2192
定 价:35.00元
本版图书如有印装质量问题,可向本社调换
质量服务热线:4008-213-263 电子邮箱:[email protected]
新世纪高等学校日语专业本科生系列教材编委会
总主编:
谭晶华
编委:(以姓氏笔画为序)
王勇 浙江工商大学
王健宜 南开大学
叶琳 南京大学
皮细庚 上海外国语大学
许慈惠 上海外国语大学
纪太平 厦门大学
杨说人 广东外语外贸大学
严安生 北京外国语大学
吴侃 同济大学
吴大纲 上海外国语大学
陈岩 大连外国语学院
张威 清华大学
陆留弟 华东师范大学
庞志春 复旦大学
胡振平 解放军外国语学院
修刚 天津外国语学院
洪栖川 东北师范大学
高宁 华东师范大学
高文汉 山东大学
宿久高 吉林大学
谭晶华 上海外国语大学
总涔
21世纪是ー个国际化的高科技时代,也是ー个由工业社会进ー步向信息社
会转化的时代。科学技术的高速发展、新兴交叉学科的涌现、人文文化与科学
技术间的相互渗透和融合、社会的信息化以及知识、信息传播技术的日新月异
加强了世界各国文化的交流、碰撞与合作。要想在激烈的世界竞争中立于不败
之地,就要占领人才培养的制高点,培养出世界一流的高素质、高水平人才。
由于社会对外语人才的需求已呈多元化趋势,以往那种单ー外语专业的基础
技能型人才受到挑战。今后我们仍然需要培养《源氏物语》的专门研究家,但
是高校外语专业的教学必须从过去的“经院式”人才培养模式向宽口径、应用
性、复合型人才培养模式转化。社会要的不光是懂外语的毕业生,还需要思维
敏捷、心理健康、知识面广博、综合能力强的精通外语的专门人才。
我国的外语教学界已充分认识到,对国家建设发展急需的外语专业人才加大
培养カ度,提高其能力和素质是ー项迫在眉睫的任务 。随着我国日语专业教学
点设置的不断增加和招生规模的逐年扩大,日语专业本科生的教学改革、学科
建设及教材出版亦取得很大的成绩,各地先后出版了一批在全国有影响的优秀
教材。正因为社会对日语人才的培养提出了更高的标准,同时对日语学科的建
设也提出了薪的要求,因此,日语本科生教材的编写和出版也应该顺应潮流,开
拓创新。
我国外语教材和图书出版的基地、领头羊之一的上海外语教育出版社(、外教
社)以高度的责任感和高瞻远瞩的视野,在充分调研的基础上,抓住机遇,于2003
年8月邀请了全国主要外语院校和教育部重点综合大学日语专业的近 20位专家
在上海召开了 “全国高等学校日语专业本科生系列教材编写委员会会议”。代表
们完全认同编写“新世纪高等学校日语专业本科生系列教材”的必要性、可行
性及紧迫性,并对编写立意 、教材构建、编写审校程序提出了许多积极、中肯
的建议和要求。•之后,外教社又多次召开全国及上海地区专家学者会议,分头
撰写编写大纲,确定教材类别、项目,讨论审核样稿。经过两年多的努力,终
于迎来了第一批书稿的付梓。
本套教材共分语言知识、语言技能、语言学与文学、语言学与文化、语言学
与翻译(中日对译)、人文科学、经济贸易、测试与教学法等若干个板块,可以说
几乎涵盖了当前我国日语专业所开设的全部课程。编写内容根据因材施教的原
总序1
则,深入浅出,反映各个学科领域的最新研究成果;编写体例采用国家最新有关
标准,カ求科学、严谨;编写思想贯彻了在帮助学生打下扎实的语言基本功的基
础上,培养学生分析和解决问题能力的原则,全面提高学生的人文、科学素养,
养成健康向上的人生观,成为合格的外语专门人才 。
本套教材编写委员会云集了我国日语界学者专家,其中不少是高等学校外语
专业指导委员会的委员。每ー种教材均由编写委员会的专家们仔细审阅后确定,
有的是从数种候选教材中遴选,总体上代表了中国日语教材学发展的方向和水
平。我们相信,外教社这套“新世纪高等学校日语专业本科生系列教材”的编写
和出版,一定会促进我国日语专业本科生教学质量的稳步提高,其前瞻性 、先进
性和创新性也将为日语教材的编写拓展更为广阔的视野。
谭晶华
上海外国语大学常务副校长
2 日语综合教程第七册
<言
日语专业教学大纲中指出:教材是师生在教学活动中的依据,选用或编写合
适的教材是搞好教学的保证。教材的题材要广泛,并且比例适当,要注重实践
性,适当编写包括日本社会、文化、风俗习惯以及科普常识方面的文章。语言
要规范、生动、丰富。文章体裁要多样化,掌握好教材的难度。
日语专业高年级教材在过去20多年间出过少量的几套,由于当时日语专业
高年级教学大纲尚未制定,现在看来,已出的教材与教学大纲的规定尚有一些
距离,也不很符合教学大纲的规定 。近年来,随着我国高等教育走向大众化,设
置日语本科专业的学校越来越多,各校都急切地期待着高质量的日语专业高年
级教材更早更多地问世,以备各大学择优使用。
本套日语专业高年级教材作为本科高年级综合日语课的主干教材,カ图贯彻
教学大纲规定的要求,编出符合目前日语专业现状的适用教材,既注重语言知
识的传授、语言技能的训练,又顾及日本社会、文化的介绍和理解。本套教材
的框架设计、布局结构将有助于提高学生的思维创造和分析鉴赏能力。
本套教材经申报,已批准为教育部“十五”重点教材建设项目,谭晶华教授
为总主编,第五册由陆静华教授编写,第六册由陈小芬教授编写,第七册由季
林根教授编写,第八册由皮细庚教授编写,编成后的油印教材均经过两轮以上
的使用,并广泛听取了中、外教师的意见,几经修改而成。
愿本套教材的推出为中国日语专业本科教育更上一层楼贡献绵薄之カ,相信
我国的日语本科专业建设一定会有更蓬勃的发展。
总主编
2007年6月
偏角的话
《日语综合教程》(第五〜第八册)的编写工作启动于2002年,第七册于2003年
底开始编写,经过两轮的试用和多次的修改,历时3年多的时间,终于和大家见
面了〇编者衷心地希望本教材能得到广大日语教师和日语学习者的喜爱。
本教材为高等学校日语专业高年级阶段精读课教材,供四年级上学期使用 ,
同时也可供具有一定日语基础的自学者使用。
参照《高等院校日语专业高年级阶段教学大纲》的要求,编者在选材时充分
注意文章的可读性和题材、体裁的多样性,内容上尽可能地选用ー些有一定思
想内容、可读性强、语言表达规范的文章。题材方面涉及日本文化、语言文学、
伦理道德、现代社会和科学等不同领域。体裁方面有评论、随笔、小说、报道
性的科普文章,为了让学生能接触和了解ー些文言文方面的基础知识,编者还
选用了颇具代表性的古典作品,以填补四年级学生对日本古典和文言语法缺乏
了解的空白。
考虑到四年级学生已经具备了比较扎实的语言基本功和较高的日语理解能
力,所以第七册的编写指导思想立足于培养学生独立思考、独立研究、独立解
决问题的能力。希望通过本册教材的学习,不仅使学生的日语语言基础能更上
ー层楼,而且能进ー步提高学生的理解能力、分析能力和解决问题的能力,对
部分词语的社会文化背景和日本的风土人情有更深入的了解 。因此,编者建议
教师在使用本教材时,要区别于第五 、第六册,把授课的重点放在对课文内容
的讲解上,使学生对课文的内容、作者的写作意图、文章中所涉及的人物心理、
社会背景等方面有更全面的了解。
本教材共分10课,每课由课文、注释、单词表、预习指南、语言与表达、练
习和课外阅读等七个部分构成。其中・,“语言与表达”主要用来说明该课出现的
语言现象,包括语法、句型、词汇以及某些词组和惯用语。其中大部分内容是
在基础阶段尚未出现过的,通过这些内容的学习,可以使学生的日语理解和综
合运用能力得到进ー步的巩固和提高。
各课练习大致可以分为两大类。ー类是围绕课文编写的练习;另ー类是为了
编者的话1
提高学生的日语综合运用能力而编写的练习。练习中设有口头问答题,旨在检查
学生对课文内容的理解情况,同时也为学生提供了 口语综合表达的机会。编者希
望教师在教学过程中能够重视口头问答题,同时也希望学生能积极配合教师,以
提高自己的口语综合表达能力。“课外阅读”中选用的文章大都涉及现代社会、
科技和生活等方面,目的是为了开拓学生的知识面,丰富学生的新词汇量,这样
不仅可以提髙学生阅读同类文章的能力,而且可以进ー步了解现代日本。
在构思本教材的编写原则和体系时,主要参考了原上海外国语大学教授陈生
保先生主编的《日语》第七册。选材时,曾得到原上海外国语大学日本籍专家山
崎先生、日本文化经济学院教授周平先生的指点,熊本开新学园校长水谷茂先生
以及许多日本朋友也为我提供了大量的资料 。在编写、试用和修改的过程中,上
海外国语大学的有关领导和日本文化经济学院的领导也给予了很多关心和支持;
上海外国语大学日本籍专家稻森信昭先生、本学院的戴宝玉老师、高洁老师、张
建华老师、韩宇老师、毛文伟老师等多位同仁都给予了我极大的帮助,在本教材
即将问世之际,谨向所有帮助过我的前辈和同仁表示衷心的感谢。
本教材采用了馬場あき子、三浦綾子、堀辰雄、高階秀爾、井上ひさし、土
井宏文、堀場清子、辻邦生、酒井順子、宫沢和史、内山節、池澤夏樹、志賀直
哉、野口悠紀雄、寺田寅彦、橘由步、川田順造、片桐圭子等各位先生和女士的
作品或文章,借此机会ー并表示感谢。
由于水平有限和时间仓促,难免存在缺点和错误,敬请各位批评指正。
最后,向支持本教材编写工作的上海外语教育出版社和责任编辑江龙娣女士
表示衷心的感谢。
编者
于2007年6月
2 日语综合教程第七册
目次
二つの川のほとりで............................1.....................
善本文
<注釈
♦新しい言葉
♦学習の手引き
<言葉と表現
ー、いとしむ(愛しむ)
二、 見る影もない
三、 〜(の)連続
<練習
♦読み物北海道の根っこ
辛夷の花 17
♦本文
<注釈
♦新しい言葉
<学習の手引き
<言葉と表現
ー、さし
二、 〜からして
三、 とんだ
四、 体言は(も)+同一体言で
五、 〜でもするように
六、 なんぞ
七、 〜はずみに(で)
4練習
手読み物 「美しさの発見」について
ナイン.......................................................................... 34
; <本文
:善注釈
! <新しい言葉
!參学習の手引き
目次 1
善言葉と表現
ー、〜とでもいう(ような/ように)
二、 口(くち)
三、 慣用句
1.膝を進める
2 .性根を据える
3. 気がある
4. 眉に唾をつける
5. ひと肌ぬぐ
6. ねんごろになる
7• 一目おく
華練習
善読み物日本のソフトビジネス
わたしの夏 1945年•広島 57
善本文
<注釈
♦新しい言葉
<学習の手引き
♦言葉と表現
ー、声を限りに
二、 百も承知
三、 顔がゆがむ
四、 〜だろうに
五、 〜といわず、〜といわず
六、 さぞかし〜だろう(かもしれない)
尊練習
参読み物初日影のなかで .
みやこ人と都会人.................................................... 75
♦本文
令注釈
善新しい言葉
尋学習の手引き
<言葉と表現
ー、演出する
二、 ぱっとしない
三、 ためを張る
四、 かくして
2 日语综合教程第七册
五、 〜てはならじ
六、 〜まくる
♦・練習
♦読み物雄弁な寡黙
自然と人間 98
<本文
<注釈
♦新しい言葉
♦学習の手引き
♦言葉と表現
ー、気がしてならない’
二、 動詞連体形+かのようだ
三、 動詞連体形+ことなき+体言
四、 なり(に)
<練習
♦読み物人は山に向かう
城の崎にて 116
<本文
♦注釈
♦新しい言葉
<学習の手引き
<言葉と表現
ー、動詞連用形+はしまいか
二、おそう(襲う)
三、 〜に相違ない
四、 〜かしら
五、 そわそわ
六、 気をおこす
七、 気をさす
練習
読み物接待
<本文 案内者.......................................1..3..6....................
