して安全に目的地に到着することができる。これに増すありがたいことはな
い。しかしそれと同碑についその案内記に記してない横道に隠れた貴重なも
のを見逃してしまう機会はまだ多いに相違ない。そういう損失をなるべく少
なくするには、やはりいろいろの人の選んだいろいろの案内記を広く参照す
るといい。ただ困るのは、既にある案内記の内容をそのままにいいかげんに
継ぎ合わせてこしらえたような案内記の多いことである。これに反して、む
しろ間違いだらけの案内記でも、それが多少でも著者の体験を材料にしたも
のである場合には、存外何かの参考になることが多い 。
しかしいくら完全でも結局案内記である。いくら読んでも暗唱しても、そ
れだけでは旅行した代わりにはならないことはもちろんである 。
案内記が系統的に完備しているということと 、それが読む人の感興をひく
ということとは全然別なことで 、むしろ往々相いれないような傾向がある。
いわゆる案内記の無味乾燥なのに反して優れた文学者の自由な紀行文やある
いは鋭い科学者のまとまらない観察記は、それがいかに狭い範囲の題材に限
られていても、その中に躍動している生きた体験から流露するあるものは、
直接に読者の胸にしみ込む、そしてたとえそれが間違っている場合でさえも、
書いた人の真を求める魂だけは力強く読者に訴え、読者自身の胸裏にある同
じようなものに火をつける。そうして記された内容とは無関係にそこに取り
扱われている土地そのものに対する興味と愛着を呼び起こす。
専門の学術の参考書でもよく似たことがある。何かある題目に関して広く
文献を調べようという場合にはいろいろなエンチクロペディやハンドブーフ
という種類のものはなくてならない重宝なものであるが、少し立ち入って本
当のことが知りたくなればもうそんなものは役に立たない。つまりは個々の
オリジナルの論文や著書を見なければならない。それでこのような参照用の
大部なものを、骨折って始めから終わりまで漫然と読み通し暗唱したところ
で、既になんらかの「題目」を持っていない学生にとっては極めて効果の薄
い骨折り損になりやすいものである。またこんなものから題目を選り出すと
いうことも、できそうでできないものである。これに反して個々の研究者の
直接の体験を記述した論文や著書には、たとえその題材が何であっても、そ
の中に何かしら生きて動いているものがあって、そこから受ける暗示は読む
人の自発的な活動を誘発するある不思議な魔力を持っている。そうして読者
自身の研究心を強く呼び覚ます。こういう意味からでも、自分の専門以外の
題目に関するいい論文などを読むのは決して無益なことではない。
それで案内記ばかりに頼っていてはいつまでも自分の目で見ることはでき
ないが、そうかといってまるで案内記を無視していると、時々道に迷ったり、
ことによると滝つぼや火口に落ちる恐れがある。これはわかりきったことで
あるが、それにかかわらず教科書とノートばかりを頼りにする学生がかなり
第8課案内者 139
多数である一方には、また現代既成の科学を無視したために、せっかくいい
考えは持ちながら結局失敗する発明家や発見者も時々出てくる 。
考えてみると案内者になるのも被案内者になるのもなかなか容易ではない 。
すべての困難は「案内者は結局案内者である。」という自明的な道理を忘れや
すいから起こるのではあるまいか 。
景色や科学的知識の案内ではこのような困難がある。もっと違ったいろい
ろの精神的方面ではどんなものであろうか。こっちには更に甚だしい困難が
あるかもしれないが、あるいはことによるとかえって事柄が簡単になるかも
しれない。そこには「信仰」や「愛情」のようなものが入り込んでくるから
である。しかしそうなるともう私がここに言っているただの「案内者」では
なくなって、それは「師」となり「友」となる。師や友に導かれて誤って広
野の道に迷っても恨みはないはずではあるまいか 。
『新版現代文』(尚学図書)による
筆者紹介
寺田寅彦(てらだとらひこ)
物理学者•随筆家。東京生まれ(1878-1935)〇筆名は吉村冬彦(よしむらふゆひこ)•藪柑子(やぶ
こうじ)など。東京大学教授。物理学・地球物理学・地震学•気象学•海洋学などの研究に従事す
るかたわら、夏目漱石に師事し『団栗』『竜舌蘭』など写生文や小品に新生面をひらいた。主な随
筆作品に『冬彦集』『藪柑子集』『万華鏡(カレイドスコープ)』『柿の種』『蒸発皿』『触媒』『橡の実』
などがある。
写注釈
❶中学
旧制で、男子の高等普通教育が行われた学校。修業年限五年。
❷黒谷(くろだに) 金戒光明寺
京都市左京区にある金戒光明寺のこと。
0 金閣寺(きんかくじ)
京都北山にある臨済宗の鹿苑寺の別称。足利義満が西園寺家の邸宅を譲り受け、別荘として造園
した北山殿を、遺命により寺とした。,
!新しい言葉
海浜(かいひん) [名] 海べ。浜べ。/海滨,海边。
140日语综合教程第七册
形勝(けいしょう) [名] ①地勢や風景の優れていること。また、その土
地。/名胜;风景优美(的地方)。②要害の地。/险
オーソリティ(authority)[名] 要之地,形胜之地。
権威。その道の大家。/权威,泰斗。
賽(さい) [名] ①さいころ。/色子。②神仏へのお礼参り。/香
资,香钱。
機縁(きえん) [名] ①仏の教えを受ける衆生の能力(機)と、衆生と仏
との関係(縁)をいう。/(佛教用语)机缘。②きっ
どうにか [副] かけ。機会。/机会,机缘。
①十分ではないが、一応は。まがりなりに。/勉
アカデミック(academic)[形動] 勉强强,好歹,总算。②辛うじて。なんとか。/
设法,好歹想个办法。
オーソドックス [名・形動] 純粋に学問的なこと。学究的。/学究式的;空谈
(orthodox) 的;学术的,学问的。
①正統派。伝統派。/传统派,正统派。②(伝統的
とんでもない [形] な教養、学説、方法論を受け継ぐさま)正統的。伝
統的。Z传统的,正统的。
違算(いさん) [名] ①とても考えられない。思いがけない。/意外的,
没想到。②(相手の言葉を強く否定して)そんなこ
感興(かんきょう) [名] とはない。冗談ではない。/哪里的话。③とがめ
てんで [副] るべきだ。けしか、らん。/毫无道理,岂有此理。
①計算を間違うこと。勘定違い。/算错。②予想、
ありがち(有り勝ち) [名・形動] 計画などが狂うこと。見込み違い。/估计错,计
划错误。
ヘテロドックス [名] 興味がわいてくること。またその興味。おもしろ
(heterodox)
み。Z兴致,兴趣。
行李(こうり) [名] ①(下に打消し又は否定的なの語を伴って)はじめ
から。あたまから。全然。まるっきり。/丝毫,完
全,根本。②(くずれた使い方で)非常に。とても。/
非常,特别。
世の中によくあること。またその様子。/常有
(的),常见(的)。
(オーソドックスの対義語)正統から外れているこ
と。またその時代において正統とは認められない
思想、信仰、学説など。/异端,邪说。
①旅行の荷物。/ (旅行)行李。②(柳や竹で編んで
作られた)衣類などを入れるのに用いるかぶせ蓋
っきの入れ物。/柳条箱,箱笼。
第8課案内者141
享楽(きょうらく) [名・他サ] 快楽を十分に味わうこと。/享受,享乐。
まがりなりに(も) [副] 不十分ではあるが。完全ではないが。どうにかこ
うにか。/好歹,勉勉强强。
変わり者(かわりもの) [名] 性質や言動が普通とは違った人。変人。/奇特的
人,怪人,怪物。
ベデカ(Baedeker) [名] ドイツの出版業者、ベデカー(1801-1859)発行の
旅行案内書。転じて、広く案内書の意。/方艮行指
アンダーライン [名] 南‘导游手册。
注意を引くため、又は備忘のために、横書きの字
(under line) [名・他サ] 句の下に引く線。下線。/字下线,下划线。
名状(めいじょう) [名・自サ] 状態を言葉で表現すること。/名状,表达。
付随(ふずい) 従属的な関係にあること。付き従うこと。/附带,
附随。
故実(こじつ) [名] 法令・儀式•作法•服装などについての古代の習
わし。/古代的典章制度;掌故。
よしあし(良し悪し) [名] ①よいことと悪いこと。善悪。/好坏,善恶。②
よい点も悪い点もあって、一概にどちらとも言え
ずさん(杜撰) [名・形動] ないこと。/很难说好与坏;有利也有弊。
①(「ずざん」の訛)著作などのよりどころが不確
什物(じゅうもつ) [名] かで、いい加減なこと。/杜撰,臆造。②物事の
仕方がぞんざいで手落ちが多いこと。/粗糙,不
品々(しなじな) [名] 细致;草率。
①日常生活に使う器具。/日常用具,什物。②由
なんぞ(何ぞ) [連語・畐叮 緒(ゆいしょ)のある秘蔵の宝物。什宝。/秘藏的
宝物。
たいがい(大概) [名・副] ①さまざまの物。/各种各样的东西。②(副詞的に
用いる)いろいろ。さまざま。/形形色色,各种各
样。
(不定のあるものを表す「なに」に助詞「ぞ」が
ついた形「なにぞ」の転じたもの)①任意の、ま
た不確定のもの•ことをさす。なんか。なにか。/
什么。②(助詞「や」或いは「か」について)不特
定のあるものをさす。なんか。なにか。/何也。③
(文語・副詞)反語の意で用いられる。/岂,焉。④
副助詞「など」と同じ意味。/什么的,之类。
① (物事の)あらまし。大体。概略。/梗概,概略。
② ほとんど。大部分。/差不多,大部分。③(副詞)
(物事の大体の様子)たいてい。おおよそ。/大体,
142 日语综合教程第七册
大概,十有八九。
ありあり [副] ①考えや気持ちなどがはっきりと外に現れている
器物(きぶつ) さま。/清清楚楚,明明白白;如实。②(夢や思い
ずんずん
蔵する(ぞうする) 出など)現在起こっていることのようにはっきり
どおし(通し)
無用(むよう) 心に浮かぶ様子。/活现,逼真。
おち(落ち) [名] うつわ、道具の総称。/器具,器皿。
立ち入る(たちいる) [副] 物事がとどこおりなくはかどるさま。速く進むさ
継ぎ合わせる(つぎあ ま。どんどん。/不停滞地,迅速地。
わせる)
[他サ] ①家に収め貯える。所蔵する。/储藏,收藏。②
存外(ぞんがい)
相容れない(あいいれ 内に含み持つ。心の中にいだく。/包藏,含有。
ない) [接尾] ある期間において、同じ動作や状態が続く様子を
躍動(やくどう)
表す。/一直。
流露(りゅうろ)
胸裏(きょうり) [名・形動] ①役に立たないこと。/没用处,无用(的)。②必
要がないこと。/无需,没必要。③用事がないこ
と。/没有事。④(ほかの語について)「〜してはな
らない」、「禁止」の意味を表す。/不得,禁止。
[名] ①行き着くところ。結末。/(不好的)结果,结局。
② あるべきものが抜けること。もれること。手落
ち。/遗漏,疏忽;差错。
[自五] ①ある場所に入る。/进入。②(ある物事、問題の
核心にむかって)深いところまで入り込む。/深
入。③他人の生活、感情又は事件などにかかわ
る。/介入,干预。
[他ー] ①つないで一つにする。/连接,拼合在ー起,粘
上;焊接。②縫い付けて一つにする。/缝合在ー
起。
[副・形動] 予想と食い違うこと。思いがけないこと。案外。Z
出乎意外,没想到。
[連語] (ものの考え方、立場、内容などが)相反して一緒
に成り立つことができないこと。/势不两立,不
相容,不合。
[名・自サ] 力強く、生き生きと動くこと。生き生きとして勢
いのあること。/跳动,跃动;(热血)沸腾;(朝气)
蓬勃。
[名・自サ] 気持ちなどが隠れずに現れること。流れ出て現れ
ること。/流露。
[名] 胸の中。心の中。/胸中,心里,内心。
第8課案内者143
エンチクロペディ [名] 「エンサイクロペディア」の略語。百科事典。!
(encyclopedia) 百科全书。
ハンドブーフ(Handbuch)[名] 手引き書。案内書。便覧。/指南,便览,手册。
重宝(ちょうほう) [名・他サ・形動]①(名)大切にしているもの。貴重な宝物。/珍
宝,宝物。②(他サ)大切なものとして扱うこ
と。/珍惜,珍爱。③(形動)使って便利なこと。
使って役に立つこと。/便利;适用,有用。
オリジナル(original) [形動・名] ①独創的であること。/独创的,创新的。②(美
術、文芸作品などで、複製したり手を加えた
りしたものに対して)もとの作品。原作。原
型。/原作,原文,原型。③(新しく書き下ろ
した)脚本。創作。/(创作的)剧本。
骨折る(ほねおる) [自五] ①精を出して働く。/努力工作,卖カ。②尽力
する。努力する。/尽力,帮忙。
漫然(まんぜん) [形動] 特にこれという目的や意識を持たず、ただ何
となく物事をする様子。とりとめのない様
骨折り損(ほねおりぞ [連語] 子。/漫无边际,漫不经心,漫然。
努力したことが無駄になること。/徒劳,白费
ん) 劲。
選る(える) [他五] 基準に合うものと合わないものとを分けて取
捨する意味。/挑选,选择。
何かしら(なにかしら) [連語] (「何か知らん」の略)①(副詞的に用いられる)
何か分からないが、どことなく。/不知为什么
总觉得。②(「何か」の強調形)なんだか分から
ない、あるもの。なにか。/某ー种;什么。
誘発(ゆうはつ) [名・他サ] あることが原因になって、ほかの事を誘い起
こすこと。/引发,引起。
魔力(まりょく) [名] 人を迷わす怪しい、不思議なカ。/魔力,魅力。
滝つぼ(たき壷) [名] 滝の水が落ち込む深いふち。/瀑布潭。
火口(かこう) [名] ①火事の火の燃え始まった場所。火元。/(火
灾的)起火地点,火源。②(あんどん、かまど
などの)火をつけるためのロ。/(灯笼、灶的)
点火口。③(火山の)噴火口。/(火山的)喷火
ロ。④鉄砲の火気を筒に通す穴。/(枪炮的)火
自明(じめい) [名・形動] 门。
何らかの証明を要らず、それ自体ですでに明
白なこと。/自明;显然。
144 日语综合教程第七册
学習の手引き
❶ 旅行の目的地を決めるときの一般的でない方法とは何か。
❷ 旅行の目的地を決める二つの方法を対照してみること。
❸ 案内記の利点と欠点を見つけ出すこと。
❹ 名所の案内者の弊害について注意して読み取ること。
❺ 学校教育や参考書と案内書、案内者との共通性をまとめてみること。
❻ 案内書の内容とそれを読む人の反応について注意して読むこと。
❼筆者の人間性について考えてみること。
❽筆者の人生観について考えてみること。
言葉と表現
w二力気に向くままに(連語) 随心所至,喜欢 !
