人間失格 太宰治
人間失格 はしがき 。見たことがある、その男の写真を三葉、私は 十、とでも言うべきであろうか、幼年時代、その男の、一葉は その子供が大勢の女、歳前後かと推定される頃の写真であって 、妹たち、その子供の姉たち、それは、 (のひとに取りかこまれ 従姉妹、 それから いとこ 荒、 庭園の池のほとりに) たちかと想像される い縞の袴 はかま 醜く笑って、首を三十度ほど左に傾け、をはいて立ち 美、つまり(鈍い人たち、けれども?醜く。いる写真である 面白くも何とも無いような、は)醜などに関心を持たぬ人たち 、顔をして
人間失格 「可愛い坊ちゃんですね「 まんざら空、といい加減なお世辞を言っても から お世辞に聞えな 謂、 いくらいの い みたいな影もその子供」可愛らしさ「わば通俗の 美、いささかでも、しかし、の笑顔に無いわけではないのだが 、ひとめ見てすぐ、醜に就いての訓練を経て来たひとなら 「いやな子供だ、なんて「 と頗 すこぶ る不快そうに呟 つぶや 毛虫でも払いのける時のような手つ、き 。その写真をほうり投げるかも知れない、きで 何とも、よく見れば見るほど、その子供の笑顔は、まったく そ、どだい。イヤな薄気味悪いものが感ぜられて来る、知れず そ。少しも笑ってはいないのだ、この子は。笑顔でない、れは 。両方のこぶしを固く握って立っている、この子は、の証拠には 。こぶしを固く握りながら笑えるものでは無いのである、人間は
人間失格 顔に醜い皺、ただ。猿の笑顔だ。猿だ しわ を寄せているだけなので まこ、とでも言いたくなるくらいの」皺くちゃ坊ちゃん。 「ある へんにひとをム、どこかけがらわしく、そうして、とに奇妙な こんな不思、私はこれまで。カムカさせる表情の写真であった 。いちども無かった、議な表情の子供を見た事が びっくりするくらいひど、これはまた、第二葉の写真の顔は く変貌 へんぼう 大、高等学校時代の写真か。学生の姿である。していた おそろし、とにかく、はっきりしないけれども、学時代の写真か 生き、不思議にも、これもまた、しかし。く美貌の学生である 胸のポケット、学生服を着て。ている人間の感じはしなかった から白いハンケチを覗 のぞ 籐椅子、 かせ とういす そう、に腰かけて足を組み 皺くちゃの猿の、こんどの笑顔は。笑っている、やはり、して 人、しかし、かなり巧みな微笑になってはいるが、笑いでなく
人間失格 生命、 とでも言おうか、血の重さ。どこやら違う、間の笑いと いのち そ、そのような充実感は少しも無く、とでも言おうか、の渋さ 、ただ白紙一枚、羽毛のように軽く、鳥のようではなく、れこそ 一から十まで造り物の感じな、つまり。笑っている、そうして 。軽薄と言っても足りない。キザと言っても足りない。のである もちろん足、おしゃれと言っても。ニヤケと言っても足りない 、やはりこの美貌の学生にも、よく見ていると、しかも。りない 私。どこか怪談じみた気味悪いものが感ぜられて来るのである いちども、こんな不思議な美貌の青年を見た事が、はこれまで 。無かった と、まるでもう。最も奇怪なものである、もう一葉の写真は 、それが。頭はいくぶん白髪のようである。しの頃がわからない 、部屋の壁が三箇所ほど崩れ落ちているのが(ひどく汚い部屋
人間失格 小さい火鉢に両手、の片隅で)その写真にハッキリ写っている 、謂わば。どんな表情も無い。こんどは笑っていない、をかざし ま、自然に死んでいるような、 坐って火鉢に両手をかざしながら 奇怪な。不吉なにおいのする写真であった、ことにいまわしい わりに顔が大きく写っ、その写真には。それだけでない、のは つくづくその顔の構造を調べる事が出来た、私は、ていたので 鼻、眼も平凡、眉も平凡、額の皺も平凡、額は平凡、のであるが も口も顎 あご 印象さえ、この顔には表情が無いばかりか、ああ、も 眼を、私がこの写真を見て、たとえば。特徴が無いのだ。無い 小さい火、部屋の壁や。既に私はこの顔を忘れている。つぶる その部屋の主人公の顔の印、鉢は思い出す事が出来るけれども 。何としても思い出せない、どうしても、すっと霧消して、象は 眼を。漫画にも何もならない顔である。画にならない顔である