<注釈
♦新しい言葉 目次 3
♦学習の手引き
♦言葉と表現
ー、気に向くままに
二、 巣をくう(すを構う)
三、 それがために
四、 まがりなりにでも
五、 動詞連用形+どおしに+同一動詞
六、 火をつける
七、 ことによると
疇練習
や読み物 別れを決意する妻たちの言い分
手作り幻想……........................................................ 156
♦本文
♦注釈
<新しい言葉
<学習の手引き
♦言葉と表現
ー、いたちごっこ
二、 富める
三、 〜ようでいて
四、動詞未然形+ずして
♦練習
♦読み物 独居老人を!Tが見守る
第10譲 徒然草 176
善本文(序段、第15段、第18段、第51段、第52段、第109段)
瓣語釈(序段、第15段、第18段、第51段、第52段、第109段)
噸注釈
卷練習
♦読み物 「徒然草」について
文語活用表(動詞・形容詞•形容動詞•助動詞) ........... 193
196
4 日语综合教程第七册
1
二つの川のほとりで
本・文 一....... — —.—__
•馬場あき子
坂を下ると小さな川にぶっか
る。この川はすぐその下手で麻生
川に合流する片平川である。合流
地点には小橋が架かっている。こ
の小橋の上に立つと、夏は蛍が顔
にぶつかるほど飛んでいたという
名所である。ほんの、30年ほど前
のことだ。今はフェンスを高く
張っても、空き瓶とか、空き缶、発
泡スチロールの箱や、ビニール袋
などが絶えず投げ込まれ、ある猥 麻生川
雑な汚らしさを見せている。
川の歴史は長いが、滅びは早い。私がこの川と出会ったのは18年ほど前の
ことだが、そのころは澄みとおった水の美しさが印象的だった。少し川上に
草木寺という寺があった。戦後、信州からここに移り住んだ染色家の山崎青
樹さんが、草木染めの美しい布を染め出したところだ。片平川のほとりは関
東有数のわき水地帯で、多摩丘陵の雑木山が澄みとおった地下水を豊かに
保っている。あふれ出た水は小さな野川をなして、田んぼの間を子守歌のよ
うなやさしい音色をたてて流れていた 。草木染めはそんなきれいな井泉水で
染め、さらされていたのだ。しかし私が片平に住み始めたころ、山崎さんは
もうこの地を捨てて群馬県の烏川のほとりに移って行かれた。より豊かな、
より清冽な水の辺を求められたのだろう。
私はこの山崎さんを烏川のほとりにお訪ねしたことがある。いろいろなお
話をうかがった。例えば紫草は種子をまいて草から育て、月夜に白い可憐な
花をいとしみ、そうやって紫根は育つものだということや、1反の布を桃色に
第1課二つの川のほとりで1
染めるためにはどれだけの桃の木が必要かとか 、紅花染めには何段階の染め
があるか、蘇芳や莉安の場合はどうかなど、思い出せないほどたくさんのお
話の間にさまざまな草木染めの絹を見せていただいた。どれも色鮮やかで光
沢があり、平安朝の人々が思いがけない鮮麗な色彩に彩られていたことに驚
いたが、その美しさの源には美しい水があったのだった。私は今もその時の
ことを時々思い出す。そして、20年ほどの間に、見るかげもなくなっていつ
た片平川の、平べったい川底の汚れを思い、そこに飽くなく物を投げ込む人
のことを思った。
この片平川を併せて、少し長い流域をもつ麻生川の場合はどうだろう 。こ
の川も何年か前までは防護措置としてのフェンスは張られていなかったが、
私はそれを決して行政の遅れなどとは思ってはいなかった。むしろ、この土
手に生い茂る真葛の強い生命力にたじろぎ 、何種類ものすすきの、さまざま
に輝く穂波に陶酔し、密生した野草の宝庫のような草むらを楽しんでいた。
ところがこの川もまた、あっという間に人工の川底に改造され、高いフェ
ンスが張られ、空き缶や傘やさまざまなものが、フェンス越しに投げ込まれ
るようになった。特色的なのは、投げ込まれるものの中に自転車があること
である。川沿いの道に沿って通勤や通学のために必要な自転車がびっしりと
立ち並ぶのを、怒っている誰かがいるのだろう。多い時は4、5台も投げ込ま
れる。台風などで増水したあとは、自転車に醜い猥雑なものがいっぱいに
引っかかり、劣悪不快な川の光景となる。
麻生川が大きく湾曲する上には橋が架され 、街道が通っている。橋の上に
立って、自転車や空き缶が投げ込まれている川を見ていると、いら立ちやす
く退廃した現代そのものが見えてくる。だが、振り返って、この橋の上手を
見ると、これはまた、思いがけず豪華な桜並木なのだ。昔の人は、こうした
粋な方法で川上手を守ってきたのである。桜の季節になると、数日だけこの
川の様相は一変する。朝桜の清婉、昼の爛漫、夜桜の妖艶を心ゆくまで楽し
むことができる桜並木なのである。中でも夜桜のころは美しい。川の汚れも
見えないし、花見の人が出ているわけでもなく、ただ桜だけがしいんと静
まって、街道の排気ガスのかすかな臭気の中にさびしそうに微笑んでいる。
川底に折れた翼を休めて横たわっている自転車と 、無言の対話を交わしてい
るかもしれない。世の中はもう、とても悪い状況になってしまっているの
だ。
この、醜い、情けない、哀れな麻生川に、ある年、ふと鴨が2、3羽飛来し
た。初めは何かの間違いだろうと思った。鴨も毎日は来ない。ヘドロ状の滓
の浮かぶ川の中州に上って、水を眺めているような時もあった 。賢い鴨は、ど
うも日を選んでやってくる。上曜•日曜・雨のあと、つまり、工業廃水が少
なく、水がきれいで、餌が少しでも多い日をねらったようにやってくる。そ
2日语综合教程第七册
して、驚いたことに、ついにこの川でひなを育てだした。桜が咲いても帰ら
ず、懸命にひなに餌のあるところを教えているようだ 。けなげなかわいい鴨
の子が、親を中心に逆立ちをしては川底の藻をあさり 、中州や川べりに憩う
姿が見られるようになった。
かわいいおしりを上に向けて 、ほとんど逆立ちの連続で 、餌をあさっても、
餌は極めて乏しく、鴨たちの空腹は一日中癒えない様子である。かわいいか
わいいと道行く人も立ち止まって眺めてはいるが 、そのうちいかにも気の毒
な、わびしい思いが胸にこみ上げてくる。人目を盗んでパンくずを投げ入れ
ている人もいるが、川に食物を投棄することは禁じられているはずで 、鴨に
餌を提供することはできないきまりなのである。あの鴨は育つのだろうか、
それは折々の話題だった。
鴨がひなと一緒に浮かんでいる光景は 、あの空き缶や自転車の投棄に対す
る歯止めになりはしないだろうか。それをみんなが願っていた。そして、そ
のころから、静かに不況の波が押し寄せ始め、川の水は澄明度を増してくる
ように思われた。洗濯の泡のような無気味な泡はもう浮かばない 。今年は鴨
の種類も、尾長鴨が増え、真鴨も交えて、多い日は30羽を越える時もある。
夕方になると、リーダーが率いて思い思いのねぐらに帰ってゆくようだ。こ
の間は、夕やみの底から鴨の鳴き声が聞こえてきた。またひなが生まれるか
もしれない。現代の鴨はこんな過酷な環境にも住み着き始めたが 、人間もま
た繁栄に飽いて、何かに気がつき始めた時期なのかもしれない 。そうであっ
てほしいものだ。
『国語展望 第92号』(1993年刊)による
筆者紹介
馬場あき子(ばばあきこ)
1928年東京生れ。本名は岩田暁子。歌人として活躍すると同時に、古典文学や能楽に関する評論
家として、また繊細な感覚の随筆家として活動を展開している。主な作品には、歌集『飛花抄』『桜
花伝承』『馬場あき子歌集』、評論『式子内親王』『鬼の研究』などがある。1993年『阿古父』で読
売文学賞受賞。
:注釈
〇麻生川(あさおがわ)
神奈川県川崎市麻生区の中央を流れ、鶴見川に注ぐ川。
第1課二つの川のほとりで3
❷片平川(かたひらがわ)
麻生区を南東に流れ、麻生川に注ぐ川。
❸草木寺(くさきでら)
長野県にあった尼寺を1960年に移築し、染色工房としたもの。
❹信州(しんしゅう)
信濃の国の別称で、現在の長野県。
0 山崎青樹(やまざきせいじゅ)
染色家。1956年、群馬県高崎市に草木染研究所を開設し、草木染めの研究と創作を続けている。
0 草木染め(くさきぞめ) 植物印染
草や木から採取した材料を用いて、繊維に色を染め付けること。
❶多摩丘陵(たまきゅうりょう)
東京都南部から神奈川県横浜市北部にかけて広がる丘陵地帯。
❽烏川(からすがわ)
群馬県西南部を流れ、利根川(とねがわ)に注ぐ川。
❾1反(いったん) (布匹的长度单位)匹
布類の長さの単位。長さ10.6 メ ートル、幅34センチ。およそ成人の衣服を作る分量に相当す
る。
画紅花染め(べにばなぞめ)红花印染
紅花の花びらを用いて繊維を染めること。
❿ 尾長鴨(おなががも) 长尾鸭
「ガンカモ科」の中型の淡水鴨。尾の先が尖り、.嘴がやや上に反り返っている特徴がある。水草や
水生昆虫などを食べる。
®真鴨(まがも)绿头鸭
カモの一種。アヒルの原種。北半球に広く分布し、日本付近では、北海道、千島、本州の一部な
どで繁殖。
(新しい言葉
フェンス(fence) [名] 柵、塀。特に野球のグランドを囲む柵や板囲いを
指す。/栅栏,挡墙,围墙。
発泡スチロール(はつ [名] 気泡を含ませて成形したポリスチレン。断熱材
ぽう styrol) [形動] や保護材として使われている。/泡沫苯乙烯。
乱れ混じること。下品な感じがすること。/猥亵
猥雑(わいざつ) 杂乱,下流。
その音に独特の感じ。「おんしよく」とも読む。Z
音色(ねいろ) [名] 音色。
①日光や風雨のあたるままにしておく。/暴晒,
さらす(晒す) [他五] 风吹雨打。②日光に当てて干す。/晒。③布など
を水で洗い、日に当てて白くする。また料理
で、材料を水につけてあくを抜く。/漂白,漂
4 日语综合教程第七册
清冽(せいれつ) [形動] 洗。④広く人々の目に触れるようにする。また、
紫草(むらさきそう) [名] 晒しの刑に処する。/暴露,抛露;处示众刑,示众。
可憐(かれん) [形動] 水が清く冷たいこと。/清凉,清冽。
ムラサキ科の多年草。/紫草。
いとしむ(愛しむ) [他五] いじらしいこと。かわいらしいこと。/可怜;可
爱。
紫根(しこん) [名] かわいく思う。大切にする。/(觉得)可爱;爱惜,
蘇芳(すおう) [名] 珍惜。
紫の根を乾かしたもの。/紫草根。
莉安(かりやす) [名] マメ科の小高木。インド・マレー原産の染料植
物。染色名で、黒みを帯びた紅色。/苏粉,苏木;
鮮麗(せんれい) [形動] 黑红色的染色名。
平べったい(ひらべっ [形] イネ科の多年草。黄色の染料として用いられ
る。/青茅。
たい) [形ク] 鮮やかでうるわしいこと。/鲜艳,艳丽。
飽くなき(あくなき) 平らで薄い。/扁平的;平坦。
真葛(まくず) [名] (古語)どこまでも止めない。満足することを知
見るかげもない [慣] らないさま。/贪得无厌;无止境,没完没了地。
葛の美称。/甘葛藤。
土手(どて) [名] 以前の面影がすっかり変わって、見るに堪えな
生い茂る(おいしげる) [自五] いさまである。みすぼらしい。/(变得)不像样子,
すすき [名] 难看的样子,凄凉的样子。
たじろぐ [自五] つつみ。堤防。/河堤,堤坝。
穂波(ほなみ) [名] 草木が生えてよく茂る。繁茂する。/茂盛,丛生。
イネ科の多年草。/芒草,狗尾草。
陶酔(とうすい) [名・自サ] しり込みする。/退缩,畏缩。
[自サ] 稲や麦などの穂が風に揺らいで波のように見え
密生(みっせい) る様子。また、その穂。/稻浪,麦浪;稻穗,麦
[副] 穗。
びっしり 気持ちよく酔うこと。うっとりするほどにその
増水(ぞうすい) [名・自サ] 境地に浸ること。/陶醉。
醜い(みにくい) [形] 草木やカビなどが隙間なく生えること。/密生,
丛生
たくさんの物が隙間なく並んだり詰まったりし
ているさま。/挤得紧紧,塞得满满,密密麻麻。
水量が増加すること。/水量增加;河水上涨。
①見ていやな感じがする。見苦しい。/(行为)丑
第1課二つの川のほとりで5
恶,令人厌恶。②容貌が悪い。/(容貌)丑,难看。
ひっかかる [自五] ①突き出たものなどにかかって止る。/挂(上),
劣悪不快(れつあくふ 卡住,刖上。②途中で妨げられて止められる。Z
かい)