自分の好みや望みに合う。心にかなう。気に入る。
❶ 案内記などにはてんで構わないで飛び出してゆく。そうして自分の足と眼で
自由に気に向くままに歩き回り見て回る。(我外出旅游,根本不受旅游手册的
束缚。而且,喜欢用自己的双脚和眼睛,随心所欲地到处游览 。)
❷ 作品の制作、販売状況や、その作品を通じての出来事等を気に向くままに書
き綴っていきたいと思っております。(我希望能够按照我自己的意愿,把作品
的制作和销售状况,以及由该书而引发的事情都串写下来。)
❸ 見廻りの途中で急に嫌になり、気に向くままに進路を変えながら歩いていた
らいつの間にか海に辿り着いていた。(在游览的途中,忽然感到厌倦起来,于
是随心所至不断改变行进的线路,走着走着,不知不觉来到了海边 。)
〇 酒や本、アクセサリーなど、「生存」するのには不必要だけれど、それがな
いと人牛がつまらなく感じるものについて気に向くままに書いているブログ
です。(酒、书和装饰品,这些东西对于“生存”来说并非必须之物,但若没
有,就会感到人生毫无生趣。这篇博客,便是关于这些感受的随心之作。)
上さ 巣をくう(すを構う)(瀆甬面)「©鋭黛,!<窗。②盘踞,梱居。]
③(某个愿望、想法)一直在脑海里エ
「構う(くう)」は構える意の古い言い方。今日では「巣くう」と一語で言う方
が一般的である。①鳥や昆虫が巣を作り構える。巣を掛ける。②良俗に反する
ような人々が、活動の根拠地を構える。③願望などが心の中にしっかりと入り
第8課案内者145
込む。ある考えが心の中に根付く。
❶ こうした大事業には、地方自治体に巣をくう輩と、ゼネコンと、その手下が
利権の為に暗躍しています。(对于这类大项目,盘踞在地方政府内部的党群、
总承包商及其爪牙,都在为利权而暗中活动着 。)
❷ 企業をだめにする害虫や寄生虫が巢をくうところ、そんな温床をすぐに潰
したいものだ。(真想马上就把那些危害企业的害虫、寄生虫栖居的温床捣
毁。)
❸ しかしどうしてもこの天文台に登りたいという一念は幼レ、胸に巣をくった。
(然而,他幼小的时候心里就一直想着:无论如何也要去攀登这座天文台。)
❹ ただ、社会の既得権に巣をくう病巣をぶち壊したいだけですC (我只想彻底摧
毁栖居在既得利益上的病巢 。)
❺ いわば地方行政機構のまわりに巣をくっておる団体がたくさんあるわけで
す。/可以说地方行政机构的周边,有很多筑巢而居的团体 。
整それがために(連語)因此:正因为如此 !
「それ」は指示語で、前に述べたことを指し、「ため」は「原因•理由」を表
す。「それがゆえに」と置き換えることができる。「そのことが原因、理由となっ
て」の意。
❶自宅に帰り着くのが遅れてしまった。それがために、翌日はいつもの時間
に起きられなかった。(回到家里已经彳艮晚了。因此,第二夭就没能像往常那样
按时起床。)
❷拒絶に対して極端な感受性を示し、それがために、社会的に引きこもります
が、非社交的なのではなく、人と交際することを強く望むが、恥ずかしがり
やだという感じです。(这些人对拒绝表现出极端的敏感,正因如此,他们对外
界是自我封闭。其实,并不是他们不善于社交,他们对交际有着强烈的愿望,
只是让人觉得有点腼腆。)
❸子供も片方の目がよく見えるので、生活に不自由を感じない。親もそれがた
めに気がつかない、というのが一番困るケースなのである。(孩子因为ー只眼
睛视カ好,生活上并没有感到不便。正因如此,父母也没有察觉。这种情况最
麻烦。)
❹大学改革を推進し、専門大学院を充実させて、大学のレベルにおいても世界
の最高水準の研究力を維持すべきです。それがためには、教育分野における
適切な「競争政策」の導入は不可欠だと考えます。(我们必须推进大学改革,
充实专业性的研究生院,在大学这ー级别上,也要维持世界最高水准的研究能
カ。因此,我认为,在教育领域引进适当的“竞争机制”是必不可少的。)
146日语综合教程第七册
❺ 赤ん坊から100歳のお年寄りまで2人に1人は携帯かPHSを持っている勘定
になります。それがために、公衆電話がどんどん撤去されています 。(据测
算,从婴儿到百岁老人,每两人中就有1人拥有手机或小灵通。因此,公用电
话就不断被撤除了。)
上毀ーまがりなりにMも(連證)一奧勉弓虽英—好歹,…扇算 !
名詞「曲りなり」は、曲がった形、不完全な形という意味。「まがりなりにで
も」は名詞「曲りなり」をもとにして作られたことばで、副詞的な働きを持つ
連語である。また、「まがりなりにも」の形で副詞として用いられることもある。
「不完全ではあるが」「十分とはいえないが」「どうにかこうにか」の意味を表す。
「〜にでも」の形は、極端の意味を強める働きを持つ。
❶ 今回も、まがりなりにでも何とか幹事をやりとげ、楽しい大会にしたいもの
です。(这一次我还是要尽力当好干事,把大会举办得精彩,快乐。)
❷ 子供たちにコンピューターの操作を、まがりなりにでも覚えてほしいなと、
中古のパソコンを集めました。(心想,好歹也要让孩子们学会电脑操作,于是
就收集了些二手电脑。)
❸ そんな自分がまがりなりにでも1年ひとつのことを続けてこられたのは、ひ
とえに読者のみなさまのおかげです。(连我这样的人也能勉强坚持一年完成一
项工作,这全靠读者对我的支持。)
❹ まがりなりにも文章を書いて生計を立てている身にとって、自分の文章の善
し悪しはいつも気にかかるものである。(对于靠写文章才能勉强维持生计的我
来说,总是很在意自己文章的好坏。)
❺ 僕がまがりなりにもプロというか、ギターを弾いてお金をもらって生活し
始めたのは高校を出てすぐのことで、場所は京都でした。(高中一毕业,我
就成了专业吉它手,或者说好歹可以靠弹吉它挣钱生活了 。那是在京都的事
情。)
燮^動詞連用形+どおいこ+同一動詞 不停地…,拼命地… :
ある期間同じ動作をずっと続ける様子を表す。
〇 東京駅に着いたら彼と別れようかどうしょうかと思って 、その電車の中で
私は泣きどおしに泣いていた。(当我想到,到了东京车站是跟他说分手呢?还
是不分手,于是我痛哭了一场。)
@ お嫁入りの支度もそこそこに、お母様と一緒にこのアウリスの浜まで馬車を
駆けどおしに駆けてきました。(我匆匆地做了些结婚的准备工作后,就立刻和
母亲ー起马不停蹄地赶着马车来到了奥丽斯的海滨〇)
第8課案内者147
❸ 仕事におわれ、働きどおしに働いて、体に疲れを感じる人。(忙于工作,拼命
工作、觉得疲惫不堪的人。)
❹ 走って、走って、ずっと走りどおしに走って戻ったんだC (跑啊,跑啊,一直
不停地跑,オ回到了这里。)
❺ あの婆さんはその日、食いどおしに食い、駆けつけた人たちをゲラゲラ笑わ
せ、アレコレ身のまわりのものを整理して、翌日コロッと死んだ。(那一天,
那个婆婆拼命地吃,把赶来的人逗得哈哈大笑,又把身边的ー样样东西收拾了
一下,第二天就忽然过世了。)
丄0 火をつける(慣用句) 激励,激发
「火をつける」は慣用句で、普通は、点火するとか、騒ぎのきっかけを作った
り、刺激して怒らせたりする場合に用いられるが、本文では、「相手に刺激を与
えて、やる気を引き起こす」という意味を表す。「心に火をつける」の形が比較
的に多い。
❶ この人のために何かをしてあげようという気持ちが出てこなければ、心に火
をつけようという気持ちにはならないだろう。(如果不想为这个人做点什么,
大概就不会产生激励他的想法吧。)
❷ 19世紀の英国の哲学者ウィリアム・アーサー ・ワード氏は「凡庸な教師
はしゃべる。良い教師は説明する。優れた教師は示す。偉大な教師は心に
火をつける」と言った。(19世纪的英国哲学家,威廉•阿瑟・沃德说:“平
庸的老师说教,好的老师说明,优秀的老师演示,伟大的老师激励学生学
习。っ
❺ この合宿は命に火をつける合宿として、師友塾の合宿プログラムでも一番人
気の高い合宿です。(这次集训作为激发生命意志的集训,在师友塾的集训计划
中是最受欢迎的。)
❹ 誰もが持っているはずの情熱に火をつけるには、どうすればよいか。(如何才
能激发起人人都拥有的激情呢?)
0 あなたの決意に火をつける質問がぎっしりと詰まった本書を片手に、人生を
一歩前に進めてみませんか。(本书提了许多激发你决心的问题,带着它,在你
的人生道路上向前迈出ー步吧。)
上或ことによると可能…,也许… j
慣用句的に固定した表現で「もしかしたら」「ある条件のもとでは」という意
味を表す。後ろには推測を現す表現が続く。「ことによったら」「場合によった
ら」の形も用いられる。
148 日语综合教程第七册
❶ ことによると、皆さんの参考にもなるかと思いますので、文章力を鍛えるの
に助けともなろうかというページをご用意させていただきました 。(或许能为
大家提供一个参考,因此,我准备了这些资料,希望能有助于各位写作能力的
提高。)
❷ ことによると、宇宙を科学的に理解しようとするわれわれの探究にとって、
最大かつ突出した障害かもしれない。(对我们人类想要科学地去理解宇宙的探
索来说,这也许是最大最突出的障碍。)
❸ ことによると、その中には、あまりの混雑に見学をあきらめた人がいたので
はないかと、今にして思ったりもする。(事到如今,我觉得:也许他们中间就
有人因为过于拥挤而放弃了参观学习 。)
練習
ー、次の言葉を覚えなさい。 アカデミック 骨折り損 山あい 選る
オーソドックス 賽 オーソリティ はかない てんで 什物
ヘテロドックス 杜撰
二、次の日本語を中国語に訳しなさい。
/•どこかへ旅行がしてみたくなる。しかし別にどこという決まったあてがない。そ
ういう時に旅行案内記のたぐいをあけてみると、あるいは海浜、あるいは山あ
いの湖水、あるいは温泉といったように、行くべき所がさまざまありすぎるほ
どある。
2こういうやり方はいわばアカデミックなオーソドックスなやり方であると言わ
れる。これは多くの人々にとって最も安全な方法であって、こうすればめった
に大きな失望やとんでもない違算を生ずる心配が少ない。
3. まがりなりにでも自分の目で見て自分の足で踏んで、その見る景色、踏む大地
と自分とが直接にぴったり触れ合う時にのみ感じ得られる鋭い感覚を味わなけ
れば何にもならないという人がある。
4. その説明がいかにも機械的で、言っている事柄に対する情緒の反応が全くなく
て、説明者が単に決まっただけの声を出す器械かなんぞのように思われるのが
よほど珍しく不思議に感ぜられた。
5. 案内記が詳密で正確であればあるほど、これに対する信頼の念が厚ければ厚い
ほど、我々は安心して岐路に迷うことなしに最小限の時間と労力を費やして安
全に目的地に到着することができる。
6. これはわかりきったことであるが、それにかかわらず教科書とノートばかりを
頼りにする学生がかなり多数である一方には、また現代既成の科学を無視した
第8課案内者 149
ために、せっかくいい考えは持ちながら結局失敗する発明家や発見者も時々出
てくる。
三、 本文の内容に基づいて、次の質問に答えなさい。
I. 旅行案内記、案内書には2種類のものがあるが、それぞれどういう特徴がある
か。
2「大きな失望やとんでもない違算」とあるが、具体的にはどのようなことが考
えられるか。
3. 「ヘテロドックスのやり方」とは、どのような方法なのか。
4. 「ヘテロドックスのやり方」の長所と短所を挙げてみなさい。
5. 案内の小僧さんの説明が機械的で、情緒の反応がまったくないとあるが、そう
なった理由を述べてみなさい。
6. 「たくさんの見るべきもの」とは何か。
7. 「学校教育を受ける」と「案内者に手を引かれて歩く」はよく似ているとある
が、「知識」の授受という点ではどうか。
8. 「そういう損失」とはどのような損失なのか。
9. 筆者は「体験」を重視する理由は何か。
10.「体験」を重視するという点から見れば、学問に対する筆者の態度を述べてみ
なさい。
II. 「往々相容れないような傾向がある」とは、どのようなことなのか。
12. 「個々のオリジナルの論文や著書を見なければならない」とあるが、その理由
を述べてみなさい。
13. 「いい論文」とは、どのような論文なのか。
14. 案内者と被案内者の困難をそれぞれまとめてみなさい。
15. 精神的な面では、「かえって事柄が簡単になる」とあるが、その理由をまとめ
てみなさい。
四、 次の文章を読んで、後の質問に答えなさい。
① 「書物とはすべて人間の思想が凍ったものだ。そして真の読書とは僕らがおのおの『胸
中の温気』で氷を溶かしてみることだ」という意味のことを二宮尊徳が言っているが、
おそらくこの比喩は正確である。
② 僕らが書物をひも解くのは、そのなかに生きる著者の精神に接することである。さら
に一歩を進めて言えば、その著者の精神に、時と所の隔てを離れて、自ら生きてみる
ことである。もしそうでなければ、読書がこれほど長い間、多くの人々によって最上
の楽しみとされたはずはない。またそれが人間の修業の一手段として重視されて来た
わけもない。そしてこの場合大切なのは尊徳の言葉を借りれば、僕らの©「胸中の温