人間失格 というような、思い出した、こんな顔だったのか、あ。ひらく 眼をひらいてその、極端な言い方をすれば。よろこびさえ無い 、ただもう不愉快、そうして。思い出せない、写真を再び見ても 。つい眼をそむけたくなる、イライラして 「死相 「所謂 いわゆる もっと何か表情なり印象、というものにだって 人間のからだに駄馬の首でもくっつ、なりがあるものだろうに どこ、とにかく、こんな感じのものになるであろうか、けたなら いやな気持にさせ、ぞっとさせ、見る者をして、という事なく や、こんな不思議な男の顔を見た事が、私はこれまで。るのだ 。いちども無かった、はり
人間失格 第一の手記 。恥の多い生涯を送って来ました 。見当つかないのです、人間の生活というものが、自分には 、汽車をはじめて見たのは、自分は東北の田舎に生れましたので 、自分は停車場のブリッジを。よほど大きくなってからでした そうしてそれが線路をまたぎ越えるために造、降りて、上って ただそれは停車場の、られたものだという事には全然気づかず ハイカラにする、複雑に楽しく、構内を外国の遊戯場みたいに
人間失格 。設備せられてあるものだとばかり思っていました、ためにのみ ブリッジの上っ。かなり永い間そう思っていたのです、しかも ずいぶん垢抜、自分にはむしろ、たり降りたりは あかぬ けのした遊戯 最も気のきいたサーヴィ、 それは鉄道のサーヴィスの中でも、で のちにそれはただ旅客が線、スの一つだと思っていたのですが 路をまたぎ越えるための頗る実利的な階段に過ぎないのを発見 。にわかに興が覚めました、して こ、絵本で地下鉄道というものを見て、自分は子供の頃、また 地、実利的な必要から案出せられたものではなく、れもやはり 地下の車に乗ったほうが風がわりで面白、上の車に乗るよりは 。とばかり思っていました、い遊びだから 、寝ながら、よく寝込みましたが、自分は子供の頃から病弱で つまらない、つくづく、掛蒲団のカヴァを、枕のカヴァ、敷布
人間失格 二十歳ちかく、それが案外に実用品だった事を、装飾だと思い 悲しい思いを、人間のつましさに暗然とし、になってわかって 。しました そ、いや。空腹という事を知りませんでした、自分は、また 、自分が衣食住に困らない家に育ったという意味ではなく、れは という感覚はど」空腹「自分には、そんな馬鹿な意味ではなく へんな言いか。さっぱりわからなかったのです、んなものだか 自分でそれに気がつかない、おなかが空いていても、たですが 周囲、自分が学校から帰って来ると、中学校、小学校。のです 自分たちにも覚えが、おなかが空いたろう、それ、の人たちが 甘納、学校から帰って来た時の空腹は全くひどいからな、ある などと言って騒ぎま、パンもあるよ、カステラも?豆はどう おなかが空、自分は持ち前のおべっか精神を発揮して、すので
人間失格 、甘納豆を十粒ばかり口にほうり込むのですが、と呟いて、いた ちっともわかっていやしなかっ、どんなものだか、空腹感とは 。たのです 大 、それは勿論、自分だって もちろん 、しかし、いにものを食べますが めず。ほとんどありません、ものを食べた記憶は、空腹感から 豪華と思われたものを食べ。らしいと思われたものを食べます た、無理をしてまで、よそへ行って出されたものも、また。ます 最も苦、子供の頃の自分にとって、そうして。いてい食べます 。自分の家の食事の時間でした、実に、痛な時刻は めいめいのお、十人くらいの家族全部、自分の田舎の家では 膳 ぜん もちろん一ば、末っ子の自分は、を二列に向い合せに並べて 昼ごはんの時な、その食事の部屋は薄暗く、ん下の座でしたが ただ黙々としてめしを食っている有様に、十幾人の家族が、ど
人間失格 気質 それに田舎の昔。自分はいつも肌寒い思いをしました、は かたぎ めずらしい、たいていきまっていて、おかずも、の家でしたので い、そんなものは望むべくもなかったので、豪華なもの、もの 自分はその薄暗い部。よいよ自分は食事の時刻を恐怖しました 寒さにがたがた震える思いで口にごはんを少量ず、屋の末席に どうして一日に三度々々ごはんを、人間は、押し込み、つ運び これも、実にみな厳粛な顔をして食べている、食べるのだろう 時刻をきめ、家族が日に三度々々、一種の儀式のようなもので 食べたくなく、お膳を順序正しく並べ、て薄暗い一部屋に集り ても無言でごはんを噛 か 家中にうごめいて、うつむき、みながら とさえ考えた事が、いる霊たちに祈るためのものかも知れない 。あるくらいでした た、自分の耳には、という言葉は、めしを食べなければ死ぬ