受阻。③悪だくみなどに陥る。計略にはまる。悪
湾曲(わんきょく)
架する(かする) いことや面倒なことなどにかかわりあう。/上
街道(かいどう)
いら立つ(苛だつ) 当,中圈套;受牵连。④すっきりと納得できない
退廃(たいはい)
粋(いき) で、こだわる。/感到有隔阂,感到不对劲。
清婉(せいえん) [形動] 品質や性質などがひどく悪くて気持ちょくない
妖艶(ようえん)
心行く(こころゆく) こと。/(因质量、性质)恶劣而令人不快。
しいんと
かすか(微か) [名•自サ] 弓形にまがること。/弯,弯曲。
臭気(しゅうき) [他サ] かけわたす。上にかけて、構築する。/架,架设;
ヘドロ
中州(なかす) 构筑。
逆立ち(さかだち)
川べり(かわべり) [名] 都市間を結ぶ主な道路。/大道,大街。
癒える(いえる)
[自五] 気がいらいらする。じれったくなる。/焦急,急
不可待。
[自サ] 衰え廃れること。気風が崩れること。/颓废,衰
颓。
[名・形動] ①世態、人情の表裏によく通じていて、ものわか
りのよいこと。/通晓人情世故;合情合理。②気
持や身なりのさっぱりとあかぬけしていて、し
かも色気をもっていること。/漂亮,风流,潇洒。
[形動] 清くしとやかな様子。/清秀,艳丽。
[形動] なまめかしくあでやかな様子 。怪しいほど美し
い様子。/妖娩,妖艳。
[自五] 気が晴れる。満足する。/尽情,尽兴,心满意足。
[副・自サ] 物音一つなく、静まり返っているさま。/静悄悄,
寂静。
[形動] ①ものの形、色、音、匂いなどがわずかに認めら
れるさま。/微弱;朦胧,模糊。②みすぼらしい
さま。貧しいさま。/可怜;贫穷,贫贱。
[名] 不快な匂い。くさい匂い。/臭味,臭气。
[名] 流れの悪い水底にたまった柔らかい汚泥。また、
不溶性の有機物。/淤泥,不熔性有机物。
[名] 川の中で水面に出て島のようになったところ。Z
河中的沙洲,渚。
[名•自サ]. 物の上下が逆になっている。体を逆さまにして
立つこと。/颠倒,倒立。
[名] 川のふち。川岸。/河边,河畔。
[自ー] 病気や傷が治る。心の悩みや悲しみが解消す
6日语综合教程第七册
こみ上げる(込みあげ [自ー] る。/病愈,痊愈;(心中的烦恼、悲伤)消除。
る) ①いっぱいになって、押えてもあふれ出そうに
なる。/往上涌,往上冲。②胃から食べ物を戻し
折々(おりおり) [名・副] て吐きそうになる。/作呕,欲呕。
歯止め(はどめ) [名] ときどき。そのときどき。/时常,常常。
①車輪の回転を止める装置。/车闸,制动器。②物
ねぐら [名] 事の行き過ぎや悪化を食い止めること。/制止,
抑制。
鳥の寝るところ。(俗に)我が家のこと。/鸟窝,鸟
巢;自己的家。
学習の手引き
❶「川」の何が話題として提出されているか、注意すること。
❷ 文中に出てきた麻生川と片平川の環境を想像しながら読むこと。
❸ 本文を読みながら麻生川の今昔の姿の相違点を見つけ出すこと。
❹ 本文に使われている擬人法表現を見つけ出し、その前後関係に注意すること。
❺「醜い猥雑なもの」「劣悪不快な川の光景」「いら立ちやすく退廃した現代」について、
表現の意味内容を理^^すること。
0鴨の親子に関する表現を見つけ出すこと。
〇「投げ入れる」と「投棄」との表現のニュアンスの違いについて考えること。
❽「道行く人」「みんな」「人間」といったそれぞれの言葉のつながりについて考えるこ
と。
言葉と表現
也…いとしむー(雲しむ)_________ 一_______ —…一一…一・—…—….」
「愛しむ」は、動詞「いとおしむ」と同じ意味を示し、やや文語的な表現である。
/•愛着を感じて大切にする。愛惜する。(爱惜,珍惜)
❶ 過ぎゆく青春をいとしむ。(珍惜流逝的青春年华。)
❷ まあ、椿にも似てますけどね。(笑)柔らかな小春日和の光をいとしむよう
に咲いています。(哎呀,也挺像山茶花的啊(笑)。它盛开在阳光下,像似留恋
这十月的小阳春)
❸ 四季折々のお体をいとしむ皆様のご利用をお待ちしております。(我们欢迎平
第1課二つの川のほとりで7
时注意养生的各位朋友的光临。)
❹ 若い妻をいとしむ元就の、女性観の一端をのぞかせる史料を紹介しよう。
(下面介绍ー些史料,通过它可以了解到元就疼爱车轻妻子所体现出的女性
观。)
❺ 作家としての日和さんの才能をいとしむ人々は、みな酒を控えるよう注意す
るのだが、なかなか酒を断つことができなかった。(珍爱作家日和先生オ华的
人,都纷纷提醒他不要喝酒,但是他怎么也戒不掉。)
2. 深い愛情をもってかわいがる。(疼爱)
❶ わが子をいとしむ」疼爱自己的孩子。)
❷ 君が落としていった言葉のひとつひとつを拾い上げ、いとしむように頰を寄
せた。(拾起你丢落的篇篇和歌,充满情意地将脸颊靠在上面。)
3. 気の毒に思う。かわいそうに思う。(可怜,怜悯。)
❶ 残された子をいとおしむC (可怜那些被遗留下来的孩子。)
❷ 老いた病妻をいとしむC (可怜上了年纪,又病魔缠身的妻子。)
❸ 妻子をいとしむ分、草木虫魚にまで情愛の飛沫がかかるのであろう。(大概将
怜爱妻子的那份感情,都爱屋及乌似地转移到了草木鱼虫上了吧。)
また、「む」は接尾辞で、感情形容詞について、第三者の感情表現を表す動詞
を作る。例えば、•私は勉強が楽しい。T ・彼は勉強を楽しんでいる。(楽し
む)
他に、「悲しい」T「悲しむ」
「親しい」~「親しむ」
「怪しい」「怪しむ」
「苦しい」—>「苦しむ」
「懐かしい」T「懐かしむ」
%多 見る影もない(慣用句)(面目全非)不堪入目,寒酸,破陋。i
以前の面影がすっかり変わって、見るに堪えない様子を表す。みすぼらしい。
❶ あの人、今では見る影もないけど、10年前はすごい売れつ子歌手だったの
よ。(那个人10年前曾经是个红极一时的歌手,而如今的他已是寒磅不已。)
❷ 今は見る影もなくなってしまったので、昔の面影を写真を見ながら思い出し
てみました。(我ー边看着照片,ー边试着回想它往昔的面貌,而如今已是面目
全非。)
❸2004年の年末のぽかぽか陽気がうそのよう、正月休み以降、近年まれに見
8日语综合教程第七册
る大雪で、我が家の庭の椿たちは見る影もなく冬眠にはいっています。(2004
年年底,暖洋洋的气候转瞬即逝。正月休假过后,下了一场近年来罕见的大雪,
我家院子里的山茶花一反常态地进入了冬眠。)
❹ ハンピには数多くの遺跡がある。その多くは見る影もなく破壊されている。
(庞比古城遗址众多,可是其中的大部分已被破坏得惨不忍睹。)
❺ もう雨に打たれて見る影もありませんが、5月の庭はまるで百花園のように
いろいろな花が咲きます。(被大雨淋打后,庭院已惨不忍睹,可是到了 5月,
庭院就像ー个百草园,百花齐放。)
日〜(の)連続 接连不断 ;
同種の物事が切れ目なく続くこと。また、切れ間なく続けること。
❶ 半年の間、兵士たちは熱帯のジャングルの中で、苦しい戦いの連続だった。
(半年来,战士们在热带丛林中,艰苦地连续作战 。)
❷ 刻まれた側面は凹んだ短い弧の連続で、明らかにシャベルの背の曲線を示し
ていた。(那刻画出来的侧面是ー连串凹陷的短弧线,清楚地显示出了铁锹背面
的曲线。)
❸旅とは偶然の連続であり、人生自体もそうであるに違いない。(所谓旅行会有
许许多多的偶然,人生本身也必然如此。)
❹ 人生が期待はずれの連続であるならば、なにをしても無駄だという考え方も
でてくるでしょう。(如果说人生是期待的不断落空,那么,也许会产生万事皆
徒劳的想法吧。)
❺ 想像できないような事件の連続で、本来の仕事以外のことにかなりエネル
ギーを消耗しています。(由于意外的事情接二连三地发生,在处理本职工作之
外的事情上花费了大量的精力。)
練習
ー、次の言葉を覚えなさい。 あさる たじろぐ 平べったい
音色 滓 清冽 心行く いら立つ けなげ
猥雑 粋 清婉 癒える わびしい
醜い 藻 妖艶
二、次の日本語を中国語に訳しなさい。
/,今はフェンスを高く張っても、空き瓶とか、空き缶、発泡スチロールの箱や、ビ
ニール袋などが絶えず投げ込まれ、ある猥雑な汚らしさを見せている。
2あふれ出た水は小さな野川をなして、田んぼの間を子守歌のようなやさしい音色
第1課二つの川のほとりで9
をたてて流れていた。
3. むしろ、この土手に生い茂る真葛の強い生命力にたじろぎ、何種類ものすすき
の、さまざまに輝く穂波に陶酔し、密生した野草の宝庫のような草むらを楽しん
でいた。
4. 朝桜の清婉、昼の爛漫、夜桜の妖艶を心ゆくまで楽しむことができる桜並木なの
である。中でも夜桜のころは美しい。
5. 川底に折れた翼を休めて横たわっている自転車と、無言の対話を交わしているか
もしれない。世の中はもう、とても悪い状況になってしまっているのだ。
6. そのころから、静かに不況の波が押し寄せ始め、川の水は澄明度を増してくるよ
うに思われた。洗濯の泡のような無気味な泡はもう浮かばない。
三、 本文の内容に基づいて、次の質問に答えなさい。
/.山崎氏がきれいな水を探る本当の目的は何か。
2. 「美しい水があったのだった」という文を通して何が感じられるか。
3. 「わたしがこの川と出会ったのは」という表現は筆者のどのような気持ちが表
されているか。
4. 「見る影もなくなっていった」とは、どういうことを意味しているか。
5. 「退廃した現代そのものが見えてくる」とあるが、ここの「現代そのもの」と
は何か。
6. 「豪華な桜並木」という語句と対照的な語句を見つけよう。
7. 「こうした粋な方法」とは具体的にどういうことを指すか。
8. 「無言の対話を交わしている」とあるが、「対話」の内容を説明しなさい。
9. 「世の中はもう、とても悪い状況になってしまっているのだ」とあるが、筆者
は何を期待しているか。
10. 「醜い、情けない、哀れな麻生川」とあるが、筆者は何を言おうとしているか。
11. 「何かの間違いだろうと思った」とあるが、筆者がこう思った理由は何か。
12. 「癒えない」とは、本文においてどういう意味か。
13. 「気の毒な、わびしい……」とあるが、何が「気の毒」なのか。「わびしい」は
作者のどういう気持ちを表しているか。
14. 「静かに不況の波……思われた」とあるが、「不況の波」とは何を意味するか。
15. 「……何かに気がっき……」とあるが、ここの「何か」は具体的に何を指すか。
16. 本文を三つの段落に分け、それぞれの段落の要旨をまとめなさい。
四、 次の文章を読んで、後の質問に答えなさい。
薔薇作りをする人は、せいぜい2年目ぐらいで古い木を捨て、新しい怎苗木を育
てるのだそうだ。
近年、薔薇作りは行きわたったようで、別に珍しい話ではないが、そういう人が
10日语综合教程第七册
6、7年前に、わが家の庭にも10種類ばかり植えて行ってくれた。咲きはじめると、
うれしいものである。毎朝順ぐりに、1株ずつ時間をかけて点検してまわり、虫や
病気にも細かく気を配るようになる。
消毒器のわりに大きなのを買って、植木屋にあずけたりして、一生懸命だった。
薔薇へ来る虫にもいろいろあったが、あぶら虫の処理なぞにしても、はじめはブ
ラシを使っていたのを、指先で敖直かに払ってやるようなことが、①いつの間にか
平気になった。
ただ、美しい花を咲かせるためには、こんなに手数のかかるものかと、あらため
て感じ入った。
薔薇は、切って家の中に挿すと、見違えるほど豊麗さを増す。庭で咲いた時より
も3倍ぐらい大きく見えるし、みずみずしいものである。買った花のように、数が
そろわず、ほんの2、3售輸であることも、かえってそれぞれの特徴が生きるよう
である。
(A )
4年目の秋になって、来年はもう植えかえた方がよいという忠告に、やっと私は
◎なっとくしたが、妻の方は聞き入れなかった。古い木は捨てるのだと聞いて、同
意を示さないのである。
もう1年、もう1年と重なって、はさみを入れるたびに薔薇は節くれだち、細い
ながらに木のようになってしまった。見るからに老いて、わが身に引きくらべるよ
うなこともある。
私は、妻の反対を振り切ることにした。
新しく植える薔薇は種類も限って、5本ばかりに数を減らし、古いのは捨てるよ
うに植木屋に言いつけた。今年の早春のことである。
数日して庭をまわると、川べりに寄った片隅に、®むぞうさに古い薔薇の数株が