気」である。なぜなら元来が死物である書物はただ僕らの心の熱情に触れたとき、生
150 日语综合教程第七册
物として蘇るのであり、また書物が本当の意味で人間の生活に役立つのは、ただそれ
を僕らが生物として感ずるときだけであるからである。
③ このことは単に文学や宗教哲学の書物だけでなく、真の科学書についても言えるはず
である。おそらく読者の「胸中の温気」に応える生命を持たぬ書物はすべて単なる
(A )の知識の倉庫にすぎない。
④ 書物にとって読まれることは読者の心に生きることである。そしてここに成就された
一種の生命の復活を通じて行われる心と心との交渉に書物が真に人間を動かし得る秘
密があり、読書の真の魅力の源泉があろう。(B )世の一部の人々が言うように読
書の術というようなものがあるとしたら、その術の根本はここに尽きているはずであ
る。真の読書家とは例外なく曲書物を蘇らせるに足る「胸中の温気」を持ち、©これに
自分の心を通わす術を知った人である。そうしてこうした真面目な(C )積極的な
精神の作業の対象となり得たとき、書物は初めてその真実の魅力を僕らに明かしてく
れる。なぜなら人間には真剣にできることだけが、結局一番面白いからである。
⑤ そして、以上述べたように書物を生物と感ずることにおよそ読書の与える最も強い喜
びの源泉があり、またその最初の秘訣があるとすれば、僕らの書物に対する態度はお
のずから実生活で人間に対する態度に近づいて行くはずである。
⑥ すなわち僕らがある書物に対して抱く尊敬や共感や反撥ないしは軽蔑は、その本質に
おいて僕らが身近な周囲の人々に持つ活きた感情と何ら変わらぬはずである。ただ書
物の世界においては、僕らはこうした感情を実生活の動揺を離れて純粋に結晶させる
ことができる。またおのおのの実生活では、とうてい望めぬような優れた人々に自由
に出会うこともできる。これはすでに言い古された平凡な事柄であるが、書物が人間
の生活にもたらす最大の利益は、結局ここに帰着するのではなかろうか。
dD 文章中の(A )に入れる最も適当な、漢字2字のことばを、②段落の文章
の中から捜して書きなさい。
(iB 文章中の(B )と(C )に入れることばとして最も適当なものを、次の
ア〜才のうちから一つずつ選んで、記号で答えなさい。
ァもし イむしろ ウしかし 工しかも 才なぜなら
B( ) C()
dB 文章中の下線部匹)「胸中の温気」と同じような意味で使われている部分(4文
字)を、②段落の文章の中から捜し、抜き出して書きなさい。
dD 文章中の下線部⑧「書物を蘇らせる」と同じような意味で使われている部分
を、①段落の文章の中から捜し、8文字以内で抜き出して書きなさい。
第8課案内者151
OD 文章中の下線部©「これ」が指している部分を文章の中から抜き出して書き
なさい。
<fflB この文章の「段落の関係」を述べた次の文の( )にあてはまる段落の番
号を書きなさい。
①段落の「尊徳の比喩」の正確さを、理由づけをしながら説明している段落
は( )と( )の段落である。
(BB この文章はどのようなことを中心に説明しているか、次のア〜エのうちから
最も適当なものを一つ選んで、〇を付けなさい。
ア 書物は、すぐれた人間の思想が結晶したものであり、読書は人間修業の
ー手段として重視されてきたということ。
イ 読書は、積極的な精神の働きで書物の生命を復活させ、心を通わせるこ
とによって喜びが得られるということ。
ウ 真の読書家とは、時と所の隔てを越えて、自由に優れた人々と出会う術
を完全に身につけているということ。
工 書物に対する態度は、実生活の身近な周囲の人々に対して持つ感情や態
度と変わってはならないということ。
読み物
別れを決意する妻たちの言い分
•橘由歩
なぜだ、なぜだと自問する「地獄のような」眠れぬ夜が続き、食欲も落
ち、うつ病と診断された。「心境の変化」に至れたのは、2年半の月日が症
状を緩和してくれたからだった。
大手銀行勤務の高橋史也さん (仮名・47歳)は、2003年6月、20年連れ添っ
た妻が子供を連れて家を出て以来、都内の一戸建ての「マイホーム」に1人
で暮らしている。妻から離婚を申し立てられたが応じず、婚姻費用分担金
19万円を毎月、妻に送る日々。妻はパートで働き、子供2人を育てている。
「家内は裁判所で婚姻関係の破綻が認められ、離婚が成立するまで待つそ
うです。僕はやり直したいと主張し続けていますが……。家内は一貫して、
僕に会うことを頑なに拒んでいます」
152日语综合教程第七册
5歳年下の妻とは職場結婚だった。妻は望んで専業主婦になった。3年後
に長女、六年後に次女が生まれ、高橋さんは一家4人の暮らしに、何の綻
びも感じてはいなかった。
「毎日帰りは遅いのですが、結婚記念日、子どもの誕生日など記念日を
ずっと大事にやってきたし、家族旅行も半端じやなく行きましたよ」
さすがに来年に迫った、年金分割が頭をよぎる。「このまま離婚しないで、
年金を半分取られるのもつらいかなと。問題は、2008年ですが」と本音が
漏れる。2008年4月1日からは合意なしで、自動的に年金を分割できるよう
になるのだが、対象はあくまで、この日以降に納めた年金に限定される。60
歳を間近に控えた世代にとって「2008年」はさほど関係ないが、40代の高
橋さんには気がかりなのだ。
高橋さんはしきりに、「妻の気持ちがわかっていなかった」と反省する。
「今、思えば家内ともっと会話をすべきでした。家内に感謝していたけれど
も、きちんと言葉で表現すべきでした。僕は家内のことをとても尊敬して
います。家内は明るくて、社交的で料理も上手で、教養もあり、子育ても
一生懸命でしたから。ただ、僕の仕事はものすごく激務だったので、心に
ゆとりがなかった。せめて家では、安らぎたかっただけなんです」
一方、妻はどんな気持ちを抱えて暮らしていたのだろう 。ここに妻から
の離婚申立書3枚、夫の答弁書11枚がある。一つ屋根の下で夫婦として20
年もの年月を生きていながら、お互いに見えていた世界は何と違うことだ
ろう。無機的な書類から浮かび上がるのは、夫婦の乖離というべきものだっ
た。
妻はその冒頭、「上司と部下という上下関係が、そのまま維持された夫
婦」と記す。妻にとって、そこが始まりであり、離婚へ至るすべてがそこ
に収斂されていた。しかし、高橋さんにとって、それは瑣末な誤解にすぎ
ない。「全然違うんですよ。その部署では、彼女が先に配属されたから、い
わば先輩なんです。だって上司が部下に手を出しちや、さすがに問題で
しょ」
高橋さんは笑いながら、社内力学をこと細かく説明してくれる。
妻は、「何かあると常に責め立てられ、反論すると激しい怒りを露わにす
るので従わざるを得ない」「夫は自分を第一に考え、意の赴くままにするよ
う、指示・命令し、気に入らなければ暴言で責め立て、反省文を書かせ(中
略)、精神的に追いつめていった」と続ける。
高橋さんがただ安らぎを求めていた家庭は、妻の側から見れば、「精神的
にも経済的にも日常的にも縛られており 、婚姻生活は常に緊張と従属を強
いるもの」だったというわけだ。
第8課案内者153
夫側の反論をここで要約しておく 。責め立てたのは「あらかじめ、して
ほしくないとお願いしていること——大きな声を出さない、子供に感情を
ぶつけない、会社から帰宅した時は早く安堵したいので着替えが済むまで
話しかけないでほしいなど—— を、妻が忘れるので怒るのであって、非が
ない人に当たり散らすのとは違う」、さすがに反省文は独りよがりだったと
反省しているが、「妻の行動を縛ったつもりはない。家内からの相談事で、
ほしいと言えば携帯電話を買い、パソコン教室に行きたいと言えばどうぞ
と言い、教習所に通わせ、クレジットカードも持たせ、朝、会社に行き、夜、
会社から戻ってくるまで、ほとんど妻の好きなように行動させていた」と。
お気づきだろうか。この表現に夫婦のありようのすべてが凝縮している。
さらに妻は、言葉の暴力によるPTSD(心的外傷後ストレス障害)をも主張す
る。
「家内はお嬢さんで、守ってもらいたい、甘えたいタイプ。夫婦関係だっ
て普通にありましたし、テレビを観ていると、僕の腕枕でグーグー寝るよ
うな人が、よもやPTSDなんて……」
西沢さんも川島さんも、いつ豹変するかわからない夫の顔色をうカ、がい、
怯えながら生活していたが、この妻の文面にも似たような感触がある。腕
枕は、安心できる場面の一つだったのか 。夫には腕枕で眠る妻の姿は見え
ても、その心は見えてはいない。「離婚だ」と責め立てられ、平手で殴られ
た夜、妻は永遠に夫の元を去った。
結局、夫が見てきたのは仕事であり、自分の都合のいい思い込みで作り
上げた、「家庭」という虚像だったのかもしれない。
「仕事というのはある意味、金銭を稼ぐだけじやなく、社会貢献なのだと
いう意識があります。妻もそのことは理解してくれていると思っていまし
た。男だって、外に出れば相当のストレスを受ける 。その辺は女性も理解
してほしいのです。家に帰って安らぎたいというのは、自然な気持ちでしょ
う」
『中央公論』(2006年3月号)による
筆者紹介
橘由歩(たちばなゆうほ)
福島県生まれ。東京女子大学文理学部史学科卒業。専門誌記者を経てフリーに。家族、子ども、
女性をテーマに、犯罪ノンフィクションを中心として、取材執筆活動を行う。著書に『「ひきこも
り」たちの夜が明けるとき 彼らはこうして自ら歩き始めた』などがある。
154日语综合教程第七册
k注—釈
〇年金分割(ねんきんぶんかつ) 养老金分割制度
離婚、特に熟年離婚をした時、サラリーマンの夫は厚生年金に加入している為、それなりの老齢
厚生年金をもらうことができるのに対し、家庭で夫を支えてきた妻はわずかな国民年金しか受け
取ることが出来ない場合が多く、例え厚生年金を受け取れたとしても「働く期間が短い」「低賃金」
等の理由から年金額自体が少ないという現状がある。
そこで、「サラリーマンの夫を支えた妻の貢献度が年金額に反映されていない」という声や「高齢
独身女性の離婚後の貧困生活が社会問題にもなってる」などの現実から、平成16年度の法改正に
より、平成19年4月1日から婚姻期間中の厚生年金を夫婦間で分割することが可能になった 。
❷ PTSD (Post Traumatic Stress Disorder) 创伤后应激障碍
心的外傷後ストレス障害のことである。
強烈なトラウマ体験(精神方面的伤害)がストレス源(ストレッサー)になり、心身に支障をもたら
し、社会生活にも影響を及ぼすストレス障害。アメリカでベトナム戦争後の帰還兵の問題行動が
社会問題になったときに、その原因として強烈なストレス体験がトラウマとなり、それらが精神
的な障害として行動に現れたとして議論された神経症。
第8課案内者 155
9翁 課
手作り幻想
本文
•川田順浩J
アフリカから久しぶりに日本に帰っ
て、「手仕事」や「手作り」ということ
に、異常な関心が払われているのに驚い
た。それまでの2年半、私が、基礎的な
生産技術の調査をしていた西アフリカ内
陸の社会では、人々は労苦の多い手仕事
に追われていて、できればもう少し、作
業が機械化されればよいと切実に考えて 杵で餅をつく
いる。それは、つい40年ばかり前まで
の、私たちの先祖の願いでもあったにちがいない 。
だが、そうした願いが、いくつかの面でかなえられてみると、今度は、そ
ういう方向への社会や技術の変化がもたらす、否定的な側面が浮かび上がっ
てくるのであろう。機械化による規格品の量産、こま切れの分業。作る者自
身が、作られる物の全体を構想し、創意と肉体の修練を生かして自らの手で
完成し、生活の糧を得るという喜びの喪失。それは、人間のかかわり合う範
囲の拡大、生産・流通•消費機構の巨大化、国際化された技術の進歩と欲望
の肥大のいたちごっこのうちに、しだいに勢いを増しながら人類を押し流し
ている。この流れに関しては、採集・狩猟の生活から、自然の大為的なコン
トロールと食料生産へと踏み出した新石器時代以降 、程度の差こそあれ、基
本的な志向において人類のすべてが共犯者であったように見える 。
現実に存在する物質上の不平等がもたらす不幸、量産が可能にした豊かな
物質生活と労働における人間の疎外との軋櫟は 、社会体制を越えた、工業化
の不徹底な過渡期の現象であると言えるのだろうか?物資の規格化、ユニッ
卜化、多様化と、生産のオートメ ーション化、流通の国際化がさらに進めば、
156日语综合教程第七册
バラエティに富んだ世界各地のユニットを、各個人が
自由に選び、オートメーション化によって得られる時
間と労力を割いて、各自の生活に必要なものを、各地の
貸し作業場を使って、住居や自動車から、家庭用品や衣
類にいたるまで、「手仕事」で作る(工業的量産は、ユ
ニットと半製品の生産に重点が置かれるようになる)
ことが、可能というより必要になる時代が到来すると
言えるだろうか?