人間失格 いま、 (その迷信は。だイヤなおどかしとしか聞えませんでした (何だか迷信のように思われてならないのですが、でも自分には めし、人間は。いつも自分に不安と恐怖を与えました、しかし めしを食べなけ、そのために働いて、を食べなければ死ぬから という言葉ほど自分にとって難解で晦渋、ればならぬ かいじゅう そう、で 。無かったのです、して脅迫めいた響きを感じさせる言葉は 人間の営みというものが未、つまり自分には いま だに何もわかっ 世、自分の幸福の観念と。という事になりそうです、ていない まるで食いちがっている、のすべての人たちの幸福の観念とが 転輾、 自分はその不安のために夜々、ような不安 てんてん 呻吟、 し しんぎん 発、し いったい幸福なのでしょ、自分は。狂しかけた事さえあります 仕合せ者だと人に、実にしばしば、自分は小さい時から。うか 、かえって、自分ではいつも地獄の思いで、言われて来ましたが
人間失格 比較にも何もな、自分を仕合せ者だと言ったひとたちのほうが 。らぬくらいずっとずっと安楽なように自分には見えるのです 禍、 自分には わざわ 、その中の一個でも、いのかたまりが十個あって 隣人が脊負 せお その一個だけでも充分に隣人の生命取りに、ったら 。思った事さえありました、なるのではあるまいかと 、程度が、隣人の苦しみの性質。わからないのです、つまり め、ただ、プラクテカルな苦しみ。まるで見当つかないのです それこそ最も、しかし、しを食えたらそれで解決できる苦しみ 吹っ飛んでしまう程、自分の例の十個の禍いなど、強い痛苦で 凄惨、 の せいさん し、わからない、それは、な阿鼻地獄なのかも知れない 政党を論、発狂もせず、よく自殺もせず、それにしては、かし 苦しく、屈せず生活のたたかいを続けて行ける、絶望せず、じ しかもそれを、エゴイストになりきって?ないんじゃないか
人間失格 いちども自分を疑った事が無いんじゃない、当然の事と確信し 皆そんなも、人間というものは、しかし、楽だ、それなら?か ......、わからない、またそれで満点なのではないかしら、ので 朝は爽快、夜はぐっすり眠り そうかい どんな夢を見ている、なのかしら ま?金、道を歩きながら何を考えているのだろう、のだろう めしを食うために生、人間は、それだけでも無いだろう、さか という説は聞いた事があるような気がするけれ、きているのだ 耳にした事が無、という言葉は、金のために生きている、ども それもわからな、いや、……ことに依ると、しかし、いや、い 自分、わからなくなり、自分には、考えれば考えるほど、……い 不安と恐怖に襲われるばかりな、ひとり全く変っているような ど、何を。ほとんど会話が出来ません、自分は隣人と。のです 。わからないのです、う言ったらいいのか
人間失格 。道化でした、そこで考え出したのは 人、自分は。人間に対する最後の求愛でした、自分の、それは どうしても、人間を、それでいて、間を極度に恐れていながら この道化の、そうして自分は。思い切れなかったらしいのです おもてで。一線でわずかに人間につながる事が出来たのでした それこそ千、内心は必死の、絶えず笑顔をつくりながらも、は 油汗流しての、番に一番の兼ね合いとでもいうべき危機一髪の 。サーヴィスでした 彼、自分の家族の者たちに対してさえ、自分は子供の頃から 、またどんな事を考えて生きているのか、等がどんなに苦しく その気まずさに、ただおそろしく、まるでちっとも見当つかず 、つまり。既に道化の上手になっていました、堪える事が出来ず 一言も本当の事を言わない子になっ、いつのまにやら、自分は
人間失格 。ていたのです 他、家族たちと一緒にうつした写真などを見ると、その頃の 必ず奇、自分ひとり、の者たちは皆まじめな顔をしているのに 自分の幼く、これもまた。妙に顔をゆがめて笑っているのです 。悲しい道化の一種でした 口応、 肉親たちに何か言われて、 また自分は くちごた えした事はいちど 自分には霹靂、そのわずかなおこごとは。も有りませんでした へきれき そ、口応えどころか、狂うみたいになり、の如く強く感ぜられ とかいうも」真理「謂わば万世一系の人間の、のおこごとこそ も、自分にはその真理を行う力が無いのだから、のに違いない と思い込んでし、はや人間と一緒に住めないのではないかしら 言い争いも自己弁解も出来な、だから自分には。まうのでした 自、もっとも、いかにも、人から悪く言われると。いのでした