移されてあった。植木屋に頼んで、妻がそうしたのだった。(1)とは、こうい
うものであろう。
そのまま春を越して、萩や菊が勢いを増し、庭へ出ても®すみずみは見えなく
なった。
萩の花は、散りながら咲き続ける。
そんなある日、私はつぼみの菊を分けて、川べりまで行ってみた。そして、思い
がけないことに、そこで(2 )咲いている古い薔薇を見つけた。萩や菊のたけ
高く群れた中に、ちぢれて小さく、1輪2輪と咲いていた。
私には、薔薇作りの「捨てる」作法が身にしみるほどよく分かった。
そこに隠れて、ひたすら人目をさけた薔薇の恥が、するどく私を刺し、②ほとん
ど総毛立つ思いをした。
注:総毛立つ(そうけだつ)「ぞっとして身の毛がよだつ」という意味。
第1課二つの川のほとりで 11
dD 文章中の下線部①「いつの間にか平気になった」は、作者の薔薇に対する気
持ちがどうなってきたことを示していると思うか。io文字以内で答えなさ
い。
文章中の(A )に入れる文として、次のア〜エのうちから、最も適当
なものを選んで、〇をつけなさい。
ァ 「やはり野におけ……」とはよく言ったものだ。
イ 歳月の足も早いが、忘却の度合いはさらに早い。
ウこいつはみごとだった 。
エ これが、私を迷わせ、妻を迷わせた。
(EB 文章中の(1)に入れることばとして、次のア〜エのうちから、最も適当
なものを選んで、〇をつけなさい。
ア情がうつる イ意地をはる
ウ抜けがけ 工天衣無縫
IBB 文章中の(2 )に入れることばとして、次のア〜エのうちから、最も適当
なものを選んで、〇をつけなさい。
アしっとりと イやさしく
ウひっそり エ豊麗に
liB 文章中の下線部②「ほとんど総毛立つ思いをした」のはなぜか。次のア〜エ
のうちから、最も適当なものを選んで、〇をつけなさい。
ア 節くれだち、木のようになった薔薇のとげをするどく感じたから。
イ 薔薇が、老い衰えた姿をさらしたくないと訴えているように感じたから。
ウ 薔薇が、萩や菊にじやまされたくないと訴えているように感じたから。
工 古くなって捨てられたことに対する薔薇のうらみを感じたから。
(ED 文章中の下線部©〜の漢字に振り仮名をつけ、かなを漢字に直しなさ
い。
®( ) ®( ) ©( )
© ( ) ®( ) ®( )
12日语综合教程第七册
読み物
北海道の根っこ
•三蒲绣キ
私の父母は、北海道の西海岸苫前(とままえ)村で生まれた。沖遠く天売
(てうり)•焼尻(やぎしり)の島が並んで見える漁村だった。
明治の末、父母は苫前をあとに旭川に出て来た。2人は、父が19歳、母
が17歳の時苫前で結婚した。旭川に出て来た時には、既に子供2人を抱え
てい、その後次々と子供をもうけたから 、2人にとって生活はさぞかしきび
しいものであったろう。
だが、私の小学生、女学生時代を通じて、わが家の食生活はあまり豊か
とは言えなかった。数ある魚のうち、度々口に入るのは麒(かれい)やカス
ベ(エイ)の煮付、猫またぎと言われるほどの、塩のきつい鱒の塩引であっ
た。なぜ漁村生まれの父母たちが、魚を豊富に食卓にのせなかったのか、そ
れは経済的な理由よりも、父が極めて神経質であったためと思われる。いつ
も父は言っていた。
「旭川の魚は、どうも臭くて食えん。苫前の魚と比べると、匂いも味もて
んでちがう」と。もともと旭川は魚のうまい所と定評がある。だが、冷蔵庫
の普及している現代とは自らちがっていた。特に夏季、大陸性気候の旭川
は、連日酷暑がつづく。4時頃市場に行くと、魚はほとんど売り切れていた。
どこの家も鮮度の落ちるのを恐れて 、早めに買って、早めに料理していたの
かも知れない。
こんなわけだから、生鮪なるものを、わが家で食べた記憶がない。37歳
で結婚するまで、私は鮪を滅多に口にしたことがない。何しろ、鯨の数の子
も、年取りの夜のお膳に、形ばかり1本ずつつけた程度だった。
更に父は、小骨のある魚は、子供たちにほとんど食べさせなかった。子
供はなんとio人である。魚の骨が歯ぐきやのどに刺さったら大変だった。危
険なものをいっさい遠ざけていたのは親の愛情によるものであったろう。タ
コ、イカ、カニ、その他貝類も口には入らなかった。鱒もむろんのことであ
る。
ただ不思議なことに、棘だけは小骨があるのに、春毎に食べさせてもらっ
た。今思い出して、魚の中で、一番おいしかったのは、熱く焼き上がった棘
に醤油をかけて食べた味ではなかったろうか 。
第1課二つの川のほとりで13
この鯨については父母からよく聞かされた 。生まれ故郷の苫前の海では
練が群をなして海岸に押し寄せて来る時、沖のほうから海は白っぽく色が
変ってくるのだという。そして、子供でも手づかみで鯨を獲ることができた
という。
(この鯨の上を歩いて、沖まで行けるのではないか)
と、父は子供心にも思ったとか。そんな話をわくわくして聞いたものだ。
ところがその夥しい鯨が、戦後次第に来なくなった。いったいどうして
あれだけ獲れた鯨が、姿を消すようになったのだろう。先ず言われることは
乱獲である。日本人は何によらず「ある時の米の飯」で、先を読まずに、目
の前にあるものを取り尽くしてしまうと言われている。確かにそうかも知れ
ない。先住民であるアイヌの人たちは、鮭や山女(やまめ)や岩魚(いわな)
を獲るにも、熊の取り分や、狸、狐の取り分を必ず残して漁をすると聞い
た。全部人間が取ってしまっては、熊や動物たちが困るだろうという思いや
りがあるというのだ。何と優しい民族性であろう 。
魚のみならずアイヌの人たちは藤(ふき)、筍(たけのこ)、うど、わらび
等の山菜も、常に動物たちの分を考慮して取ったという。木を1本伐るに
も、充分に周囲の状況を考えて伐ったという。すばらしい愛と英知である。
後から入って来た和人たちは、この英知に見習うべきであった。尊重す
べきであった。にもかかわらず、乱伐乱獲をほしいままにした。むろん土地
を開拓する以上、木を伐り、森林を拓かねばならないが、どうも必要以上に
乱伐したのではなかろうか。現代に至っても、その傾向は少しも改まってい
ないばかりか、開発途上国にまで手を伸ばし、伐りまくっているという。あ
る国の人たちは、日本人があまりにも木を伐り、買い取っていくのを見て、
「日本は砂漠の国か」
と、言ったという話を、この頃何かで読んだ。恥ずかしい限りである。
私は知らなかったのだが、営林局に勤めていた三浦と結婚して知った言
葉の一つに、「魚つき林」というのがある。私は森と魚とは関係がないと思っ
ていた。が、森林には多数の昆虫が生息し、また様々な草の実、木の実が生
産される。海岸に鬱蒼たる森林があれば、それらが魚類の餌になるという 。
したがって森林がなくなれば、魚が少なくなるのも当然なのであろう。現
代、どのような学説があるのか、門外漢の私にはわからないが、鯨の来なく
なった一因に、乱獲のみならず、森林の乱開発があるというのは、わかるよ
うな気がする。
魚の不漁で、そのあおりを食うのは私たち人間である 。私は先に、父と
母が2児を抱えて、漁村の苫前村から旭川に出て来たことに触れた。実は父
の家は、その村でも大きなよろず屋を経営していた。父の父、すなわち私の
祖父は、佐渡島から15歳の時に、行商をして苫前に来、住みつくに至った。
14日语综合教程第七册
そして苦労の末、白壁の土蔵を3棟も持つ大商店として栄えた。米、醤油、
味噌、砂糖、酒、煙草、文房具、衣料品等々、扱う品数も多かったが、何よ
り大きな得意先は網元だった。ヤン衆といって、鯨漁の季節だけ出稼ぎに来
る大たちを、網元は何十人も寝起きさせる。それに要する品物を、網元は祖
父の家からツケで買ったとか。
鯨漁が終ると、多額の金が祖父のもとに転げこんだ。毎年豊漁の時はこ
れでよかった。長男の父は働くことを知らずに育った。美しい祖母も、花札
など賭事を覚えて家業をおろそかにした。幸い大々から仏さんと呼ばれてい
た祖父と、忠実な番頭の2人で店はびくともしなかった。
しかし、祖父が死んだ明治末期、鯨不漁の年が4、5年続いた。立派な鯨
御殿を建てたさすがの網元も、次第に左前になっていった。網元がころべ
ば、祖父の残した店もころぶ。こうして鯨場盛衰史の中に、祖父の家は消え
て行った。
私は、北海道の本当の根っこは何かと考える時、決まってアイヌの人た
ちの、英知に富んだ生き方を思わずにはいられない。今からでも遅くはな
い。本気になって考えていいのではないか 。
(一部削除あり)
1992年11月4日『北海道新聞』による
作者紹介
三浦綾子(みうらあやこ)
1922年、北海道旭川に生まれる。小説の舞台となる土地は北海道、特に旭川が多く、一生を旭川
で書き続けた作家。1964年、朝日新聞社の小説に「氷点」が入選したことにより、作家として一躍
脚光を浴びる。「氷点」は映画化、ドラマ化、舞台化などし、販売部数300万部を越えるベストセ
ラーになった。その後連載小説として公開され、「氷点ブーム」と呼ばれるまでに人気が出る。
現在三浦綾子の数多くの作品は、『氷点』『塩狩峠』『道ありき』の作品を中心に、13カ国語に翻
訳されている。
:注釈
〇苫前(とままえ)
北海道北部、留萌(るもい)支庁南部の漁業と農業の町。地名はアイヌ語の「トマオマイ」(エンゴ
サク草の茂る所)による。
❷天売(てうり)
北海道北部、日本海にある小さな島、「天売」は「天売島」の略称。
第1課二つの川のほとりで15
❸焼尻(やぎしり)
北海道北部、日本海に面する羽幌町(はぼろちょう)の沖合いにある「焼尻島」の略称。
❹旭川(あさひかわ)
旭川市のこと。北海道中央部にある北海道第二の都市。
❺ 数の子(かずのこ) 鱼子
ニシンの卵巣を乾燥または塩漬けにした食品。水に浸して戻し、醤油などをかけて食べる。「カズ
ノコ」を子孫繁盛の意にとって、新年、婚礼などの祝儀に用いられる。
❻佐渡島(さどがしま)
佐渡海峡を挟んで新潟市の西の日本海にある島。
〇 魚つき林(うおっきばやし) 岸边植树林
魚類を集め、またその繁殖、保護をはかる目的で設けた海岸林。
❽ 左前(ひだりまえ)(和服的大襟)向左扣;(事业)衰落,衰败
① 和服を、相手から見て左の衽(おくみ)を上にして着ること。死者の装束。
② 物事が順調に行かないこと。特に、商売の不振をいう。
魚介類の名称 鳏鱼
鮮鱼
鱗(かれい) 大马哈鱼
鯨(にしん) 鑽鱼
鮭(さけ/しゃけ) 鱒鱼
鱈(たら) 沙丁鱼
鱒(ます) 飴鱼,飴巴鱼,油胴鱼。
鱷(いわし) 远东多线鱼
鮪(さば) 比目鱼
ホッケ 柳叶鱼,思春鱼
ヒラメ(平目) 鳍鱼(锅盖鱼)
シシャモ(柳葉魚) 真鱒鱼
カスベ(エイ) 红点鮭,白点篷
山女(やまめ) 章鱼
岩魚(いわな) 觥鱼,墨鱼
タコ(章魚) 海胆
イカ(烏賊) 鑽鱼子
ウニ(海胆) 鲍鱼
タラコ(鱈子) 北极贝
アワビ(鮑) 文蛤
ホッキ貝(北寄貝) 蛤子,玄蛤
ハマグリ(文蛤) 舰贝,舰子
アサリ(浅蛔) 扇贝
シジミ(蛻)
ホタテ貝(帆立がい)
16日语综合教程第七册
2第 •課
辛夷の花
本文
•堀辰雄
「春の奈良へ行って、馬酔木
(あしび)の花盛りを見ようと
思って、途中、木曾路を回って
きたら、思いがけず吹雪に遭い
ました。…… J
僕は木曾の宿屋でもらった
絵はがきにそんなことを書き
ながら、汽車の窓から猛烈に雪
の降っている木曾の谷々へた
えず目をやっていた。
春の半ばだというのに、これ
はまたひどい荒れようだ。その寒いったらない。おまけに、車内には僕たち
のほかには、いっしょに木曾から乗り込んだ、どこか湯治にでも出かけると
ころらしい、商人ふうの夫婦連れと、もう1人厚ぼったい冬外套を着た男の
客がいるっきり。—— でも、上松を過ぎるころから、急に雪の勢いが衰え出
し、どうかするとぱあっと薄日のようなものが車内にも差し込んでくるよう
になった。どうせ、こんなばかばかしい寒さはここいらだけと我慢していた
が、みんな、その日差しを慕うように、向こう側の座席に変わった。妻もと
うとう読みさしの本だけ持ってそちら側に移っていった。僕だけ、まだ時々
思い出したように雪が紛々と散っている木曾の谷や川へたえず目をやりなが
ら、こちらの窓際に強情にがんばっていた。……
どうも、今度の旅は最初から天候の具合が奇妙だ。悪いと言ってしまえば
それまでだが、いいと思えば本当に具合よくいっている。第一、きのう東京