肯定形ではない、疑問符のたくさんついたこの問いは、街の店頭に文字ど
おり氾濫する商品を見て、「過剰だ、過剰だ。」とつぶやかずにはいられない
日本に帰って、真っさきに私の心によみがえったものであり、しばらく前ま
で、あの乾からびた乾季のサバンナの、ビニールの空き袋一つでも子供が奪
い合う社会に暮らしている間、池の底から水面の喧噪を見上げるような気持
ちで、繰り返し自問していたものだ。
変化の激しい日本に戻った当初の私が、うろたえさせられることの多かつ
た中で、些事ながら今も忘れないのは、年の瀬で雑踏する東京の街を歩いて
いて、食品売り場で「杵つき餅」と大書したビラが目に入ったときの、いぶ
かしさの混じった驚きの気持ちだった。アフリカで、食物といえば臼と杵で
つくのを見慣れていた私が、軽い興奮を抑えて、人込みを分けて近寄ってみ
ると、鉢巻きをした若い男が「さあ、杵つき餅だ、杵つき餅。」と呼ばわって
いる。聞くと、某地方で人が杵でつき、つきたてをその日のうちに東京へ運
んでくるという。私も日本の餅は、手づきと聞けばとりわけ懐かしく、幾切
れか買って帰り、早速、東京ふうの雑煮に仕立てて食べた 。
運が悪かったのかもしれない。私の食べたその餅は、粳の多い、たいそう
あっさりとついた餅で、粘るどころではなかった。蒸籠の湯気のこもった土
間に臼を据え、松薪でも割るような張りのある杵の音と、こね取りの掛け声
もろともつき上がる、私の少年時代にまだあった餅は、辛味餅にしても、の
し餅にして雑煮に作っても、粘りからして違ったものだ。
今、東京の町で売っている「杵つき餅」にも、私がたまたま食べたものよ
りおいしい餅はあるのかもしれない。だが、期待のあとの失望から私が邪推
せずにいられなかったのは、手作りだからこそ手を抜いてあるのではないか
ということだった。事実、好奇心に駆られた私が、近所の菓子屋の、機械づ
きであることを確かめて買った切り餅を、同じ鰹節の出しと小松菜の雑煮で
食べ比べてみると、機械が骨惜しみせずに働いてついた餅のほうが丁寧につ
けていることは、歴然としていたからである。
だから「手作り」などというものも、しょせん、商業主義によって簡単に
堕落するのだと言ってしまうのは、だが、物事の局部的なとらえ方というも
第9課手作り幻想157
のであろう。現代生活における手仕事の復権を標榜する工芸展では 、私は同
ーの事象の、反対の側面を見せられる思いがしたからだ 。
確かに、そこに展示されているものは、みごとな手作りの逸品ばかりだっ
た。決して手を抜いてなどいない。むしろ工夫されすぎ、手がかけられすぎ
ている。あまり工夫が凝らされていて、実用にはどうかと思われるものも多
く、そして何よりの欠陥は、どれもひどく値が高いことである。一昔前なら、
太郎兵衛さんがどじょうをすくったような、なんの変哲もない浅い竹のざる
が、1.5万円などというのを見ると、これはいったいどういう人が買って、何
に使うのかと首をかしげたくなる。
手仕事によってしか人間が物を作ることがなかった時代には 、大切なのは、
実用品としてものがよく、値が安いということだった。偏屈な名匠でもなけ
れば、効率よくたくさん作ることもまた、値を安くするために必要だったは
ずである。しかし、こうした要請のいくつかは、機械化と、世界のさまざま
な地域の交渉の緊密化によって、手仕事ではとうてい及ばないところまで達
成されてしまった。
工業化の進んだ今の日本では、物を作るという元来単一のものだろた行為
は、疎外された労働による量産と、高度の技術をもつ少数の工芸家による、少
数の富める風流人のための贅沢品の製作とに分裂してしまっている。しかも
後者は、ありきたりの実用品の市場からは、前者によって完全に締め出され
ているために、工芸家一人ひとりの個性やデザインの奇抜さ、技巧の特殊性
を掲げざるを得ない。作品が規格に従って量産されない点でも、実用を離れ
た美的価値に重点が置かれている点でも、現代の工芸家はかっての工芸師で
はなく、近代的な意味での芸術家になりつつある 。
この両極に挟まれて、近年盛んになってきているのが、疎外された労働と
引き換えに手に入れた金銭と余暇で、自分自身や親しい者のために何かを作
る、趣味の手仕事だ。これは純粋に回復された手仕事のようでいて、その実、
元来の「職」としての手仕事の社会•経済的な意味がすっぽり抜け落ちてい
る。それだけではない。そこには、「雑器の美」といわれたもの、機能性と経
済性が装飾性や象徴性と緊張を保つところに、巧まずして生み出される「か
たち」の美しさ、無名の集合としての工人が、無名の集合としての使用者と
の長い交流の中から集合的な知恵によって作り出した 「用の美」は求むべく
もない。第一その種の美は、機械が未発達で、実用品の量産がもっぱら手仕
事で行われていた時代、今の工業社会では過去のものとなった一時代の産物
であったことを知るべきだ。物を作り、使う条件が全く異なっていたかって
の一時代に成立し得た工芸の美を、今日人工的に追い求めるのは、むなしい
幻影を追うことでしかあるまい。
この第三の、いわば「ホビーとしての手仕事」が、分極化した前二者をつ
158日语综合教程第七册
なぐ役を果たし得るとしたら、それは先に述べたような、手仕事のユニット
としての物資の量産と、そのオートメーション化による労働者の余暇の増大
によらざるを得ないだろうが、それは、ほかならぬ手仕事幻想を生んだ元凶
である、第一の量産の場での労働疎外を、ますます強めることの代償として
しか得られないだろう。
かくて、押し戻しようもない流れの中で、感傷的に夢想され求められる「手
作り」が露呈するのは、一方では「手作り」という名目の悪しき商品化であ
り、他方では、かつての手仕事の社会的な意味がはがれ落ちたあげ句の骨董
化なのである。
手仕事をめぐるこのような倒錯状況を生み出している責任は、すでに変
わってしまっている現実にあると同時に、その現実を前にして人が抱かずに
いられない幻想にもあるのであろう。「手仕事」も「伝統」と同じく、それが
自覚され、価値づけられた瞬間から、こわばった、「ためにある」ものに姿を
変えてしまう。ことは、かつての民芸運動のもたらしたものや、現代の「ふ
るさと」の祭りや芸能にも明らかだ。
手仕事の問題も一つの現れにすぎないこうした時代の全般的な精神衰弱に
直面して、私たちが今、自分たちの文化と思い込んでいるものの身のあかし
を、時間をさかのぼって、いくらか執念深く追究してみることも意味があろ
う。だが同時に、空間の広がりの中で、現在も手仕事がいやおうなしに生活
の中心になっている社会、私たちが安直に未開とも低開発とも呼んできた社
会、だがその実際の姿は、まだ我々にそれほどよくわかっているわけでもな
い社会での手仕事のありようを、少し近寄って見てみることもまた、無駄で
はないと思うのである。
『サバンナの博物誌』(1979年新潮社)による
筆者紹介
川田順造(かわだじゅんぞう)
1934年東京に生まれた。文化人類学者。西アフリカのモシ文化の研究家として世界的に知られ
る。日本文化と研究留学したフランス文化の東西の二つの文化に、研究対象としてきたモシ文化を
加えて、その対象化•相対化を図りながら人間の文化についての考察を行っている。主な著書に
『曠野から』『無文字社会の歴史』『サバンナの音の世界』などがある。
第9課手作り幻想 159
I注釈
〇 いたちごっこ 无谓地重复(同样的事),毫无进展
2人が互いに相手の手の甲をつねって自分の手をその上に載せ、「いたちごっこ、ねずみごっこ」
と唱え、交互に繰り返す子供の遊戯。転じて、元来治まっているべき両者の関連が調和を欠き、
事あるごとにエスカレートして対抗を繰り返すと言う悪循環。つまり、双方が同じ事を繰り返す
ばかりで無益なことを表す。
❷ 杵つき餅(きねっきもち) 用杵捣出来的年糕,手工年糕
昔ながらの伝承技法で石臼を使用し、杵で突上げたお餅のこと。石うすと杵で突上げたお餅は、
伸びが良く、腰のあるお餅で餅本来の甘味がある。'
❸ 辛味餅(からみもち) 咸年糕
つきたての柔らかい餅を小さくちぎり、醤油で味付けした大根おろしをまぶしたもの。おろし餅
とも言う。 (大块的)平扁年糕
❹ のし餅(のしもち)
長方形に薄く伸ばした餅。
& 切り餅(きりもち) (方形的)年糕块
長方形に薄く伸ばした「のし餅」を四角に切った餅。
❻ 鰹節(かつおぶし) 干鲤鱼(多数指将干鲤鱼用刨子刨出来的刨花状的薄片)
下ろしたカツオの身をゆで、又は蒸し、焙って乾かし、黴(かび)つけを施して日光で乾かした
物。普通はかんなで削って使う。料理の出しをとるのに用いたり、削られたものを料理にかけた
りする。
〇太郎兵衛(たろべえ)
「太郎兵衛駕籠」と同じ意味。寛政末から文化年間に流行した語であり、一見違っているようだ
が、結局は同じこと。本文では人名として使われている。
❽ 雑器の美(ざっきのび) 日用杂货之美
美術評論家、柳宗悦(やなぎむねよしZ1889-1961)の評論『雑器の美』の中の言葉で、日常に
用いる道具のもつ美のこと。
0用の美(ようのび) 日用杂货之美
「雑器の美」と同じである。
❿ 民芸運動(みんげいうんどう) 民间エ艺运动
大正末期に柳宗悦らが提唱した運動。民芸品の価値を見直し、その保存や復興を目指す運動。
(D悪しき(あしき)
文語「〜シク」活用の形容詞「悪し」の連体形である。現代語の「悪い」の意味。その活用は次
の通りである。
基本形 語幹 未然形 連用形 終止形 連体形 已然形 命令形
悪し あ し< し< (う) し しき しけれ しかれ
しから しかり しかる
!新しい言葉
創意(そうい) [名] 独創的な考え。新しい思いっき。/独创的见解,创
修練(しゅうれん) [名] 见。
160日语综合教程第七册 精神や技能を磨き鍛えること。/修炼,磨炼。
糧(かて) [名] ①食べ物。食糧。/食物,粮食。②(転じて)生
活や精神の潤いとなるもの。力づけるもの。/(转
义)精神食粮,精神支柱。
かかわり合う(係りあう) [自五] 係りを持つ。関係する。/有关系,有牵连。
押し流す(おしながす) [他五] ①水の激しい流れで運び去る。/冲,冲走,冲刷。
②(比喩的に)時流、時勢など、意志の力では逆
らえない大きな強い力で動かす。/推动。
軋櫟(あつれき) [名•自サ](車輪がきしることから)争いあって角が立つこ
と。摩擦。不和。/关系不和;摩擦,冲突。
ユニット(unit) [名] ①一部分。(教育で)単元。/单位;部分,单元。
②組み合わせ式。/组合式,组装式。
オートメ ーション [名] ほとんど大力を必要とせず、機械の力で自動的に
(automation) 仕事をする仕組み。自動制御装置。/自动控制装
置,自动化。
バラエティ(variety) [名] ①変化。多様性。/变化;多样化,丰富多彩。②
落語、漫才、歌謡、踊りなどの演芸を取り混ぜた
演芸会。また、その種の放送番組。/文艺演唱会;
文艺综合频道。
割く (さく) [他五] ①一部を分けて、ほかの用途に当てる。/分出,匀
出,腾出。②刃物などで切り割る。引つ張って離
す。/劈开,分割开。③関係している2大の大間
を無理に隔てて関係させないようにする。/(把两
个人的关系)分开,(挑拨)离间。
ひからびる(乾涸びる) [自ー] ①すっかり水分がなくなる。乾ききる。/干枯,干
透。②(大柄や環境に)うるおいや生気がなくな
る。/枯涸,干瘪;陈旧。
サバンナ(savanna) [名] 雨の少ない熱帯地域の草原。/(树木稀少的)热带
大草原。
うろたえる [自ー] 不意のことに驚き、慌ててまごつく。狼狽する。/
慌张,惊慌失措。
些事(さじ) [名] 取るに足らないこと。つまらないこと。/(不足挂
齿的)小事,琐事。