をたってきたときからして、かなり強い吹きぶりだった。だが、朝のうちに
これほど強く降ってしまえば、夕方木曾に着くまでにはと思っていると、昼
第2課辛夷の花17
少し前から急に小降りになって、まだ雪のある甲斐の山々がそんな雨の中か
ら見え出したときは、なんとも言えずすがすがしかった。そうして信濃境に
さしかかるころには、おあつらえむきに雨もすっかり上がり、富士見あたり
の一帯の枯れ原も、雨後のせいか、何か生き生きとよみがえったような色さ
え帯びて車窓を過ぎた。そのうちに今度は、かなたに、木曾の真つ白な山々
がくっきりと見え出してきた 。……
その晩、その木曾福島の宿に泊まって、明け方目を覚まして見ると、思い
がけない吹雪だった。
「とんだものが降り出しました……」宿の女中が火を運んできながら、気の
毒そうに言うのだった。「このごろ、どうも癖になってしまって困ります。」
だが、雪はいっこう苦にならない。で、けさもけさで、そんな雪の中を衝
いて、僕たちは宿をたってきたのである。……
今、僕たちの乗った汽車の走っている、この木曾の谷の向こうには、すっ
かり春めいた、明るい空が広がっているか、それとも、うっとうしいような
雨空か、僕は時々それが気になりでもするように 、窓に顔をくっつけるよう
にしながら、谷の上方を見上げてみたが 、山々に遮られた狭い空じゆう、ど
こからともなく飛んできては盛んに舞い狂っている無数の雪のほかにはなん
にも見えない。そんな雪の狂舞の中を、さっきから時折出し抜けにぱあっと
薄日が差してき出しているのである。それだけでは、いかにも頼りなげな日
差しの具合だが、ことによるとこの雪国の外に出たら、うららかな春の空が
そこに待ちかまえていそうなあんばいにも見える。……
僕のすぐ隣の席にいるのは、この辺のものらしい中年の夫婦連れで、問屋
の主人かなんぞらしい男が何か小声で言うと、首に白いものを巻いた病身ら
しい女も同じくらいの小声で相づちを打っている。別に僕たちに気兼ねをし
てそんな話し方をしているような様子でもない。それはちっともこちらの気
にならない。ただ、どうも気になるのは、いちばん向こうの席にいろんな格
好をしながら寝そべっていた冬外套の男が、時々思い出したように起き上
がっては、床の上でひとしきり足を踏み鳴らす癖のあることだった。それが
始まると、その隣の席で向こう向きになって自分の外套で脚を包みながら本
を読んでいた妻が僕のほうを振り向いては 、ちょっと顔をしかめてみせた。
そんなふうで、三つ四つ小さな駅を過ぎる間、僕は相変わらず1人だけ、木
曾川に沿った窓際を離れずにいたが 、そのうちだんだんそんな雪もあるかな
いかくらいにしかちらつかなくなり出してきたのを 、なんだか残り惜しそう
に見やっていた。もう木曾路ともお別れだ。気まぐれな雪よ、旅人の去った
あとも、もう少し木曾の山々に降っておれ。もう少しの間でいい、旅人がお
まえの雪の降っている姿をどこか平原の一角から振り返ってしみじみと見入
ることができるまで。——
18 日语综合教程第七册
そんな考えに自分がうつけたようになっているときだった。ひょいとした
はずみで、僕は隣の夫婦連れの低い話し声を耳にはさんだ 。
「今、向こうの山に白い花が咲いていたぞ。なんの花けえ?」
「あれは辛夷の花だで。」
僕はそれを聞くと、急いで振り返って、身体を乗り出すようにしながら、そ
ちら側の山の端にその辛夷の白い花らしいものを見つけようとした 。今その
夫婦たちの見た、それと同じものでなくとも、そこいらの山にはほかにも辛
夷の花咲いた木が見られはすまいかと思ったのである 。だが、それまで1人
でぼんやりと自分の窓にもたれていた僕が急にそんなふうにきょときょとと
そこいらを見回し出したので、隣の夫婦のほうでも何事かといったような顔
つきで僕のほうを見始めた。僕はどうも照れくさくなって、それを潮に、ちょ
うど僕とは筋向かいになった座席で相変わらず熱心に本を読み続けている妻
のほうへ立ってゆきながら、「せっかく旅に出てきたのに本ばかり読んでいる
やつもないもんだ。たまには山の景色でも見ろよ。……」そう言いながら、向
かい合いに腰掛けて、そちら側の窓の外へじっと目を注ぎ出した。
「だって、わたしなぞは、旅先ででもなければ本もゆっくり読めないんです
もの。」妻はいかにも不満そうな顔をして僕のほうを見た 。
「ふん、そうかな。」本当を言うと、僕はそんなことには何も苦情を言うっ
もりはなかった。ただほんのちょっとだけでもいい、そういう妻の注意を窓
の外に向けさせて、自分といっしょになって、そこいらの山の端に真つ白な
花を群がらせている辛夷の木をー、二本見つけて、旅のあわれを味わってみ
たかったのである。
そこで、僕はそういう妻の返事にはいっこう取り合わずに、ただ、少し声
を低くして言った。
「向こうの山に辛夷の花が咲いているとさ。ちょっと見たいものだね。」
「あら、あれをごらんにならなかったの。」妻はいかにもうれしくってしょ
うがないように僕の顔を見つめた。
「あんなにいくつも咲いていたのに。……」
「うそを言え。」今度は僕がいかにも不平そうな顔をした。
「わたしなんぞは、いくら本を読んでいたって、今、どんな景色で、どんな
花が咲いているかぐらいはちやんと知っていてよ。 …… 」
「何、まぐれ当たりに見えたのさ。僕はずっと木曾川のほうばかり見ていた
んだもの。川のほうには……」
「ほら、あそこに一本。」妻が急に僕を遮って山のほうをさした。
「どこに?」僕はしかしそこには、そう言われてみて、やっと何か白っぽい
ものを、ちらりと認めたような気がしただけだった 。
「今のが辛夷の花かなあ?」僕はうつけたように答えた。
第2課辛夷の花19
「しようのない方ねえ。」妻はなんだかすっかり得意そうだった。「いいわ。
また、すぐ見つけてあげるわ。」
が、もうその花咲いた木々はなかなか見当たらないらしかった。僕たちが
そうやって窓に顔をいっしょにくっつけて眺めていると、目なかいの、まだ
枯れ枯れとした、春浅い山を背景にして、まだ、どこからともなく雪のとばっ
ちりのようなものがちらちらと舞っているのが見えていた 。
僕はもう観念して、しばらくじっと目を合わせていた。とうとうこの目で
見られなかった、雪国の春に真つ先に咲くというその辛夷の花が、今、どこ
ぞの山の端にくっきりと立っている姿を、ただ、心の内に浮かべてみていた。
その真つ白い花からは、今し方の雪が解けながら、その花のしずくのように
ぽたぽたと落ちているにちがいなかった。 ……
『堀辰雄全集第三巻』(筑摩書房1977年刊)による
作者紹介
:堀辰雄(ほりたっお)
1904年東京生まれ、1929年東京大学国文学科卒業、1953年死去。小説家。芥川龍之介の知遇を得
て、文学に開眼し、心理主義的作風に立つ作家として活躍した。作品に『聖家族』『美しい村』『風
たちぬ』『かげろふの日記』『曠野』『菜穂子』などがある。
I注釈
❶辛夷(こぶし) 辛夷
モクレン科の落葉高木。山野に自生、また観賞用に栽培。高さ約10 メートル。早春、葉に先立つ
て芳香ある白色6弁の大きい花を開く。
❷ 馬酔木(あしび) 模木,马醉木
ツツジ科の常緑低木。春、白いつりがね状の小さな花を房状につける。「アセビ」ともいう。
❸木曾路(きそじ)
信濃(今の長野県)の塩尻から美濃(今の岐阜県)の中津川までの道筋。中山道の一部。
❹上松(あげまつ)
長野県木曾郡の上松町のこと。
❺甲斐(かい)
旧国名。いまの山梨県一帯。甲州。
❻木曾川(きそがわ)
長野、岐阜、愛知、三重の四県を流れる東海地方で一番大きい川。
〇なんの花けえ?
「何の花だつけ」と同じ。「け」(終助詞)は文語助動詞「けり」の転用。助動詞「た」「だ」につい
て、「たつけ」「だつけ」の形で用いる。ここは「だつ」が脱落して、「え」(終助詞、親しみの意
20日语综合教程第七册
を表す)がついた形。方言的な言い方。話し手が回想したり、忘れていたことや不確かなことを相
手に質問したり、確かめたりすることを表す。
❽あれは辛夷の花だで。
「で」は終助詞「て」の転用。「〜だて」 の形で、ひとり合点的な詠嘆、感動を表す。古風で、方
言的な言い方。
k新しい言葉 ①花がたくさん咲いていること。またその時。/
(花)盛开;盛开的季节。②(比喩的に)女の容色
花盛り(はなざかり) [名] が一番美しい年ごろ。/妙龄。③物事が盛んであ
ること。/最盛时期,黄金时期。
吹雪(ふぶき) [名] 降雪に激しい風の伴ったもの。風雪。暴風雪。/
暴风雪。
湯治(とうじ) [名] 温泉に浴して病気を治療すること。/温泉疗养。
厚ぼったい(あつぼつ [形] 厚くて重たい感じである。/厚实,又厚又沉。
たい) [他五] ①恋しく思う。懐かしく思う。/爱慕;思念。②
慕う(したう) 会いたくてあとを追う。/追随,跟随。③その人
の学問、人徳を尊敬して、それに習おうとする。/
読みさし(よみさし) [名] 敬仰,敬慕。
紛々(ふんぷん) [副] 読みかけて途中で止めること。読みさすこと。Z
強情(ごうじょう) [名] 没有读完,读到ー半。
入り混じって乱れる様子。/纷纷,纷纭,缤纷。
あつらえむき(謎え向[名] 頑固で自分の考えを変えないこと。/倔强,固执。
かねて希望していたとおりであること。要求に
き) ぴったり合うこと。/恰好,正合适,正适宜。
輪郭、境界線が明らかで際立っている様子。/鲜
くっきり [副] 明,显眼,清淸楚楚。
ある物事が負担に思われる。重荷に感じられ
苦になる(くになる) H貫]
る。Z (为・•・而)苦恼,担心,背思想包袱。
雨空(あまぞら) [名]
①雨が降っている空。/下着雨的天空。②雨が降
くっつける(くつ付け[他ー] りそうな空。/快要下雨的天空。
る) ①くっつくようにする。くっつかせる。/粘合,
把••・合拢在ー起。②従わせる。味方にする。/使…
靠拢,拉拢。③男女を親しくさせて、夫婦とす
第2課辛夷の花 21
狂舞(きょうぶ) [名] る。/促成(男女)夫妻。
狂ったように乱舞(らんぶ)する。入り乱れて舞
時折(ときおり) [副] うこと。/(舞蹈)乱跳,乱舞;(雪)飞舞。
出し抜け(だしぬけ) [副] 時々。ときたま。/偶尔,有时。
不意にことをするさま。いきなり。/冷不防,突
待ちかまえる(まち構 [他ー] 然。
える) [名]
いつでも応じられるように、用意して待つ。Z
病身(びようしん)
(做好准备)等候,等待。
相づちを打つ(あい槌 [慣] 病気をわずらっている体。また、病気がちの弱い
をうつ) 体。/病躯,多病体弱的身子。
相手の言葉に同意のしるしを表してうなずく。
寝そべる(ねそべる) [自五] 相手の話に調子を合わせる。/打帮腔,随声附
和。
踏み鳴らす(ふみなら [他五] 腹ばいになり、両足を伸ばして寝る。ごろっと横
す) [連語] になる。/躺卧,伸腿伏卧,趴着。
[名] 踏んで鳴り響かせる。/踏出声音,跺脚。
顔をしかめる(かおを
しかめる) (不機嫌や痛みのため)顔の皮を縮めてしわを寄
せる。/皱眉,紧皱眉头。
ちらつく ①(細かいものが)ちらちら降る。/飘落,纷飞。
②ちらちら光る。/闪烁。③見えたり、隠れたり
残り惜しい(のこりお [名] するように感じられる。/若隐若现。
しい) ①(思い通りにならないで)悔しい。残念だ。/遗
憾的,可惜的。②分かれるのがつらい。名残惜し
見やる(みやる) [他五] い。/依依不舍,依恋的。
①遠く眺める。遠方を望み見る。/远望,眺望。
うつける(空ける) [自ー] ②その方を見る。/朝某方向看。
①中がうつろになる。/空洞。②気が抜けてぼん
耳にはさむ(みみに挟 [連語] やりする。/发呆,空虚。
む) [名] (人の話など)聞き込む。耳に入れる。/听,听
见。
ひょいと ①不意に。突然。/忽然,无意,偶然。②身軽な
きょときょと [副] 様子。Z轻轻地,纵身。
潮(しお) [名] 不安や恐れなどのため落ち着きなく視線を走ら
22日语综合教程第七册 せるさま。きょろきよろ。/(心神不安地)东张西
望。
①海水の流れ。/海潮。②海水。/海水。③ちょ
筋向い(すじむかい) [名] うどよいとき。しおどき。機会。/机会;时机。
目を注ぐ(めをそそぐ) [慣] 斜めに向かい合うこと。筋向こう。/斜对面。
取り合う(とりあう) [自他五] 注意してみる。注目する。/注视,注目。
①相手にする。/答理,理睬。②奪い合う。/争
まぐれあたり [名] 夺,互争。
ちらりと [副] 偶然に当たること。/碰巧,歪打正着。
①光かげなどが一瞬の間、わずかに目に触れる
まなかい [名] さま。/ー闪,一晃。②うわさがわずかに耳に入
るさま。/略微;偶尔。
とばっちり [名]
ちらちらと [副] ①目の前。目の当たり。/眼前。②目と目の間。Z
観念(かんねん) [他サ] 两眼之间。
今し方(いましがた) [名] 傍にいて禍のかかること。巻添え。/牵连,连累。
ぽたぽたと [副] ①小さくて軽いものが舞い散るさま。/纷纷地,
霏霏地。②物が見え隠れしたり聞こえたりするさ
ま。/时隐时现,晃动;时而听到。③小さい光が
点滅するように見えるさま。/ー闪ー闪,闪耀。
あきらめること。/死心,断念。
いま少し前。たった今。/方オ,刚オ。
しずくや小さい塊が続けさまに落ちて打ちあた
る音。/滴滴答答。
、学習の手引き
❶ 車内の様子と筆者の態度を考えること。
❷ 車窓風景に対する筆者の感想をまとめてみること。
❸宿の女中と筆者の心情を比べること。
❹ 時間の経過に従って、筆者の雪に対する気持ちを整理してみること。特に、筆者の
感傷的気分に注意せよ。
0雪国と別れるときの筆者の気持ちを考えること。またその気持ちを描写するところ
よく読むこと。
❻ 辛夷の花に対する筆者の執着を考えること。「旅の哀れ」に注意せよ。
❼妻との会話を読んで、両者の気持ちの違いを考えること。
❽ 最終段落の筆者の気持ちを考え、またそこに至るまでの筆者の気持ちを整理してみ
ること。
❾ 本文に「……」が多く使われているが、それぞれ何を意味しているか、またどんな
働きをしているか。
® 本文に「そんな」「その」といった指示語が多く使われているが、それぞれ何を意味
しているか、またどんな働きをしているか。
第2課辛夷の花23
そ:§さし(接尾語) 未完,(某件事做到)一半
動詞の連用形につけて、名詞を作る。動作を途中でやめている意味、またそ
のこと、ものを表す。
読みさしの新闇(没读完的报) 吸いさしのタバコ(没抽完的烟)
飲みさしのミルク(没喝完的牛奶) マッチの燃えさし(火柴没燃尽)
食レ、且(吃到一半) 言い旦(说到ー半)
〜からして 从•••来看,从•••来讲
体言を受けて、時間的、空間的起点、現状認識における起点を表す。「〜から
して」は起点のみ取り出す表現で、終点はまったく意識されていないのが特徴
である。語調を整えて強調する「して」によって文語的色彩を帯びているが、意
味的には格助詞の「から」とそれほど違いはない。また、「からすると」「から
みて」「からいって」などの形に置き換えられる。
❶ あの言い方からして、わたしはあの人に嫌われているようだ。(听他说话的口
气,我好像很惹他讨厌似的。)
❷ あの熊度からして、彼女は引き下がる気はまったくないようだ。(从态度上来
看,她好像丝毫没有罢休的意思。)
❸ その口ぶりからして、彼はもうそのことを知っているだろうな。(听他讲话
的口气,他好像已经知道那件事了。)
〇 山田君の性格からして、そんなことで納得するはずがないと思うよ。(以山田
君的性格来看,我想他不会因为那样的解释而信服的 。)
七套どんだ(蓮昧詞)噫棋禾到的,意外的;アネ得的。 .
事柄や人を表す言葉の前について、それが予想外のことだという意味を表す。
普通は「ひどい」「大変な」「困った」「驚きあきれた」などマイナス評価を表す
場合に用いる。 •
❶ ほんの冗談のつもりだったのに、これはとんだことになったぞ。(原以为只是
开个玩笑,却惹出了大麻烦。)
❷ 道には迷うし、雨には降られるし、まったくとんだ目にあったよ」不仅迷了
路,而且还被雨淋了,真是倒了大霉。)
❸ 泥棒に間違えられたとは、とんだ災難だったね。(没想到被人当成小偷,真是
24 日语综合教程第七册
飞来的横祸。)
❹ ちょっと居眠りをしたばかりに、とんだ失敗をしでかしてしまった。(就因为
稍稍打了个盹,而造成了意外的失误。)
体言は(も)+同一体言で !
「体言は(も)+同一体言で」は、ある事柄を取り上げて、他のことと対比しな
がら、その事柄について述べるという場合に用いられる。本文の「けさもけさ
で」という表現の中の「も」は「同類」をあらわす。它没有对应的译法,要灵
活翻译。
❶ 冬は冬で、日本海側は電車が豪雪に立ち往生しているのに、太平洋沿岸は
空つ風が吹きまくる。(冬天有冬天的麻烦,日本海沿岸地区电车因暴风雪而不
能行驶,但是,太平洋沿岸却是干风呼啸。)
❷ 家は家で、好きなだけテレビが見られるし、学校は学校で、本をいっぱい読
めるから、楽しいと思う。(我觉得待在家里有待在家里的好处,可以看电视,
去学校有去学校的好处,可以看很多书挺有意思的。)
❸ 兄は陸上競技で金メダルを取り、妹は妹で、日本語スピーチコンテストで優
勝をした。(哥哥拿了田径比赛的金牌,妹妹也不示弱,她得了日语演讲比赛的
第一名。)
❹ 狸は貧しい老人に化け、キツネもキツネで美しい女に変わった。(狸猫变成了
穷苦的老人,狐狸也有狐狸的办法,它变成了一个漂亮的姑娘。)
❺ 住民も住民で、生活の質や生活環境を考えないわけにはいかないc (居民有居
民的理由,他们必须考虑生活质量和生活环境。)
「体言は(も)+同一体言で」の形のほかに、「用言ば+用言た+で」の形もあ
る。
❶ 金というものは、なければ困るが、あればあったで、やっかいなものだ。(钱
这东西,没有的话不行,有了吧,又有有钱的麻烦。)
❷ 長雨が降り続けば続いたで、秋の取入れを心配する。(雨下长了吧,又怕影响
秋收。)
❸ ローンを借りてマイホームを買えば買ったで、月々月給の半分を返済にあて
るのもつらいことだ。(贷款买房子吧,每个月要拿出一半エ资来还贷,这也受
不了。)
〜でもするように简直就像…样子
比喩表現である。動詞連用形につけて、ある動作、行為を取り上げて、いか
にもそのように見えるという意味を表す。
第2課辛夷の花 25
❶ 小林は相手の調子と顔付を、嚙んで味わいでもするように、しばらく間を置
いて黙っていた。(片刻间小林一直保持沉默,就像在琢磨对手的情况和回忆对
手的容貌ー样。)
❷ デザインサンプルを選択するだけで、着せ替えでもするように、簡単な操作
でデザインを切り替えることができる。(简直就像在换装,只要选择ー个款式
样品简单地操作一下,就能变换款式。)
❸ まるで飯でも食うように、瞬きでもするように、簡単に殺した。(就像吃饭ー
样,转眼间就杀了,一点儿也不费劲。)
❹ 何カ、捜しでもするように、愕然としてあたりを見まわした。(就像在找什么东
西似的,他愕然地环视了一下四周。)
なんぞ(連語・副助詞) 什么的,之类的 ]
「なんぞ」は、疑問詞「なに」に「ぞ」が付いた「なにぞ」の転じたもので、
不確定のものやことを示す。場合によっては軽蔑のニューアンスも伴う。「なん
カ、」「なにか」に似ている。
❶ 人を家来かなんぞのように扱う。(把人当作仆人似的来对待。)
❷ なんぞ面白いことはないか"有什么趣闻吗?)
❸ 人の遭遇というものは、紹介状やなんぞで得られるものではないC (人的遭遇
不是凭介绍信啦什么就可以得到的〇 )
❹ 俺なんぞはいくらいたずらしたって、潔白なものだ。(我这种人再怎么恶作剧
也是清白的。)
セ会 〜はずみに(で)(趁着某个动作的余势)刚ー・•・就…;就在…]
■-----------------------------------------------------------的----时-候----…------------ノ :
「ある動作の余勢で」という意味で、予想しないこと、意図しないことが起こ
ることを表す。
❶ 転んだはずみに財布を落としてしまったらしい。(钱包好像就在摔倒的时候丢
的。)
❷ 衝突のはずみで、乗客は車外に放り出された。僦在车子相撞的那一刹那,乘
客被抛出了窗外。)
❸ 自分から言うつもりはなかったが、話のはずみで、つい彼女のことを彼に話
してしまった。(不是我有意要说的,说话的时候不小心对他说了她的事。)
❹誰でももののはずみでうそをついてしまった経験が一度はあると思うc (我想
任何人都至少有过一次顺ロ说谎的经历。)
26 日语综合教程第七册
練習
ー、次の言葉を覚えなさい。 出し抜けひとしきり 気まぐれ まぐれあたり
強情 くっきり気兼ね ちらりと とばっちり 観念する
相槌ひょいと 空ける
二、 次の日本語を中国語に訳しなさい。
/,僕だけ、まだ時々思い出したように雪が紛々と散っている木曾の谷や川へたえず
目をやりながら、こちらの窓際に強情にがんばっていた。
N僕は時々それが気になりでもするように、窓に顔をくっつけるようにしながら、
谷の上方を見上げてみたが、山々に遮られた狭い空じゆう、どこからともなく飛
んできては盛んに舞い狂っている無数の雪のほかにはなんにも見えない。
3. だが、それまで1人でぼんやりと自分の窓にもたれていた僕が急にそんなふうに
きよときよととそこいらを見回し出したので、隣の夫婦のほうでも何事かといっ
たような顔つきで僕のほうを見始めた。
4. もう木曾路ともお別れだ。気まぐれな雪よ、旅人の去ったあとも、もう少し木曾
の山々に降っておれ。もう少しの間でいい、旅人がおまえの雪の降っている姿を
どこか平原の一角から振り返ってしみじみと見入ることができるまで 。
5. 僕はもう観念して、しばらくじっと目を合わせていた。とうとうこの目で見られ
なかった、雪国の春に真つ先に咲くというその辛夷の花が、今、どこぞの山の端
にくっきりと立っている姿を、ただ、心の内に浮かべてみていた。
三、 本文の内容に基づいて次の質問を答えよう。
/. 「おまけに、車内にはぼくたちのほかには……」とあるが、「おまけに」とは何
に何が加わるのか。
2 「どうかするとぱあっと薄日のような……」の「ぱあっと」とはどんな感じを
表すか。
3. 「こんなばかばかしい寒さ」というのはなぜか。
4. 「天候の具合が奇妙だ」というのはなぜか。
5. 「いいと思えば本当に具合よくいっている」と筆者が考えるのはなぜか。
6. 「夕方木曾に着くまでにはと思っていると」とあるが、「……着くまでには」の
後に省略された言葉を考えなさい。
' 7. 「おあつらえむきに」というのはなぜか。
8. 「とんだものが降りました……」と女中が言うのは、どのような気持ちからか。
9. 「このごろ、どうも癖になって……」と女中が言うのは、どのような気持ちか
らか。
第2課辛夷の花27
10. 「ぼくは時々それが気になりでもするよう」とあるが、「それ」とは何を指すか。
11. 「気兼ねをしてそんな話し方……」の「そんな話し方」とはどんな話し方か。
12. 「自分の外套で脚を包みながら」.という描写は、何を意味するか。
13. 「なんだか残り惜しそうに」していたのはなぜか。
14. 「自分がうつけたようになっている」とは、筆者のどのような気持ちを表すか。
15. 「ぼくはどうも照れくさくなって」の理由は何か。
16. 「妻はいかにも不満そうな顔をして……」の理由を説明しなさい。
17. 「旅先の哀れを味わってみたかった」とはどういうことなのか。
18. 「僕はいかにも不平そうな顔をした」の理由を説明しなさい。
19. 「その花のしずくのように……」という描写は何を描いているか。
2〇. 「……にちがいなかった」と断定する筆者の気持ちを説明しなさい。
四、次の文章を読んで、後の質問に答えなさい。
今、私の手もとには、何枚かの、つるつるした、美しい絵はがきが散らばってい
る。日光の、思い出深い滝の絵はがきである。有名な華厳の滝、竜頭の滝、霧降り
の滝のそれを眺めているうちに、「日光はきれいだったなあ。」と、また、胸の奥か
ら、ふと、ため息がもれてくる。
日光は、ともかく杉の木の多いところであった。日光街道の杉並木をはじめとし
て輪王寺や東照宮などの寺の中やまわりに、見あげる°ばかりの大きな大きな杉が、
いく百本いく千本とあった。
杉並木の長さにはほんとうに驚いた。まっすぐな道路を快速な観光バスで何分
走っても、なかなかぬけ出せないほどの長さなのである。その杉も樹齢何百年も
たったと思われる大本⑧ばかりである。
バスの窓から眺める高い高い杉は、ビュンビュン後ろへとんでいった。道路わき