年の瀬(としのせ) [名] 年の暮れ。年末。/年终,年底,年关。
雑踏(ざっとう) [名•自サ]多くの人で込み合うこと。/(人)熙熙攘攘,人多
拥挤;喧闹拥挤。
大書(たいしょ) [名] 文字を大きく書くこと。また、文意を強調して書
くこと。/大写(的字体);大书(特书)。
ビラ [名] 宣伝、広告のため、大目につく所に張り出したり、
第9課手作り幻想 161
通行人に配ったりする紙片。/传单,宣传广告。
いぶかしい(訝しい) [形] (変なところがあって)疑わしい。怪しい。不審
である。/可疑,奇怪,令人纳闷。
鉢巻き(はちまき) [名] 頭部に布や手ぬぐいなどで巻くこと。また、その
巻く布。/用布或是手巾扎头;扎头布,扎头巾。
呼ばわる(よばわる) [自五] 大声で言う。大声で叫ぶ。/大声叫喊,大声呼唤。
つきたて(搗き立て) [名] (餅などを)ついたばかりであること。/(年糕等)
刚捣好。
仕立てる(したてる) [他ー] ①作り上げる。こしらえる。特に、着物を作り上
げる。/缝制,做。②(仕事などを)教え込む。養
成する。/培养,教育。③準備する。用意する。Z
准备,预备。④手を尽くしてそれらしく見せる。Z
乔装,装扮。
粳(うるち) [名] 「餅米」に対して、粘りの少ない普通の米。/粳米,
粕米。
たいそう(大層) [副] 非常に。もっとも。多く。/很,非常;很多。
蒸籠(せいろう) [名] 食べ物を蒸す木製の道具。/(木制、方形的)蒸笼。
松薪(まつまき) [名] 燃料にする松の木。Z(用作燃料的)松树劈柴。
張り(はり) [名] ①引つ張る力。またその程度。/张カ,拉カ。②
たるみがなく、引き締まっていること。/活泼有
カ。③(自分の行動に張り合いや手ごたえを感じ
て)心が引き締まり、勢いを持つ状態。/劲头,起
劲。④ちょうちんなどを数える言葉。/(量词)(灯
笼)盏;(引张;(蚊帐)顶。
こね取り(捏ねどり) [名・自サ]餅をつくとき、杵を持つ人の傍にいて餅をこね返
すこと。また、その人のこと。うす取り。/(捣年
糕时配合捣年糕人)翻动臼内的年糕;翻动臼内年
糕的人。
邪推(じやすい) [名・他サ]人のことをひがみを持って、悪い方に推察するこ
と。/乱猜疑,胡乱猜测;往坏里猜测。
手を抜く(てをぬく) [慣] 手数を省き、いい加減に事をする。手抜きをす
る。/潦草从事,偷エ减料。
出し(だし) [名] (「だし汁」の略)鰹節、昆布、椎茸などを煮出し
た汁。「煮だし」ともいう。/烧菜用的汤汁,高汤。
小松菜(こまつな) [名] 小さな青菜。もともと東京都江戸川区小松川付近
から多く産出したから、「小松菜」と名づけられ
た。/(比鸡毛菜大一点的)小青菜。
骨惜しみ(ほねおしみ) [名・自サ]苦労を嫌がって、するべき仕事をしないこと。な
162日语综合教程第七册
まけること。/不肯卖カ,不肯吃苦;懒惰。
歴然(れきぜん) [形動] 非常にはっきりと分かって、紛れのない様子。/
明显,清楚,千真万确。
しょせん(所詮) [副] あれこれ考えてみたが、結局は〜だ。つまるとこ
ろ。結局。/反正,终归,归根到底。
標榜(ひょうぼう) [名・他サ]①人の善行を褒め称えて記した札を、門に掲げて
人々に示したこと。/标榜。②主義•主張などを
公然と掲げ示すこと。/宣称,申张。
事象(じしよう) [名] 事の成り行き、様子。事実と現象。/事态,现象。
逸品(いっぴん) [名] 優れた品物、作品。絶品。/佳作,绝品。 ’
欠陥(けっかん) [名] 欠けて足りない点。不備な点。/缺点,缺陷,毛病。
どじょう(泥鮪) [名] 小川、沼にすむドジョウ科の淡水魚。/泥皺。
偏屈(へんくつ) [名・形動](人の性質が)偏っていて、素直でない。ねじっ
ていること。/怪癖,别扭;顽固。
名匠(めいしょう) [名] ①芸術の分野で優れた技量を持つ人。巨匠。/名
工巧匠,大师。②優れて名高い学者や僧侶。/名
家,有名学者。
締め出す(しめだす) [他五] ①(門、戸などを締めて)外の者を中へ入らせな
いようにする。/把•••关在门外,不让进(屋)。②
(外部の者を)仲間に入れないようにする。排斥
する。/排斥,赶出。
奇抜(きばつ) [形動] ①人の意表に出ること。とっぴなこと。/奇异,离
奇。②(思いもよらないほど)他より抜きん出る
こと。珍しく優れたこと。/新奇,新颖,卓越。
すっぽり [副] ①全体にかぶせて覆う様子。/蒙上,包上。②差
し込んだ物がたやすく抜けたり、また、くぼみに
うまく嵌ったりする様子。/完全脱落;正好套上,
正合适。
抜け落ちる(ぬけおちる) [自ー] ①生えたり刺さったりしているものが抜けて落ち
る。脱落する。/脱落,掉下。②そろっているも
のの一部が欠ける。/缺少,遗漏。
巧む(たくむ) [他五] ①工夫する。技巧を凝らす。/下功夫,筹划,动
脑筋。②企てる。企む。/耍诡计,阴谋策划。
求む(もとむ) [他下二] (文語)「求める」と同じ意味である。
ホビー (hobby) [名] 趣味。道楽。/爱好,嗜好。
かくて [副・接続]このようにして。こうして。かくして。/于是,就
这样。
押し戻す(おしもどす) [他五] 押してもとの位置に戻す。押し返す。/推回去;
第9課手作り幻想 163
退回。
露呈(ろてい) [名•自他サ] むき出しになること。あらわにすること。/露出,
暴露。
はがれる(剥がれる) [自ー] (表面にあるものが)剥げて落ちる。とれてなく
なる。/脱落,剥落。
骨董(こっとう) [名] ①美術的、歴史的に価値のある古道具、古美術品、
骨董品。/古玩,古董。②古いばかりで役に立た
ないもの。/落后于时代的人或物,老古董。
倒錯(とうさく), [名・自サ] ①逆になること。ひっくり返ること。/颠倒。②
本能や感情の異常及び感情、人格の異常によつ
て、社会的規範に反する行動を示すこと。/错乱,
乖僻,反常。
こわばる(強張る) [自五] ①しなやかなものが硬くなる。硬直する。/发硬,
变得僵硬。②(表情や態度が)硬くこわごわする
こと。/(因紧张而表情)生硬,僵住,严肃。
ことは [副] 同じことならば。/同样。
執念深い(しゅうねん [形] 執念が強い。なかなか諦めない。しっこい。/固
ぶかい) 执,执拗。
安直(あんちょく) [形動] ①あまり金銭がかからない様子。値が安い様子。/
便宜,省钱。②困難がない様子。手軽な様子。/
轻松;简单,不费事。
未開(みかい) [名] ①花がまだ開いていないこと。/花还没开。②土
地がまだ開拓されていないこと。/未开垦。③文
明がまだ開けていないこと。/未开化。
ありよう(有り様) [名] ①もののありさま。様子。/情况,光景。②あり
のまま。真相。実情。/实情,真相。③当然の理
由。/当然的理由,理所当然。
8学習の手引き
❶ 日本における「手作り」「手仕事」の盛況ぶりについて読み取ること。
❷「近代化」の意味をアフリ•カとの対比で理解すること。
〇「手作り」「手仕事」の問題点について考えること。
❹「手仕事」の問題が文化全体の問題になっていることを把握すること。
0 本文の対比的な構造を読みとり、論旨を理解すること。
❻ 日本社会のあり方について考えること。
164 日语综合教程第七册
言葉と表現
モ〉いたちごっこ 双方无谓地重复(同样的事);毫无进展,得不i
[ 到解决 • ;
2人が互いに相手の手の甲をつねって自分の手をその上に載せ、「いたちごっ
こ、ねずみごっこ」と唱え、交互に繰り返す子供の遊戯。転じて、元来治まっ
ているべき両者の関連が調和を欠き、事あるごとにエスカレートして対抗を繰
り返すという悪循環。つまり、双方が同じ事を繰り返すばかりで無益なことを
表す。
❶ コンピューターのウィルス作者とアンチウィルス・ベンダーのいたちごっこ
は当分続く。(电脑病毒作俑者和反病毒游击队的对峙目前仍在持续。)
❷ ウィルスとウィルス撃退のいたちごっこの様子は、畑の現場での害虫と新し
い農薬のいたちごっこに似ていて、農家のオヤジの世間話を思い出します。
(病毒和杀灭病毒对峙的情形,如同田里害虫和新农药的对峙,我不由想起了
农家大叔们的闲聊。)
❸ 注意をすると翌日にはやりませんが、また新たなことをやるので、諸注意は
まるでいたちごっこです。(如果提醒一下的话,第二天就不做了,可是又会有
其他新花样,各种提醒根本解决不了问题。)
❹ だが、その後も自転車の放置問題が片付く気配はなく、放置者と行政機関の
「いたちごっこ」は終わりを見ない。(但是,后来也没有迹象表明乱扔自行车
的问题会得到解决,丢弃者和行政机关的拉锯战没完没了。)
七さ富める 富裕,有钱
文語表現。文語四段活用の動詞「富む」の已然形(一説に命令形)の「富め」
に、完了、存続の助動詞「り」の連体形「る」が付いたもの。連体詞的に働く
ことが多い。「富んでいる……」の意。
❶ 日本は今や富め皇国の仲間入りをしていますが、以前は違いました。(如今,
日本已经加入到了富国的行列里,以前可并不富裕。)
❷ 貧しいか富めるかということは、やはり金銭や物の多少によっては、決め
られないものでありましょう。(贫穷还是富裕,同样不能用钱和物的多少来决
定的吧。)
❸ バブル崩壊から十数年、世界は實些者と貧しき者の二極分化が急激に進
み、日本もまたその例外ではなかった。(在泡沫经济崩溃后的十几年里,整个
世界有钱人和贫困者之间急剧地两极分化,日本也不例外 。)
第9課手作り幻想165
上分 〜ようでいて 看上去好像…,但实际上却…
「見かけではこのような印象だが」という意味を表す。「一見/見かけは〜よ
うで、実際は〜」などとなることが多く、実際の性質は異なっていることを表
す。「〜ようだが」ということもある。
❶ 一見ノンフィクションのようでいて、実はフィクションである、といった不
思議な味わいの短篇である。(这是一部令人难以琢磨的短篇小说,乍ー看,好
像是纪实文学,而事实上是虚构小说。)
❷ ポケットに入れて持ち歩けるハーモニカは、まるでおもちやのようでいて、
聴く人の心をゆさぶる素晴らしい楽器です。(放入口袋可以随身携带的口琴,
像似ー个玩具,却能打动人心,是ー种了不起的乐器。)
❸ 普段はおとなしいようでいて、いざとなるとなかなか決断力に富んだ女性
だ。(她平时看上去很温和,但是到了关键时刻却是一位非常富有决断能力的女
性。)
❹ 聞いてみたい音がある。それは容易に聞けるようでいて、聞くことのできな
い音である。(我想听ー种声音。那声音好似轻易可闻,但实际上却又无法听得
到。)
土四、動詞未然形+ずして 不…而…
慣用的で文語的表現である。「〜しないで」という意味を表す。
❶ 飛行機が無事に着陸すると、乗客の中から期せずして拍手が湧き起こった。
(飞机安全着陆以后,乘客中爆发出不期而至的掌声 。)
❷「棚からぼた餅」とは、思いがけず、労せずして幸運が舞い込んでくるとい
う意味である。(“天上掉馅饼”是扌旨意外地不劳而获,幸运从天而降的意思。)
❸ 敗けて元々、勝訴すれば、労せずして大儲けができる。(败诉的话也不亏,如
果胜诉的话,则可以不劳而获发大财。)
❹ 貴殿は、みかんの粒数を皮を剥かずして簡単に知ることのできる方法をご存
知だろうか。(您知道不剥桔子皮就能轻易得知桔子有多少瓣的方法吗?)
練習
ー、次の言葉を覚えなさい。
安直 鉢巻き ユニット バラエティ 軋櫟 サバンナ
ありきたり 逸品
些事 訝しい 乾涸びる うろたえる 奇抜 手を抜く
ゝk日・
倒錯 強張る すっぽり
166日语综合教程第七册
二、 次の日本語を中国語に訳しなさい。
/.現実に存在する物質上の不平等がもたらす不幸、量産が可能にした豊かな物質
生活と労働における人間の疎外との軋礫は、社会体制を越えた、工業化の不徹底
な過渡期の現象であると言えるのだろうか?