の小さな土の丘に、大きな太い幹がにょきにょき伸びているのもあれば、その小さ
な丘を力強い手で、指で、がっしりとつかんでいるのもあった。そういう杉の本々
が道路に、バスにのしかかってくるようだった。雄々しくだまって真っすぐ伸びて
立ち並ぶ杉の中を通りぬける私にとって、①それは、日光山の入り口の両わきに立
つ、大きな②守り神のような気がしたC
ハイウェイがだんだん登り坂になってくるころには 、奥日光の壮麗な連山が
( )〇こういう眺めはまったく初めてであった。谷間に白すじの雪をかぶった
白根山や、うす茶で青く くすぶったような男体山が見えてきた。バスのうしろの方
を見ると、登ってきた道の先のほうの緑の谷間に小さく日光市が見えている。通る
道の両側は、ふき出した©ばかりのうすい若葉が溢れん◎ばかりである。
行く手は雄大な山々直ばかりC私はふとこんな山の中に住んでみたいなと思った。
③もし、一日中つめたい、さえた空気を胸いっぱい吸って、雄々しい山々をいつまで
も眺めていられたら、どんなにすてきだろうとも想像した。
28 日语综合教程第七册
霧原高原では、つつじが咲いていた。ここでは、いまが春のはじめ。どこまで
もなだらかにつづく高原の向こうに青くつづく日光連山が横たわっていた。それを
見て、私は、日本の昔の④墨絵を思い出したc
OD この文章を読んで、筆者が実際に行ったと言いきれるところは、どことどこ
なのか。その場所を全部選んで、〇をつけなさい。
ア日光街道 イ輪王寺 ウ東照宮 工奥日光
才白根山 力男体山 キ霧原高原
この文章の内容にふさわしい季節はいつなのか。次の中から選んで、〇をつ
けなさい。
ア 春のはじめ イ 夏のはじめ ウ 秋のはじめ 工 冬のはじめ
dB 文章中の下線部6)〜甘の「ばかり」を意味のうえから次のように分けて
みた。どの分け方が正しいか、正しいと思うものの記号に〇をつけなさい。
ア(A・B) (C・D・E) 彳(A・D) (B・C・E)
ウ(A・C・D) (B・E) エ(A・D) (B・E)・(C)
才(A・C) (B・E)・(D) 力(A・B) (C・D)・(E)
觥)筆者は、「何がどうだった」から、下線部②「守り神のような気がした」の
か。次の中から二つ選んで、〇をつけなさい。
ァ 杉が樹齢何百年もたった大木ばかりだから。
イ 杉が雄々しくだまって真っすぐ伸びて立ち並んでいるから。
ウ 日光山が大きくどっしりかまえているから。
工 杉が小さな丘を力強い手で、指で、がっしりとつかんでいるから。
ォ 杉の大きな太い幹がにょっきり伸びているから。
(MB バスの動きと走っている場所を考えて 、本文中の( )の中に入る表現
としてもっとも適当と思われるものを次から選んで、〇をつけなさい。
ア 見えだしてきた イ 見えた ウ 見えるようだ エ 見えている
dD 文章中、筆者が杉並木の大きさに圧倒されていることが、もっともよくわか
る表現はどこなのか。15文字以内で答えなさい。
.問7, 下線部①「それ」は何をさしているか。
答え:
第2課辛夷の花29
dD 下線部③「もし」のかかっている言葉を書きなさい。
答え:
OD 筆者はあたりのようすがどのようであったから、下線部④「墨絵を思い出した」
と表現したのか。次の中から最も適当なものを選んで、その記号に〇をつけ
なさい。
ア 日光に映えて、山、緑が色彩的にあざやかで美しかったから。
イ 色彩的変化はなく、地味で落ちついた深みのある眺めだったから。
ウ 夕暮れどきのぼんやりした中に、連山がたいへん落ちついて美しく見え
たから。
エ 燃えるようなっつじの色とは対照的に、山の緑があざやかだったから。
!読み物
「美しさの発見」[jついて
•高階秀爾
コロンブスは、アメリカ大陸を発見した。
キュリー夫人は、ラジウムを発見した。
「発見」という言葉は、普通このような場合に用いられる。私が小学生の
ころ、『発明発見物語』という本が子供たちの間に人気があって、もちろん
コロンブスやキュリー夫人なども登場してきたが、その中に、「発明」とい
うのは今までになかったものを新しく創り出すことで 、「発見」とは、昔か
らちやんと存在はしていたけれど、誰も気づかなかったものを見つけ出すこ
とだ、というような説明があったと記憶している 。つまり、飛行機はライト
兄弟が「発明」するまで、どこにも存在していなかったが、アメリカ大陸は、
昔からちやんと存在していた。ただ、コロンブスがそれを「発見」するまで
は、西欧人にその存在が知られていなかったに過ぎないというわけである。
だが、それでは「美しさの発見」というのも、やはり同じことだろうか。
山路きて何やらゆかしすみれ草
という芭蕉の一句には、確かにそれまで誰も気がつかなかったような新鮮な
美しさの「発見」がある。セザンヌは、サント・ヴィクトワール山を描き出
した作品で、それまで誰も表現しなかったような新しい美を表現した。我々
は、山道を歩きながら道端にふと一輪の淡い紫色の花を見つけ出したとき、
30 日语综合教程第七册
十七文字の中に凝縮された芭蕉の世界の微妙な戦慄を思い出さないわけには
いかないし、セザンヌの絵を知った後には、それ以前と同じような眼でサン
卜・ヴィクトワール山を眺めるわけにはいかない。コロンブスやキュリー夫
人の「発見」が我々の知識の世界を広げてくれたのと同じように、芭蕉やセ
ザンヌの「発見」も、我々の感受性の世界を大きく広げてくれたに違いない
のである。
しかし、それでは、芭蕉やセザンヌが「発見」したというものは、いつ
たい何なのだろうか。
それがすみれの花そのもの、あるいはサント・ヴィクトワール山そのも
のではないことは、明らかである。それだったならば、それは「発見」の名
に値しないものであったろう。芭蕉はそれまで誰も知らなかった新種の草花
を見つけ出したわけではないし、セザンヌは地図に載っていないような未知
の山を発見したわけでもない。それどころか、サント・ヴィクトワール山
は、昔からプロヴァンス地方の人々にとっては、毎日見慣れている極めて親
しい山であったはずだし、おそらくは逢坂山を越える山道のどこか道端に
ひっそりと咲いていたすみれ草を見つけたのも、決して芭蕉が最初ではな
かったはずである。
それでは彼らは、花や山そのものではなく、花や山に内在していながら、
それまで誰も気がつかなかった何か特殊な性質、ないしは価値を見つけ出し
たと言うべきであろうか。そして、その特殊な性質、ないしは価値が、美し
さと呼ばれるものと考えてよいのであろうか。
もしそうだとすれば、「美しさ」というのは、すみれ草や山から発するい
わば放射能のようなもので、優れた詩人や画家がそれに気づくまでは人々か
ら隠されているが、いったん芸術家がそれを「発見」すれば、人々の眼にも
明らかなものとなり、芸術家はそのエッセンスを凝縮して作品の中に定着さ
せることによって、いっそうはっきりとその姿を人々に提示するのだという
ことになる。
つまり、相手は自然の風物であっても、あるいは芸術作品であっても構
わないが、いずれにしても「美しさ」はその相手のほうにあって、我々は、
何らかの手段でその「美しさ」を受け取る、ないしは感じ取るというわけで
ある。
このように「美しさ」を本質的に対象そのものの持つ属性であるとする
考え方は、はっきりそう意識されてはいないにしても、かなり広く一般に受
け入れられていると言ってよい。
芥川龍之介が小学生のころ、先生が教室で「美しいもの」の例を挙げな
さいと言ったとき、少年龍之介が「雲」と答えて先生に叱られたという話
を、以前どこかで読んだことがある。ほかの子供たちは、「花」とか、「富士
第2課辛夷の花31
山」とか答えたのに、龍之介が「雲」と言ったので、教室中が失笑し、先生
は、雲が美しいものだなどというのはおかしいと叱ったのである。このエピ
ソードは、龍之介が子供のころからいかに鋭敏な感受性の持ち主であったか
ということを示すものとして、しばしば引き合いに出されるが、それと同時
に、先生のほうが—— それと他の生徒たちも——「美しさ」というものを
「花」や「富士山」の中に内在しているある種の性質と考えていたことをも
裏付けている。つまり、ラジウムやウラニウムには放射能があるが、その辺
の道端の石っころには、放射能がないというのと同じで、龍之介がたまた
ま、「美しさ」という放射能をもったものとして「雲」と言ったので、皆笑
い出したのである。
しかし、「美しいものは雲。」と答えたときの少年の心の中に、確かにある
種の実感があったに違いないことは、容易に想像される。我々は、魂が高揚
しているとき、例えば人を愛しているときには、空の雲にも涙を流すことが
ある。詩人というのは、人並み優れた鋭い感受性と柔軟な魂の持ち主だか
ら、普通の人が何とも感じないような平凡なものに、思いもかけず「美し
さ」を見いだすということは、しばしばあるに違いない。だが、もしそうだ
としたら、「美しさ」は、草花や山といった対象にあるのではなく、それを
「美しい」と感じる人間の心のほうにあると言わなければならないのではな
いだろうか。つまり、放射能のようにあるものに属する性質というよりもー
人一人の人間の心の中にふと灯った灯火のようなものではないだろうか 。芥
川龍之介は、「或旧友へ送る手記」の中で、死を決意したときの自然の「美
しさ」を、次のように書いている。
……しかし僕のいつ敢然と自殺できるかは疑問である。ただ自然はこう
いう僕にはいつもよりもいっそう美しい。君は自然の美しいのを愛し、しか
も自殺しようとする僕の矛盾を笑うであろう。けれども自然の美しいのは、
僕の末期の眼に映るからである。
この一文は、川端康成の「末期の眼」というエッセイの中に引かれて特
に有名になったが、ここでは、「美しさ」というものが、はっきりと、「自
然」のほうではなくて、自然を見る「眼」に属するものだという思想が語ら
れている。「美しさ」は、自然の中にもともとあるものではなく、「末期の
眼」で眺められたときに初めて生まれてくるものである。とすれば、芸術家
というのは、生の高揚の最中において、なお常にこのような「末期の眼」を
持ち得る人だと言うこともできるであろう。
「美しさ」というものが、はたして「発見」される以前から対象の中に内
在しているものであるか、あるいは「発見」されたときに初めて、発見した
人の心の中に生まれてくるものであるのかというこの問題は、実は昔から人
間にとって大きな問題であった。もし「美しさ」が対象に内在するものであ
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るなら、我々はその「在り方」を探り、その法則を見いだすことによって、
我々自身でも新しく「美しい」ものを創り出して行くことができる 。それに
対して、もし「美しさ」というものが、もっぱらそれを感得する人の心の問
題だということになれば、「美しさ」の問題はいっそう心理的なものとなり、
我々は、「美しさ」に近づくためには、自分たちの心をいっそう鋭敏なもの
にしなければならないということになるだろう。
『日本近代の美意識』(1986)による
筆者紹介
高階秀爾(たかしなしゅうじ)
1932年、東京に生まれる。美術評論家。1953年、東京大学教養学部卒業。専攻、西洋美術史。現
在、国立西洋美術館館長、東京大学名誉教授。
I注釈
〇 コロンブス(Christophorus Columbus) 哥伦布
❷ キューリ(Madame Curis)夫人 居里夫人
❸ライト(Wright) 赖特
飛行機の発明者、ライト兄弟のことを指す。
〇芭蕉(ばしょう)
松尾芭蕉。江戸前期の俳人。
❺ セザンヌ(Cezanne) 塞尚
フランスの画家(1839-1906)〇後期印象派の巨匠。代表作「サント・ヴィクトワール山」。
❻ サント・ヴィクトワール(Sainte Victoire)山 《圣维克图瓦山》
フランスの画家セザンヌの作品名。
❼ プロヴァンス(Provence)地方 普罗旺斯地区
フランス南東部、ローヌ川下流東部の地方。
❽逢坂山(おうさかやま)
大津市南西部京都市との境界付近の山。
❾すみれ草紫罗兰
すみれ科の多年草。春、葉間に数本の花茎を出し、濃紫色の花を一つつける。
第2課辛夷の花 33
3第 課
ナイン ーー…..
I…本文—…―._..—一…ーー
放送局での仕事が思いがけず早く終わったので 、四ツ谷駅前の新道にある
中村さんの店に寄ってみた〇中村さんは畳屋の主人である〇店は小さいが袅
手に大きな仕事場を持っている。東京で五輪大会が開かれた年の暮れから3
年間、わたしはその仕事場の2階を借りていた。8畳の台所付き食堂に6畳が
2間と4畳半、そのうえ広い風呂場と風通しのいいベランダまであって 、家賃
は月4.5万円だった。当時の相場の2割方は安かったと思うが、それはとにか
くそれほどの間取りを上に載せることができるぐらい中村畳店の仕事場は大
きいのである。その2階にいまは長男の英夫くん夫婦が住んでいる。
中村さんはスポーツ紙を眺めながら、茶筒に入れた煎餅をかじっていたが、
わたしを見ると、
「ここへ来て、おやつをつき合ってやってくださいよ。」
と、針だこで鱈子みたいに膨れあがった指で火鉢の横の畳を軽く打った。ス
ポーツ紙の見出しに誘われて話題は自然に野球のことになったが 、そのうち
に中村さんは急に膝を進めてきて 、
「新道少年野球団は強かったねえ。J
ライオンズもジャイアンツも問題じやないとでもいうような、力の入った
口調で言った。
「なにしろ新宿区の少年野球大会で準優勝したぐらいだから、なみの強さ
じゃなかったな。それも決勝戦を延長!2回までたたかったうえの準優勝だ。
つまり新道少年野球団は優勝したも同じさ。だいたいが優勝チームには投手
が3人もいたんだからずるいや。ひきかえ新道には英夫が1人しかいなかっ
た。しかも午前中の準決勝と合わせてぶつ続けで 19回も投げ通したんだよ。
それも真夏のかんかん照りのもとでの19回だ。英夫も、新道少年野球団も、
ほんとうによくやった。」
「覚えていますよ、あのときのことは。こちらの仕事場の2階を借りて二度
34日语综合教程第七册
目の夏のことですから。」
「すると、あなたも外濠公園野球場へ詰めかけてきなさっていた口か。」
「いや、夕方、放送局から戻ってくると、ちょうどパレードにぶっつかった
んです。」
上智大学の学生がふえ、近くに大会社のビルがいくつも建ったせいで 、道
幅4 メ ートル、長さ100 メートル足らずのこの新道は四谷でいちばんにぎやか
な場所になった。もっとも軒を並べる店は飲み屋に食べ物屋に喫茶店のどれ
かに限られてしまい、客を迎えるだけの、厚化粧だが、なんだか素つ気のな
い小路に化けてしまったこともたしかだ。十七・八年前と同じ店構えでがん
ばっているのは、新道入り口のワイシャツ店と、小路の奥のこの畳店ぐらい
なものである。当時の新道には生活があった。豆腐屋があり、ガラス店が、お
惣菜屋が、ビリヤード屋が、そして主人が会社勤めの普通の家があった。四
ツ谷駅のほうから新道を抜けようとする人は、ゆるやかな勾配の坂を登るこ
とになるが、その坂の真ん中のあたりには歌舞伎役者の大和屋(十世岩井半四
郎)の住居もあって、夏の宵などには、白木づくりの玄関の前の、狭いがよく
打ち水した石畳の上で、大和屋が中学生のお嬢さん2人とよく線香花火をし
ていた。2人のお嬢さんはやがてよく知られた女優になるのだが、ひとことで
言えば、そのころの新道は自足していたのである。たいていの日用品は新道
のなかにある店屋で十分に間に合っており、それらの店屋はまた新道に住む
人たちだけを相手にして、とにかく暮らしが立っていた。新道は、ささやか
にではあるが、しっかりと自給自足しており、そこで小路全体に自信のよう
なものがみなぎっていた。いまはたしかに華やかな小路になっているけれど 、
外からやってくる客の懐中をあてにしないとやってゆけないというところが
見えて、なんだか脆い通りになったような気がしてしかたがない。
「主将の洗濯屋の正太郎くんが、小さな、準優勝のカップを抱いて大和屋の
前を通るところで、わたしはパレードに間に合ったのです。正太郎くんの横
には英夫くんがいた。その後ろで7人が団子みたいにかたまって、くすんく
すんやっていた。ビリヤード屋のおじさんが監督をしていると聞いていたの
に、その姿がなかった。あれ、おかしいなと思った記憶があります。」
「ビリヤード屋の大将は決勝戦がはじまるとすぐ暑気中りを起こしてひつく
り返ってしまったのさ。60を四つも五つも過ぎていたんだから、これは責め
られない。それにしても監督なしで、あの9人、よくも12回までもちこたえ
たものだ。ほんとうに新道少年野球団は強かった。」
「大和屋がお嬢さん2人と出てきて、正太郎くんに御祝儀袋を渡した。その
光景も覚えていますよ。大和屋が『よくやったねえ。おつかれさま。』とねぎ
らうと、それまでくすんくすんやっていた9人が一斉にわ一っと泣き出した。」
「よほど悔しかったのさ。」
第3課ナイン 35
「あの9人はいまどうしていますか。もちろん英夫くんのことはよく知って
いますが。」
「ばらばらになってしまったさ。」
中村さんはちょっと目を伏せた。
F1塁をやっていた洋品屋の明彦は大学を出て会社員になった。洋品屋は地
所を売って千葉のほうへ引つ込んだ。明彦はそこから丸の内の会社に出てい
るそうだよ。2塁のお惣菜屋の洋一は新宿のホテルでコックをやっている。」
中村さんは新道少年野球団のナインのその後の消息によく通じていた。そ
れによると、3塁のガラス店の忠くんはコンピュータ技師、遊撃の文房具店の
光二くんは神奈川の中学校教師、左翼の豆腐屋の常雄くんは埼玉で自動車学
校を経営しているという。
「この近くにいるのは右翼の魚屋の誠だけかな。誠は放送局の前で小料理屋
をやっている。」
「豆腐屋の常雄くんが自動車学校の経営者とは意外でした。あのときはみん
な小学校の六年生、つまりいま、やっと30歳でしょう。その若さで自動車学
校を経営するなんて凄いじゃないですか。」
「タクシーの運転手をしているときに、そこの社長の娘に見染められたらし
いね。で、その社長が自動車学校の経営者でもあったわけさ。」
「なるほど。」
「そういうわけで、みんな新道から出ていってしまったねえ。ここの地価は
高い。三•四十坪の狭い土地でも、処分すれば郊外に家を建てたうえ、びっ
<りするほどのお釣りがかえってくる。だから親たち競争で土地を処分して
しまった。お釣りは老後の資金というわけだね。そうそう大和屋も若葉町の
ほうへ引つ越したよ。」
中村さんはなぜだか、洗濯屋の正太郎くんのことを抜かしてしまっている。
新道少年野球団の4番打者で、捕手で、主将の正太郎のことになぜふれたが
らないのか。
「正太郎のことは口にしたくないんだよ。」
中村さんはこっちの胸のうちを見抜いたように言った。
「あいつの名前を聞いただけでめしがまずくなる。英夫のやつ、あの正太郎
のために畳を85万円分も騙し取られてね、そればかりか、おれが警察に届け
ようとしたら、『それならぼくはこの家を出ていきます。』なんて言って脅か
すのさ。幼友達をかばうのはいいが、それにも限度ってものがある。」
口にしたくないと言いながら、正太郎くんのことに話題が及ぶと、中村さ
んはそれまで以上に能弁になった。2年前の冬、ひょっこり正太郎くんが訪ね
てきて、畳を注文したという。そのときの口上はこうだった。——今度、練
馬にある不動産会社で働くことになった。これまでいろいろと心配をかけて
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きたが、今度こそ性根を据えてやる決心だから、どうかご安心いただきたい。
ところでうちの社は建売住宅をつくって売ってもいるのだが、出入りの畳屋
がぐずな畳ばかりおさめてくるので担当者が弱り切っている。それを見て、
会社に自分を売り込みたいという気もあって 、つい、「畳ならぼくにおまかせ
ください。」と請け合ってしまった。無理を申してすまないが、明朝まで建売
5軒分の畳を都合してはくれまいか。——中村さんはこの口上を眉に唾つけ
ながら聞いていたという。正太郎くんが昔の友達から寸借詐欺をして歩いて
いるという噂を何度も耳にしていたからである。だが、英夫くんに「正ちや
んを信じてやってください。」と頼まれて、息子の親友のためにひと肌ぬぐ気
になった。足りない分は同業者を回り歩いてかき集め、翌朝、トラックに乗っ
てやってきた正太郎くんに引き渡し 、そしてそれっきりだった。
「あのとき、正太郎を警察に渡しておけば、豆腐屋の常雄もあんな苦労をし
ないですんだのにな。常雄は薬を飲んで自殺をしかけたんだ。」
去年の春、正太郎くんは常雄くんの自動車学校に現れた。掃除夫でもいい、
どうか雇ってくれという。そこで常雄くんは旧友を事務員にした。夏、正太
郎くんは事務室の金庫から400万余りの現金を持ち出し、姿を消した。常雄
くんの奥さんも同時に家を出てしまった。正太郎くんはいつのまにか常雄く
んの奥さんとねんごろになっていたらしい。常雄くんは自殺を図り、まもな
く奥さんがぼろぼろになって戻ってきた。
「奥さんはよほどこたえたらしく、生まれかわったようになって常雄につく
しているそうで、それはめでたい。だがね、あの常雄が薬を飲む光景を思い
うかべると、そのたびに涙が出てしかたがない。あいつは弱虫の8番打者で
ねえ、死ぬということをいちばんこわがっている子なんだ。その子が死のう
とした。よほど辛かったにちがいない……〇 J
「それで常雄くんはどうしました。正太郎くんを訴えたんですか。」
「それがやはり正太郎のやつをかばうんだよ。警察へもどこへも届け出な
かったそうだ。」
「新宿区少年野球大会の準優勝チームの主将だった子が 、どうしてそこまで
崩れてしまったんでしょうか。」
「それはおれにもわからない。ただ、洗濯屋はしよつちゅう揉めていたから
ね、大将の女出入りで。そのたびにもの凄い夫婦げんかになり、そのたびに
正太郎のやつは家出をしていたねえ。」
「お父さん、畳の仕上がりを見てやってください。」
皮の肘当てを外しながら奥から英夫くんが出てきた 。
「4時にはもう運び出さなくちやなりませんから。」
「おまえが見て、それでよしということになれば、だれからも苦情は出ない
さ。」
第3課ナイン 37
と言いながらも中村さんは息子が自分を立ててくれていることがうれしい
らしく、身軽に立ちあがり、
「ちょうどいま、おまえたちが正太郎に大甘だって話をしていたところだ。
それにしても新道少年野球団は強かったねえ。」
と奥へ入った。•
「お父さんはまもなく隠居しますね。英夫くんに一目も二目もおいているも
の。いまの会話を聞いていて、そう思いました。」
「だとしたら正ちゃんのおかげかな。」
英夫くんは火鉢に手をかざした。右の指には針だこがいくつもできている 。
「正ちゃんに85万円、騙し取られてからですよ、本気で仕事をするように
なったのは。なんていうのかな、正ちゃんのつくった穴を1日でも早く埋め
なくてはと思い、それで仕事に精を出すようになったというところかな。常
雄にしても、正ちゃんを憎みながら、感謝しているところもあるだろうと思
うんです。父は常雄のことも話したんでしょう。」
わたしは頷いた。
「常雄の奥さんは家付き娘を鼻にかけた高慢ちきな女だったんですよ 。それ
が正ちやんと問題を起こしてから別人のようになったんです 。正ちゃんはー
見、悪のように見えるけど、やはりぼくらのキャプテンなんですよ。結局は、
ぼくらのためになることをして歩いているんだ。」
「決勝戦まで一緒になってたたかうと 、そこまでチームメイトを信じるよう
になるのかな。うーん、わかるような気がする。」
「おじさんにはわかりません。」
英夫くんはわたしを見据えて言った。
「父にもわかりません。父は土手の木陰で試合を見ていただけですから。ぼ
くは中学でも高校でも野球をやっていた。高校3年のときは西東京大会の決
勝まで行きました。でも、あんな思いをしたのは、あのときだけです。」
英夫くんの強い口調に気圧されて、わたしはすこし体を引いた。英夫く
んは軽く唸りながら言葉を探しているようだったが、やがてこう切り出し
た。
「口に出すと、なにもかも嘘になってしまうような気がするんですが 、ええ
と、そう、準決勝も決勝も新道チームのベンチは3塁側でした。ベンチには
屋根もなにもなくて、ただ、木の長い腰掛けが備えつけられているだけで
す。」
四ツ谷駅を新宿側に出て外堀通りをだらだらと市ヶ谷のほうへくだってい
くと三角形の公園がある。そこが外濠公園野球場だ。公園は外堀通りからー
段低い堀を埋めてつくられている。当時は、野球場はまだ金網でかこわれて
はおらず、外堀通りから土手を下りて球場に立つことができた。土手には桜
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