2. 変化の激しい日本に戻った当初の私が、うろたえさせられることの多かった中
で、些事ながら今も忘れないのは、年の瀬で雑踏する東京の街を歩いていて、食
品売り場で「杵つき餅」と大書したビラが目に入ったときの、いぶかしさの混
じった驚きの気持ちだった。
3. 蒸籠の湯気のこもった土間に臼を据え、松薪でも割るような張りのある杵の音
と、こね取りの掛け声もろともつき上がる、私の少年時代にまだあった餅は、辛
味餅にしても、のし餅にして雑煮に作っても、粘りからして違ったものだ。
4. だが、期待の後の失望から私が邪推せずにいられなかったのは、手作りだから
こそ手を抜いてあるのではないかということだった。
5. かくて、押し戻しようもない流れの中で、感傷的に夢想され求められる「手作
り」が露呈するのは、一方では「手作り」という名目の悪しき商品化であり、他
方では、かつての手仕事の社会的な意味がはがれ落ちたあげ句の骨董化なのであ
る。
6. 手仕事の問題も一つの現れにすぎないこうした時代の全般的な精神衰弱に直面
して、私たちが今、自分たちの文化と思い込んでいるものの身のあかしを、時
間をさかのぼって、いくらか執念深く追究してみることも意味があろう 。
三、 本文の内容に基づいて、次の質問に答えなさい。
/,「手仕事」「手作り」がもてはやされていることに、「驚いた」のは、どうして
か。その理由を二つ挙げなさい。
2. 「そういう方向」を明らかにして、「否定的な側面」の意味を述べてみなさい。
3. 現代の「手仕事」「手作り」の盛況の要因を述べてみなさい。
4. 産業化社会や技術の高度化によってもたらされた弊害を、具体的に述べなさ
い。
5. 「労働における人間の疎外」とはどういう意味か。
6. 「肯定形ではない、疑問符のたくさんついたこの問い」とあるが、ここの「こ
の問い」とは何か、具体的に述べなさい。
7. 「この問い」に対し、筆者の「肯定的ではない、疑問」の理由を述べなさい。
8. 「池の底から水面の喧噪を見上げるような気持ち」とあるが、筆者は「池の底」
「水面」「喧噪を見上げるような気持ち」を具体的に何に喩えているか。
9. 「池の底から水面の喧噪を見上げるような気持ち」とは、具体的にどのような
気持ちなのか。
10. 「分極化した前二者」とは、何と何を指しているか。
11. 「手仕事をめぐるこのような倒錯状況」とあるが、これはどういう意味か、説
第9課手作り幻想 167
明しなさい。
12. 「その現実を前にして人が抱かずにいられない幻想」とあるが、これはどうい
う意味か、説明しなさい。
13. 「時代の全般的な精神衰弱」とあるが、このことばに込められた筆者の主張を
まとめてみなさい。
四、次の文章を読んで、後の質問に答えなさい。
山国に住んでいると、ひとしお春が待たれる。
3月にはいると、春の強風が、いくたびか山をどよもして吹く。そのたびに木々
の芽はいちだんと膨らんでくる。樹液がさかんにこずえに通い始めるのであろう。
まっすぐに空をさす杉のほもしなやかになり、春の風にたわみながら、けむりのよ
うに黄の花粉をふく。すぎ山にいると、しばらくは、①空がぼうっと黄にかげるC
小鳥の声も、冬のさえたさけびでなくなり、明るく早口にさえずる。うぐいすの
歌は、まだ短くおさない。習いたてのそのやさしい歌いぶりが、春を待つ心にしみ
る。
春分のころまでは、まだ、みぞれが降り粉雪が舞う日も何回かあるが、やがて、
吉野では、あちこちの山で植林のために山を焼くけむりがたつ。すぎやひのきのな
え木を山に植えるのである。それは②春を呼ぶのろしにも似ている。
A み吉野は山もかすみてしら雪のふりにし里に春は来にけり
新古今集の初めの歌である。はるかに遠い時代から、人々が、神聖な雪ふる国と
してあこがれた吉野の山々に、春のかすみがかかってきたというのだ。
きょう春分の日、わたしは、吉野から古い峠の道をこえて、飛鳥へ歩いてきた。
大和平野と吉野の間を遮る③山なみの、いちばん高い峠である。歩き続けるうちに
体から快く吹き出してくる汗に、わたしは、春の訪れをしみじみと感じた。
この峠をこえて、なだらかな山の背の道を行くと、飛鳥は目の下に広がり、大和
国原はぼうぼうとして、④しばらく目をこらさないと、耳成(みみなし)•香久(か
ぐ)•畝傍(うねび)の大和三山が、はっきりと浮き出てこないcこの地域に特有
な、厚い春がすみが、三山を静かに包んでいるのだ。
⑤ここに吹きつけてくる風は、まだ肌に冷たいのに、三山を前方に据えた飛鳥に
は、もう春が満ちあふれていた。かすみの中に、おりおり、きらりと光るものがあ
る。見ると、車が白いほこりを引いて走っていく。
こうして遠くから見おろす大和平野は美しい。わたしはたびたび立ち止まって
⑥平野とのこの隔たりを失くしてしまう のを惜しんだcあそこが飛鳥寺、そのむこ
うが藤原宮あと 何回もわたしは⑦飛鳥の地図を眼下にたどったC
日本の古い文化の栄えた故郷である飛鳥には、不思議に何も残されていない。仏
像も、お寺も、宮殿も、みんなほろびてしまった。今では、飛島川や、いくつかの
丘や、古墳や、石が残っているだけである。わたしは、大和国原の南の端にねむる
飛鳥という廃墟を見おろしながら、⑧祈るような気もちであった。咲き出たばかりの
168日语综合教程第七册
菜の花を⑨この古国に捧げたいと思った。
わたしが、毎年この季節に、あまり人の通らない山ごえをして大和へ出るのは、
わたしにとって、春を迎える儀式のように思える。
今では誰にも会わないこの峠の道も、むかしは吉野へ入る道として、多くの通行
人があり、数軒の茶店が栄えたという。吉野へ花見に来た人は、この峠に立って、
吉野山に桜が咲いたかどうかを眺めたのである。
⑩春を待つ心は、桜の花が咲くのを待つ心かもしれない。西行法師という昔の歌
人は、なかなか開こうとしない桜のこずえを、次のようにうたった。
B吉野山こずえがえだに雪散りて
花おそげなる年にもあるかな
わたしはきょう、峠の山道を歩いて、西行法師を今までになく、なつかしく思っ
た。わたしの春を待ち花に憧れる心は、自然を友とした西行法師を思い出させたの
であろう。
OD 下線部①「空がぼうっと黄にかげる。」状態を作り出しているものは何か。文
中のことばで答えなさい。
下線部②「春を呼ぶのろしにも似ている」のは何か、文中の言葉7文字で答
えなさい。
(iB 下線部③「山なみ」の意味として正しいものを次の中から選んで、〇をつけ
なさい。
ア山のようななみ
イ山のならんでいるさま
ウ山のいただき
OD 下線部④「しばらく目をこらさないと、耳成・香久•畝傍の大和三山が、
はっきりと浮き出てこない 」のはなぜか。次の中から選んで、〇をつけな
さい。
ア大和三山は遠くにあるから。
イ 厚い春がすみが三山を包んでいるから。
ウ 白いほこりがたちこめているから。
下線部⑤「ここに吹きつけて」の「ここ」とは、どこなのか、具体的に答え
なさい。
d局 下線部⑥「平野とのこの隔たりを失くしてしまう」とは、どうすることか。
また、なぜ、それをおしむのか、答えなさい。
第9課手作り幻想169
(1) どうすることか
(2) なぜおしむのか
dD 下線部⑦「飛鳥の地図を眼下にたどった」の「地図」とは、この場合何をさ
すか、具体的に答えなさい。
碰 下線部⑧「祈るような気もち」とは、次のどれにあたるか。正しいと思うも
のを選んで、〇をつけなさい。
アほろんでしまった古い文化をおしみ、懐かしむ気持ち。
イ飛鳥がむかしのように栄えてほしい気持ち 。
ウむかしにかわらない春のおとずれを喜ぶ気持ち。
働 下線部⑨「この古国」とは、どこをさすか、はっきり示しなさい。
1 下線部⑩「春を待つ心は、桜の花が咲くのを待つ心かもしれない」とあるの
はなぜか。次の中から最もよいと思うものを選んで 、〇をつけなさい。
ア桜の花が春の一番初めに咲くから。
ィ桜の花が、もっとも春らしいから。
ウ桜の花が、春のもっとも美しい花だから。
C A - Bのような形のものをなんというか。次の中から適当なものを選んで、
記号で答えなさい。
ア唱歌 イ長歌 ウ短歌 工俳句
A( ) B()
個® この文章全体を通して、もっとも強く感じとれる筆者の気持ちを20文字以
内で書きなさい。
I読み物
独居老人をITか見寸る
: •片桐圭子
: IT革命は幻想だったと言われる昨今。だが、高齢者とその家族の「生活
170日语综合教程第七册
の質」を高めるのに一役買っている。
神奈川県川崎市内で一人暮らしの坂田茂子
さん(75)には、大切な朝の日課がある。目
が覚めると、まず居間へ。ダイニングテーブ
ル脇の電気ポットの前に立つと、いつもの湯
飲みを手にとり、給湯ボタンを押して湯を注
ぐ。「息子たちへの、『おはよう』のかわり」だ 土間
という。
茂子さんが使うポットは、見た目は何の変哲もない。だが、底の部分に
通信機能を内蔵し、電源を入れたり湯を注いだりすると、「9時15分に給湯
した」などの使用状況が情報センターに届く。車で30分ほどの場所に暮ら
す2人の息子は:[日2回、あらかじめ指定した時間に届く電子メールで、そ
の日の茂子さんの様子を知る。専用のホームページにアクセスすれば、い
っでも使用状況を確認できる。
このサービスは「見守りホットライン」。象印マホービンがこの3月に商
品化した。電気ポット「1ポット」のリース料を含む初期費用は1.5万円、
月々のサービス利用料は3000円だ。
2年前に夫は施設に入ったが、茂子さん自身は介護という言葉とは無縁
なほどかくしやくとしている。だが、同様に元気だった茂子さんの妹が1
年前、突然倒れた。
「緊急事態にすぐ対処するのは無理でも、倒れたあと何日も放置してしま
うのは避けたい」ど思った次男の英督さんは、茂子さんにPHSを渡してみ
た。だが、小さなボタンが見にくいからと茂子さんはほとんど使わず、結
局持ち歩くのをやめてしまった。そんな時、高齢者住宅を扱っている職場
に置かれたパンフレットでこのサービスを知った 。
「価格的にもリーズナブル。母も普通のポットとして違和感なく使える
し、使用状況の確認も短時間で済むので日常生活に溶け込んでいます」
夜寝る前にも必ず給湯するから、何時に寝て、何時に起きているのかが
わかる。来客があれば、お茶を入れるために短時間に何度も給湯するから、
息子と母の間に、「昨日はお客さん?」「ずいぶん遅くまで起きてたんだね。
何してたの?」といった会話も生まれる。
厚生労働省が2000年に実施した国民生活基礎調査によれば、65歳以上で
一人暮らしの高齢者は307.9万人。その数は増える一方だ。高齢者自身が、
子供たちとの同居を望まないことも多い。
茂子さんも、息子たちの家の6畳間や8畳間に小さくなって居候するなん
てイヤだ、と言う。今の家には、かつては夫と2人の息子たちと暮らした。
埃一つなく、カップボードもテーブルもぴかぴかに磨かれた応接間には、タ
第9課手作り幻想171
イシルクのクッション、ドイツ製の人形など、海外旅行のたびに買い揃え
た品々が並ぶ〇
一人暮らしには広すぎるけれど、思い出の品々に囲まれて、両手を広げ
てのびのびと暮らしたい。寂しいと思うときもあるけれど 、せっせとポッ
卜を使って自分の無事を知らせる。時々かかってくる「母さん、生きてる?」
の電話だけで、「すごく心丈夫。日常生活に安心感があります」と、茂子さ
ん。とはいえ、見られている窮屈な感じがないわけではない。だから、いつ
たん注いだ湯をポットへ戻すこともある。
この「iポット」のように、情報通信技術、いわゆるITを使った、高齢
者とその家族のためのサービスが、相次いで始まっている。そう日本福祉
大学の後藤順久助教授は話す 。
JGテレネットは、一昨年6月、徘徊老人探索システム「ドコいるかサー
ビス」を始め、今年3月、全国に拡大した。NTTドコモのPHS網と専用端
末Fp-docoJを使う。24時間、365日稼動のオペレーションセンターに電
話すれば、端末を身につけている人の居場所を教えてくれる。
セキュリティー大手のセコムも今年4月から、「ココセコム」をスタート
させた。携帯電話と衛星を使って老人や子供、車やオートバイを探索する
サービスだ。
日本信号も、今年7月から、「見守り上手」というシステムを商品化して
いる。トイレや浴室に赤外線を通し、一定時間、高齢者に動きがない場合
に、居間にいる家族に通報するものだ。
後藤助教授によれば、背景にはインターネットの一般化、PHSや携帯電
話の通話可能地域の拡大、通信料金の低価格化など、IT側の条件が整った
ことがある。加えて、2000年4月の介護保険制度の導入で、介護や福祉の
サービスを受けることへの抵抗感がなくなりつつあることも要因だ 。
実は、冒頭の「iポット」は、開業医の網野浩之さんが、1996年に東京・
池袋で起きたある事件にショックを受けたことを機に誕生した 。
高齢の母親(7 7)と病気を抱える息子(41)が自宅アパートで餓死した事件
だ。死に至る日々を綴った日記とともに発見されたときは、死後1ヶ月を
過ぎていた。網野さんの病院のすぐそばだった。
「医療では人間の生活の根本に力が及ばないことを痛感した 」
という網野さんは、再発を防ぐため、高齢者の生活を「見守る仕組み」を
作ろうと企業と町内会に呼びかけた。
網野さんが考えた「見守る仕組み」の条件は二つ。見守られる本人の意
思が尊重でき、自主性を保てること。見守られる側は常に受け身ではなく、
何らかの行動が起こせること。
この条件に合ったのが、電気ポットだった。電源を入れるのも、給湯す
172 日语综合教程第七册
るのも、本人の意思。しかも給湯ボタンを押す行為が、自身の無事を知ら
せる手段になっている。
「センサーを張り巡らせたり、心臓の動きまでチェックしたりしょうとい
う提案もあったが、それでは見守られるほうが窮屈だ。大切なのは、さり
げなさです」と、網野さん。高齢者宅に置いた「[ポット」を地元の主婦
ボランティアが交代で見守る「福祉ネットワーク池袋本町」を作り上げた。
地域に住む高齢者の研究をしている金子勇北海道大学教授は、実際に人
と人とが顔を合わせる「対面接触」に対し、パソコンや携帯電話の画面を通
じたコミュニケーションを「画面接触」と呼ぶ。「対面接触」での信頼関係
が前提なのはもちろんだが、「ITがもたらした『画面接触』で、時間や場所
の限定を超えて、親しい人間関係を継続することが可能になった」と、これ
らの動きを評価する。
緊急時の救命の重要性はもちろんだが、それと同等か、ともすればそれ
以上に、日常生活での安心感、誰かが自分を気にかけてくれているという
満足感を重視する傾向が強まっているという。
都内に住む遠藤登枝さん(76)は、数年前から痴呆のために徘徊するよ
うになった。
ある時は成田空港近くまで行き、ある時はまる3日も行方がわからず警
察に保護された。多いと1日に7回も出かけてしまう。そのたびに、蕎麦
屋を家族で営んでいる娘の千枝子さんは、仕事そっちのけで登枝さんを捜
して回った。
昨年8月、千枝子さんは、JGテレネットの徘徊老人探索サービスを利用
し始めた。毎朝、着替えの際に、「命の次に大切にしてね」と言いながら、
大きめの消しゴム大のPHS端末を、首から背中に垂らす。
今年3月のことだ。映画を見に出かけていた千枝子さんが夜7時頃に帰
宅すると、登枝さんがいない。近所の人が最後に見かけてから 3時間経つ
ているという。慌ててセンターに電話し、居場所を確認すると、「表参道に
近い骨董通りにいます」
自宅から表参道までは、直線で約3キロ。携帯電話と都内の地図を片手
にタクシーで向かった。捜している間にも登枝さんは移動してしまうから、
「いま、現場近くに来ました」と再度センターに位置を問い合わせる。登枝
さんは、路地に入ったり骨董通りに出たりと、周辺をぐるぐる回っている
ようだと分かった。だが、多少の誤差もあるから、どの路地にいるのか特
定できない。道のどちら側にいるのかもわからない。
ようやく登校さんを見つけたのは午後10時。捜し始めてから3時間が過
ぎていた。それでも、「子供の頃から、ああしろ、こうしろとは言わず、好
きなことをさせてくれた母を、鍵をかけて閉じ込めるようなことはしたくな
第9課手作り幻想173
いんです。捜せば必ず見つかるという安心感があるから、母の意思を尊重し
て、自由に外へいってらっしやいと言える」という千枝子さん。登枝さん
が出かけるのは止めない。ただし、1時間経っても帰ってこないときは、必
ずセンターに電話して居場所を確認する。この二つをルールにしている。使
い始めて1年で、南青山から、日比谷公園、牛込、神田、そして上野まで、
捜しに出かけた。探索の場所と回数は数え切れない。発見まで最長6時間
かかった。
「このサービスがなかったら、と思うとゾッとします。自分もおかしく
なっていたかもしれない。でも、サービスも信頼しているし、母が育てて
<れた性格のためか、くよくよ悩まずにすんでいます」。
千枝子さんの言葉には、痴呆、徘徊の親を疎ましく思う気持ちは、微塵
も感じられなかった。
『AERAJ (2001年10月1日号)による
注:作者为“朝日新聞社『AERA』編集部”记者。
!解釈
〇 象印(ぞうじるし)マホービン 象牌热水瓶公司
「象印マホービン株式会社」のことである。1918年創業。資本金4〇, 2295億円。
❷iポット(i-pot) 信息传递装置电热水瓶
見た目には、普通の電気ポットだが、データ通信専用の無線通信機が内蔵されている。電気ポッ
卜の操作信号は、NTTドコモのDoPa網(無線通信回線)を通してシステム・センターの専用サー
バーへ送られる。「1ポット」の使用状況を1日2回、E メールで受け取れるほか、専用ホームペー
ジで1週間分をグラフで確認できる。
❸ PHS (Personal Handyphone System) 简易移动电话,小灵通
1995年7月からにサービスを始めた、設備や仕様を簡略化し、通話料を低く押さえた簡易型携帯
電話であり、電柱や電話ボックスなどに設けた基地局と電話機を電波で結ぶデジタル方式のもの
である。一般に料金は安いが、乗り物などでの移動中は通じにくい欠点がある。
〇 JGテレネット JG te I enet公司
0 NTTドコモ NTT DoCoMo公司
平成2年3月の「政府措置」における日本電信電話株式会社の「移動体通信業務の分離」について
の方針を踏まえ、平成3年8月工ヌ•ティ•ティ・移動通信企画株式会社として設立した。
❻ 専用端末(せんようたんまつ)「P — docoj 专用终端P-doco
〇 セキュリティー大手のセコム 大型电子安全公司西科姆
「セコム」は、1962年に日本で初めてのセキュリティ会社として創業。本社、東京。資本金、
663億円。 西科姆公司提供的位置信息服务
〇 「ココセコム」
セコムの位置情報案内サービス。
174日语综合教程第七册
表参道(おもてさんどう)
東京都渋谷区の地名。
南青山(みなみあおやま)
東京都港区の地名。
牛込(うしごめ)
東京都新宿区の地名。
第9課手作り幻想 175
徒然草
1.随筆の本質
つれづれなるままに、日暮らし硯にむかひて、心にうつりゆくよしなしごと
を、そこはかとなく書きつくれば、あやしうこそものぐるほしけれ。
序段
I語釈
つれづれ(徒然) [名・形動] することがなくて寂しいこと。所在ないこと。
日暮らし(ひぐらし)
よしなし(由無し) [名・副] (名詞の副詞的な用法)朝から晩まで。一日中。
そこはかと
あやし(怪し) [形ク] 理由がない。わけがない。
ものぐるほし(もの
[副] はっきりした理由がない。
狂ほし)
[形シク] 普通並みでなく、変だ。
[形シク] 正気を失ったようだ。
I注釈
〇つれづれなる
形容動詞「つれづれなり(ナリ活用)」の連体形。
❷ままに
形式名詞「まま」に格助詞「に」をつけて、①〜にまかせて、②〜従って、③〜の通りに、④〜
なので、⑤〜するやいなや、などの意味を表すが、ここでは、「〜にまかせて」の意味である。
❸硯にむかひて
物を書く道具の一つの硯によって、机に向かってものを書くという意味を表す。
❹そこはかとなく
副詞「そこはかと」と「なし」との組み合わせで、ここでは複合形容詞となる。どこということ
なく、はっきりしない状態を表す。
176 日语综合教程第七册
❺書きつくれば
動詞「書きつく」の已然形「書きつくれ」に接続助詞「ば」をつけて偶然的な前提条件を表し、
「〜ていくと」の意味を表す。
❻こそ
係助詞。名詞、副詞、活用語の連用形、助詞、形容詞の語幹に「み」のついたものなどにつく。
文中で「こそ」が用いられた場合、それを受ける活用語は已然形で結ばれる(「係り結び」)。ま
た、奈良時代は、形容詞及び形容詞型活用の助動詞は連体形で結ぶ。ここでは形容詞「あやし(シ
ク活用)」の連用形「あやしう」について、意味を強める働きをする。
: 2.旅の珍しさ
いづくにもあれ、しばし旅立ちたるこそ、めさむる心ちすれ。
そのわたり、ここかしこ見ありき、ゐなかびたるところ、山里などは、いと
目なれぬ事のみぞ多かる 。都へたよりもとめて文やる 。「その事かの事、便宜に
イ、 オ
忘るな」など言ひやるこそをかしけれ。
さやうの所にてこそ、よろづに心づかひせらるれ。持てる調度まで、よきは
才
よく、能ある人、かたちょき人も、常よりはをかしとこそ見ゆれ。
寺•社などにしのびてこもりたるもをかし。
第15段
f語釈 [代名] どのあたり。どのへん。
[副] 少しの間。ちょっとの間。
いづく(何処) [名] 感じ。気持ち。
しばし(暫し) [名] あたり。付近。
心ち(ここち) [代名] そこ。あそこ。
わたり(辺り) '[自四] (複合動詞)あちこち見て回る。
かしこ(彼処) [自上ニ] 田舎らしくなる。田舎めく。
見ありく(み歩く) [副] まったく。ほんとに。実に。
田舎ぶ(いなかぶ) [自下二] 見て慣れる。親しく交わる。馴染む。
いと [名] ついで。幸便。
目なる(め馴る)
たより(便り)
第io課徒然草 177
便宜(びんぎ) [形動] 都合がいい。よい機会。
忘る(わする) [自下二] 自然に忘れる。
をかし [形シク] 面白い、興味がある。
さやう(然様、左様) [形動] そのよう。
よろづ(万) [副] 数の多いこと。いろいろなこと。
調度(てうど) [名] 身の回りに使う道具。
見ゆ(みゆ) [自下二] 見える。見られる。
忍ぶ(しのぶ) [他四] 人に知られないようにする。人目にとま
らないようにする。
こもる(籠る) [自四] 神社や寺などに泊まって祈願する
、注釈
〇いづくにもあれ
「あれ」は、動詞「あり」の命令形であるが、ここでは放任(譲歩)の用法で、「〜であってもよ
い」の意味である。
❷旅立ちたる
「たる」は完了を表す助動詞「たり」の連体形。
❸めさむる心ちすれ
「さむる」はマ行下二段活用の自動詞「さむ」の連体形。「すれ」はサ変動詞「す」の已然形で、
係助詞「こそ」に呼応して、文語文の係り結びの関係をなす。「めさむる心ちすれ」は、「新鮮な
感じがする」という意味である。
❹目なれぬ事
見慣れないこと。転じて、珍しいこと。
❺多かる
ク活用形容詞「多し(おほし)」の連体形。
❻をかしけれ
シク活用形容詞「をかし」の已然形で、確定条件を表わす。
〇さやうの所
そのような旅先。
❽心づかひせらるれ
「せらるれ」は、サ変動詞「す」の未然形「せ」に、自発の助動詞「らる」の已然形「らるれ」が
付いたもの。「自然に気遣いがせられるものである。」という意味である。
❾かたちよき
「かたち」は、ここでは「顔かたち」「容貌」の意味である。
®しのびて
ここでは、「人目を忍んでそっと」という意味である。
178 日语综合教程第七册
3.簡素な賢人の生活
人は己をつづまやかにし、奢りを退けて、財をもたず、世をむさぼらざらん
ぞ、いみじかるべき。昔より、賢き人の富めるは稀なり。
唐土に許由と言ひつる人は、さらに身にしたがへる貯へもなくて、水をも手
して捧げて飲みけるを見て、なりひさこと言ふ物を人の得させたりければ、あ
る時、木の枝にかけたりけるが、風にふかれて鳴りけるを、かしかましとて捨
てつ。また手にむすびてぞ水も飲みける。いかばかり心のうち涼しかりけん。
孫晨は冬の月に衾なくて、藁一束ありけるを、夕にはこれにふし、朝にはをさ
めけり。
もろこし エ ユ・
唐土の人は、これをいみじと思へばこそ、記しとどめて世にも伝へけめ、こ
れらの人は、語りも伝ふべからず。
第18段
b語釈 [形動ナリ] 質素だ。
[他下二] 遠ざける。
っづまやか(約まやか) [他四] あくまでほしがる。欲深く執着する。
退く(しりぞく) [形シク] 優れている。たいしたものだ。
むさぼる(貪る) [名] 古く、日本から中国を呼ぶ称。
いみじ [人名] 中国の古代伝説上の賢人・高士。本文の伝説は
唐土(もろこし) 『蒙求』の「許由一瓢」による。
許由(きょいう) [副] まったく。
[自四] 身に付き添う。添えて持っている。
さらに [他下二] ものを両手に持って高く上げる。
したがふ(従ふ) [名] 瓢箪(ひょうたん)。
ささぐ(捧ぐ) [他下二] 与える。下二段活用動詞「得(う)」の未然形
なりひさこ(生り瓢) 「え」に、使役の助動詞「さす」が付いて一語
得さす(えさす) [形シク] 仕:したもの。
[他下二] やかましい。うるさい。
かしかまし(囂し) 捨てる。
捨つ(すつ)
第10課徒然草 179
むすぶ(掬ぶ) [他四] 手のひらで(水などを)すくう。
いかばかり [副] どのぐらい。どんなに。
涼し(すずし) [形シク] 気持ちがいい。心の中がさっぱりしている。
衾(ふすま) [名] かけ布団。寝具。
ふす(臥す) [自四] 横になる。寝る。
をさむ(収・納む) [他下二] しまう。隠しておく。
とどむ(止・留む) [他下二] 留める。
!注釈・
〇っづまやかにし
「質素にして」という意味。
❷世をむさぼらざらんぞ
「世俗的な欲望を強いて求めないのが」という意味。
「むさぼら」は、「むさぼる」の未然形、「ざら」は、打消しの助動詞「ず」の「未然形」、「ん」は、
仮定・婉曲の助動詞「む(ん)」の連体形。「ぞ」は、強意の係助詞である。
❸いみじかるべき
「いみじかる」は、シク活用形容詞「いみじ」の連体形。「べき」は、推量の助動詞「べし」の連
体形である。「いみじ」は程度が甚だしい意味を表し、よい意味において「たいへん優れている」、
悪い意味において「たいへんひどい」となる。
❹富めるは稀なり
「富め」はマ行四段活用動詞「富む」の已然形、「る」は完了存続の助動詞「り」の連体形、「稀
なり」は、ナリ活用形容動詞の終止形である。
0唐土に許由と言ひつる人
「中国で許由といった人」という意味。「つる」は、完了の助動詞「つ」の連体形である。
0水をも手して
ここの「して」は格助詞で、手段、方法を現す。
〇飲みける
「ける」は、間接経験の過去を表す助動詞「けり」の連体形。
❽得させたりければ
「与えたのであるが」という意味。「たり」は完了の助動詞「たり」の連用形、「けれ」は間接経
験の過去を表す助動詞「けり」の已然形、「ば」は接続助詞で、活用語の已然形に付いて、偶然
条件(「〜と」、「偶然に」、「〜ところ」)を現す。
❾かけたりけるが
「かけておいたが」という意味。
的鳴りけるを
「鳴ったので」という意味。ここの「を」は、順接の確定条件を表す接続助詞である。
❿いかばかり心のうち涼しかりけん
「心のうちはどんなに清々したことであろう」という意味。
「涼しかり」は、シク活用の形容詞「涼し」の連用形、「けん」は、過去の推量を表す助動詞「け
む(けん)」の連体形である。
®冬の月
「冬の時期」「冬の季節」という意味。
180日语综合教程第七册
®ありける
「あった」という意味。「ける」は、間接経験の過去を表す助動詞「けり」の連体形である。
®世にも伝へけめ
「後世にも伝えたのであろうが」という意味。「けめ」は、過去の推量の助動詞「けむ」の已然形
で、上の「こそ」の結びである。そして、逆接で次の文に続く。
®これらの人
「こちらの人」は「わが国の人」という意味。
4.専門家の尊さ
亀山殿の御池に、大井川の水をまかせられんとて、大井の土民に仰せて、水車
を造らせられけり。多くのあしを給ひて、数日に営み出だして、かけたりける
に、大方めぐらざりければ、とかく直しけれども、つひにまはらで、いたづらに
立てりけり。さて、宇治の里人を召して、こしらへさせられければ、やすらかに
ゆひて参らせたりけるが、思ふやうにめぐりて、水を汲み入るる事、めでたかり
けり。よろづにその道を知れる者は、やんごとなきものなり。
第51段
語釈 [他下二] 田圃や池に水を引く。水を送る。
[名] 土着の大民。農民。
まかす(引す) [他下二] 「言ふ」の尊敬語。「おっしゃる」の意味。
土民(どみん) [名] 金銭。お金。
仰す(おほす) [他四] 「与(あた)ふ」の尊敬語。上位者が下位者にものを与
あし(銭) えること。くださる。
給ふ(たまふ) [副] 下に打消し語がくれば、「少しも」、「まるで」の意味
となる。
大方(おほかた) [自四] まわる。回って戻る。
[副] いろいろと。あれやこれやと。
めぐる(廻る) [副] ①とうとう。②しまいに。最後に。
とかく [形動ナリ] 役に立たない。むなしい。無益である。
つひに(終に) [名] 土着の人民。農民。
いたづら(徒ら)
里人(さとびと)
第10課徒然草 181
召す(めす) [他四] 貴人が呼び寄せる。お招きになる。
こしらふ(捲ふ) [他四] 工夫してこしらえる。建設する。
やすらか(安らか) [形動ナリ〕 容易である。簡単である。やすやすと。
ゆふ(結ふ) [他四] 組み立てる。構え作る。
まゐらす(参らす) [他下二] 「与ふ」「やる」の謙譲語。その動作の及ぶ相手をう
やまう。「さしあげる」「献上する」の意味。
めでたし [形ク] すばらしい。
やんごとなし [形ク] 「やむごとなし」に同じ。並々でない。尊い。高貴だ。
I注釈
〇 亀山殿(かめやまどの)
京都市右京区嵯峨町にあった離宮。後嵯峨天皇が建てた。今の天龍寺はその旧址。
❷御池(みいけ)
大井川の北岸にあり、この池は今の天龍寺の池になっている。
❸大井川(おほゐがわ)
保津川の下流。嵐山のふもとから大井川となり、桂川を経て賀茂川に入り、淀川に注ぐ。
〇まかせられん
「お引きになろうとして」という意味。「まかせ」はサ行下二段活用の動詞「まかす」の未然形で、
「られ」は尊敬の助動詞「らる」の未然形。「ん」は意志を表す助動詞「ん」の終止形である。
❺仰せて
「お命じになって」という意味。
❻造らせられけリ
「造らせ」はラ行四段活用の動詞「造る」の未然形「造ら」に、使役の助動詞「す」の未然形「せ」
が付いたもの。「られ」は尊敬の助動詞「らる」の未然形、「けり」は過去を表す助動詞「けり」
の終止形である。
〇営み出だして
「造り出して」の意味。
❽かけたりけるに
「(水車を)かけたが、」という意味。ここの「たり」は、完了を表し、「ける」は、過去を表す。
ともに、助動詞である。
❾めぐらざりければ
「まわらなかったので」という意味。「めぐら」はラ行四段活用の動詞「めぐる」の未然形で、「ざ
り」は打消しの助動詞「ず」の連用形で、「けれ」は過去を表す助動詞「けり」の已然形、「ば」
は接続助詞で、順接の確定条件(〜ので、〜から)を表す。
®つひにまはらで
「とうとう回らないで」という意味で。「で」は接続助詞で、打消しの接続(〜ないで、〜ずに)
を表す。
(D宇治(うじ)
京都府宇治市宇治川のあたり。古来水車の名所。
也参らせたりけるが
「さしあげたのが」という意味。
182日语综合教程 第七册
®思ふやうに
「思うとおりに」という意味。
®めでたかりけリ
「すばらしかった」「みごとであった」という意味。
®よろづに
「よろづ」は「数の多いこと」を表わすが、「よろづに」は本文では「何事につけ」の意味を表す。
その道
本文では、「技術の真髄」「専門の道」の意味を表す。
5・指導者の必要性
にんなじ いはしみづオ
仁和寺にある法師、年寄るまで石清水ををがまざりければ、心うく覚えて、あ
る時思ひ立ちて、ただひとり、徒歩よりまうでけり。極楽寺・高良などををが
みて、かばかりと心得て帰りにけり。さて、かたへの人にあひて、「年ごろ思
ひつること、果たしはべりぬ、聞きしにも過ぎて、たふとくこそおはしけれ。そ
も、参りたる人ごとに山へ登りしは、何事かありけん、ゆかしかりしかど、神
へ参るこそ本意なれと思ひて、山までは見ず」とぞ言ひける。すこしのことに
も、先達はあらまほしき事なり。
第52段
、語釈
をがむ(拝む) [他四] 参拝する。
心うし(こころ憂し) [形ク] (自分のことについて)悲しい。情けない。つらい。
思ひ立つ [他四] しようと思う。
徒歩(かち) [名] 歩くこと。
まうづ(詣づ) [自下二] お参りする。参詣する。「行く」の謙譲語。その動
作の及ぶ相手を敬う。
かばかり [副] このぐらい。これだけ。
心得(こころう) [自下二] 承知する。引き受ける。理解する。
かたへ(片方) [名] 仲間。同輩。そば。
たふとし(尊し・貴し) [形] あがめ重んずるべきである。優れて価値がある。
そも [接] それにしても。それはそうと。
ゆかしかり [形シク] 好奇心がもたれる。(強く心が惹かれて)知りたい、
見たい、聞きたい。
第io課徒然草183
先達(せんだつ・せんだ[名] 案内者。指導者。
ち)
、注釈
❶ 仁和寺(にんなじ)
京都市右京区御室(おむろ)にある真言宗御室派の大本山。
❷石清水(いわしみず)
石清水八幡宮のことを指す。京都府八幡(やわた)市男山(おとこやま)にあるので男山八幡と
もいう。
❸をがまざりければ
「参拝したことがなかったので」という意味。「ざり」は打消しの助動詞「ず」の連用形、「けれ」
は過去の助動詞「けり」の已然形、「ば」は接続助詞で、順接の確定条件を表す。
❹徒歩よりまうでけり
「歩いて(石清水八幡宮に)参詣した」という意味。格助詞「より」は移動の手段•方法を示す。
0極楽寺(ごくらくじ)•高良(こうら)
二つとも男山の麓にある八幡宮付属の寺社。「高良」は「高良明神(こうらみようじん)」のこと
を指す。当時は神仏混合であった。
❻年ごろ
「長年」の意味。
〇はべりぬ
ラ行変格活用の補助動詞「はべり」は動詞連用形について、丁寧語をなし、「〜です、〜ます、〜
でございます」の意味である。「ぬ」は、完了を表す。
❽聞きいこも過ぎて
「聞いていた以上に」の意味。「し」は、過去を表す助動詞「き」の連体形である。
❾おはしけれ
「おありでした」という意味。「おはし」は、サ行変格活用の自動詞「御座す(おはす)」の連用
形。「あり」「居(を)り」「行(ゆ)く」「来(<)Jなどの尊敬語である。
®ゆかしかりしかど
「行ってみたかったが」という意味。「ゆかし」は「知りたい」「見たい」「聞きたい」という強い
願望を示す。ここでは「ぜひ見たい」の意味。接続助詞「ど」は逆接の確定条件を表す。
(D本意なれ
「最初からの目的である」という意味。「なれ」は、断定の助動詞「なり」の已然形で、上の「こ
そ」を受ける。
®すこしのこと
「ちょっとしたこと」の意味。
®あらまほしき事なり
「あってほしいことである」という意味。「あらまほし」は、ラ行変格活用動詞「あり」の未然形
「あら」に、希望の助動詞「まほし」が付いたもの。ここでは連語として扱う。「なり」は、断定
の助動詞「なり」の終止形である。
184 日语综合教程第七册
6.名人の至言
高名の木のぼりと言ひしをのこ、人をおきてて、高き木にのぼせて、梢を切
らせしに、いとあやふく見えしほどは、言ふこともなくて、おるる時に、軒た
けばかりになりて、「あやまちすな。心しておりよ」と言葉をかけ侍りしを、「か
ばかりになりては、飛びおるともおりなん。いかにかく言ふぞ」と申し侍りし
かば、「その事に候ふ。目くるめき、枝あやふきほどは、おのれが恐れ侍れば申
さず。あやまちは、やすき所になりて、必ずつかまつる事に候ふ」と言ふ。あ
やしき下藹なれども、聖人のいましめにかなへり。鞠も、かたき所を蹴出だし
てのち、やすく思へば、必ず落つと侍るやらん。
第109段
、語釈
高名(かうみやう) [名・形動] 名咼いこと。
男。男の子。
をのこ(男の子) [名] 命令する。指図する。
上へ進ませる。上がらせる。(本文では)登らせる。
おきつ(捷つ) [他下二] 木の枝。
危険だ。危ない。
のぼす(上す) [他下二] 下りる。
軒の高さ。
梢(こずゑ) [名] しくじり〇失敗。過失。
気をつける。注意する。
あやふし(危ふし) [形ク] (目が)回る。目まいがする。
降る(おる) [自上ニ] 簡単だ。たやすい。
「する」「行う」の謙譲語。致す。
軒たけ(のき丈) [名] いやしい。粗末だ。
地位が低いもの。官位が低いもの。
あやまち(過ち) [名] 適合する。一致する。
容易でない。難しい。
心す(こころす) [自サ]
<るめく(転めく ・ [自四]
眩めく)
やすし(易し) [形ク]
つかまつる(仕る) [自四]
あやし(賤し) [形シク]
下藹(げらふ) [名]
かなふ(叶ふ•適う) [自四]
かたし(難し) [形ク]
第10課徒然草 185
蹴出だす(けいだす)[他四] 「蹴る」と「出だす(いだす)」の複合語。蹴って出す。
蹴り上げる。
落つ(おつ) [自上二]落ちる。落とす。
、注釈
〇言ひしをのこ
ここの主語は「世人」。したがって、「(と)言われた男」の意味。ここの「し」は、直接経験の過
去を表す助動詞「き」の連体形。
〇いとあやふく見えしほどは
「たいへん危なく見えた間は」という意味。ここの「ほど(程)」は時間を表す「あいだ」の意味
である。
❸おるる時に
「おるる」は、ラ行上三段活用の動詞「おる(降る・下る)」の連体形である。
〇心しておりよ
「気をつけて降りよ」の意味。「おりよ」は、ラ行上二段活用の動詞「おる」の命令形である。
❺ 言葉をかけ侍りしを
「言葉をかけましたので」の意味。「かけ侍りしを」の「を」は接続助詞で、順接の確定条件(既
にそうなっている前提を原因、理由として、順当に後ろに続ける)を表す。「〜ので、〜から」の
意味。
❻飛びおるともおりなん
「飛び降りたって、降りることができるだろう」という意味。ここの「とも」は接続助詞で、逆
接の仮定条件を表し、「もし〜ても」「たとえ〜たって」の意味である。「なん」は、完了を表す
助動詞「ぬ」の未然形に推量を表す助動詞「む」の終止形をつけてできた連語であり、可能性に
対する推量の意味を表す。
〇いかにかく言ふぞ
「なぜ、こんなことを言うのか」の意味。ここの「ぞ」は係助詞で、疑問表現の文末に用いられ
る「ぞ」は、疑問の意を強調する。
❽申し侍りしかば
「申しましたので」の意味。「申す(もうす)」は「言ふ」の謙譲語。「侍り」は丁寧を表す補助動
詞。「しか」は、直接経験の過去を表す「き」の已然形。「ば」は接続助詞、活用語の已然形につ
いて、順接確定条件を表す。
❾そのことに候ふ
「はい、そのことです」という意味。ここの「に」は、断定の助動詞「なり」の連用形。「候ふ(さ
うらふ)」は補助動詞「あり」の丁寧語で、聞き手を敬う意をそえる。「(〜で)ございます」の意
味を示す。
的枝あやふきほどは
「枝が折れそうで危ない間は」という意味。
<0おのれが恐れ侍れば
「自分が恐れていますから」の意味。「侍れ」は、丁寧を表すラ行変格活用の補助動詞「侍り(は
べり)」の已然形。「ば」は接続助詞、活用語の已然形について、順接の確定条件(〜ので、〜か
186日语综合教程第七册
ら)の意味を表す。
畛やすき所
「簡単な所」「なんでもない所」の意味。
つかまつる事に候ふ
「いたすものでございます」の意味。
曲あやしき下蘭なれども
「いやしい身分の低い者ではあるが」の意味。
@やすく思へば
「もう安心だと思うと」の意味。
ゆ侍るやらん
「(と)申すようです」の意味。「やらん」は「にやあらむ」が変化したものである。「〜とやら、〜
とかいうことだ」(断定せずに婉曲に言う意)〇
紳*1^ 習白
次の文章を読んで、後の質問に答えなさい。
茶の間の方では、かん高い妻のお百(ひやく)の声や内気らしい嫁のお路(みち)の
声がにぎやかに聞こえている。時々太い男の声がまじるのは、おりからイ卒(せがれ)
の宗伯(そうはく)も帰りあわせたらしい。太郎は祖父のひざにまたがりながら、そ
れを聞きすましでもするように、わざとまじめな顔をして天井をながめた 。外気に
さらされたほおが赤くなって、小さな鼻の穴のまわりが、息をするたびに動いてい
る。
「あのね、おじいさまにね。」栗梅の小さな紋付きを着た太郎は、突然こう言いだ
した。考えようとする努力と、笑いたいのをこらえようとする努力とで、©笑窪が
何度も消えたりできたりする。——それが馬琴には、自ずから微笑を誘うような気
がした。
「よく毎日。」「うん、よく毎日?」「お勉強なさい。」,馬琴はとうとう①ふきだした。
が、笑いの中ですぐまたことばをつぎながら、「それから?」「それから—— ええと
—— 痼隨をおこしちやいけませんって。」「おやおや、それっきりカゝい。」
「まだあるの。」
太郎はこう言って、自分もまた笑い出した。目を細くして、白い歯を出して、小
さな笑窪をよせて、笑っているのを見ると、これが大きくなって、世間の人間のよ
うな哀れむべき顔になろうとは②空しても思われない。馬琴は幸福の意識に©溺
第10課徒然草 187
れながらこんなことを考えた。そうしてそれが、さらにまた彼の心をくすぐった。
「まだ何かあるかい?」「まだね。いろんなことがあるの。」
「どんなことが。」「ええと——おじいさまはね。今にもっとえらくなりますから
ね。」「えらくなりますから?」「ですからね。よくね。辛抱をしなさいって。」「辛
抱しているよ。」馬琴は思わず、まじめな声を出した。「もっと、もっとようく辛抱
しなさいって。」「だれが(A )を言ったのだい。」「それはね。」太郎はいたずら
そうに、ちょいと彼の顔を見た。そうして笑った。「③だあれだ?」「そうだな。今
日は、ご仏参に行ったのだから、お寺の坊さんに聞いてきたのだろう。」「違う。」断
然として首を振った太郎は、馬琴のひざから、半分腰を©擡げながら、あごを少し
前へ出すようにして、「あのね。」「うん。」「浅草の観音様がそう言ったの。」
こう言うとともに、この子どもは、家内中に聞こえそうな声でうれしそうに笑い
ながら、馬琴につかまるのを恐れるように、急いで彼のそばから飛び退いた 。そう
してうまく祖父をかついだおもしろさに小さな手を叩きながら 、ころげるようにし
て茶の間の方へ逃げて行った。
馬琴の心に、厳粛な何物かが、刹那に(B )のは、この時である。彼のくちび
るには幸福な微笑が浮かんだ。それとともに彼の目には、いつか涙がいっぱいに
なった。この冗談は、太郎が考え出したのか、あるいはまた母が教えてやったの
か、それは彼の問うところではない 。この時、この孫の口からこういうことばを聞
いたのが、不思議なのである。
「観音様がそう言ったか。勉強しろ。癇癩を起こすな。そうして、もっとよく辛
抱しろ。」
六十何歳かの老芸術家は、④涙の中に笑いながら、子どものようにうなずいた。
dD 文章中の下線部①「ふきだした」の理由として、最も適当なものを次のa〜
Dから選んで、〇をつけなさい。
A太郎の顔の表情がとてもこっけいだったから。
B太郎に気にかかることを言われておどろいたから。
c太郎がいたずらっぽい表情でおかしな言い方をしたから。
D太郎のふるまいがとても大人びていたから。
188 日语综合教程第七册