人間失格 いつもそ、分がひどい思い違いをしているような気がして来て 。狂うほどの恐怖を感じました、内心、の攻撃を黙して受け 怒られたりしていい、人から非難せられたり、それは誰でも 自分は怒っている、気持がするものでは無いかも知れませんが 獅子、 人間の顔に しし よりも鰐 わに もっとおそろしい、よりも竜よりも その本性をかくしている、ふだんは。動物の本性を見るのです 牛が草原でおっ、たとえば、何かの機会に、ようですけれども 尻尾、 突如、とりした形で寝ていて しっぽ でピシッと腹の虻 あぶ を打ち殺 怒りに依って暴、不意に人間のおそろしい正体を、すみたいに 自分はいつも髪の逆立つほどの戦慄、露する様子を見て せんりつ 、を覚え この本性もまた人間の生きて行く資格の一つなのかも知れない 。ほとんど自分に絶望を感じるのでした、と思えば 人間とし、また、いつも恐怖に震いおののき、人間に対して
人間失格 そうして自分ひと、みじんも自信を持てず、ての自分の言動に りの懊悩 おうのう 、ナアヴァスネスを、その憂鬱、は胸の中の小箱に秘め 自分は、ひたすら無邪気の楽天性を装い、ひたかくしに隠して 。次第に完成されて行きました、お道化たお変人として 人、そうすると、笑わせておればいいのだ、何でもいいから あまりそ、の外にいても」生活「自分が彼等の所謂、間たちは 彼等人間たちの、とにかく、れを気にしないのではないかしら 空、 風だ、自分は無だ、目障りになってはいけない そら という、だ 、自分はお道化に依って家族を笑わせ、ような思いばかりが募り もっと不可解でおそろしい下男や下女にま、家族よりも、また 。必死のお道化のサーヴィスをしたのです、で 浴衣の下に赤い毛糸のセエターを着て廊下を歩、自分は夏に それ、めったに笑わない長兄も。家中の者を笑わせました、き
人間失格 、を見て噴き出し 「似合わない、葉ちゃん、それあ「 自、なに。可愛くてたまらないような口調で言いました、と いくら何で、真夏に毛糸のセエターを着て歩くほど、分だって 姉の脚絆。暑さ寒さを知らぬお変人ではありません、 そんな、も レギンス 以、 浴衣の袖口から覗かせ、を両腕にはめて もっ てセエターを着て 。いるように見せかけていたのです 上野の桜木、東京に用事の多いひとでしたので、自分の父は 月の大半は東京のその別荘で暮してい、町に別荘を持っていて また親戚、そうして帰る時には家族の者たち。ました しんせき の者たち 父、まあ、実におびただしくお土産を買って来るのが、にまで 。の趣味みたいなものでした こん、父は子供たちを客間に集め、いつかの父の上京の前夜
人間失格 一人々々に笑いながら、どんなお土産がいいか、ど帰る時には それに対する子供たちの答をいちいち手帖、尋ね てちょう に書きとめる めずら、こんなに子供たちと親しくするのは、父が。のでした 。しい事でした 「?葉蔵は「 。口ごもってしまいました、自分は、と聞かれて 何も欲しくなくなるの、とたんに、何が欲しいと聞かれると どうせ自分を楽しくさせてくれるもの、どうでもいい。でした 、同時に、と。ちらと動くのです、なんか無いんだという思いが 、どんなに自分の好みに合わなくても、人から与えられるものを 、イヤと言えず、イヤな事を。それを拒む事も出来ませんでした 極めてにがく味、おずおずと盗むように、好きな事も、また あじわ 、い 自分、つまり。そうして言い知れぬ恐怖感にもだえるのでした
人間失格 、後年に到り、これが。二者選一の力さえ無かったのです、には 重大な原因ともなる、の」恥の多い生涯「いよいよ自分の所謂 。性癖の一つだったように思われます 父はちょっと不機嫌、もじもじしているので、自分が黙って 、な顔になり 子、浅草の仲店にお正月の獅子舞いのお獅子。本か、やはり「 欲、供がかぶって遊ぶのには手頃な大きさのが売っていたけど 「しくないか お道化た。もうダメなんです、と言われると、欲しくないか 完全に落第で、お道化役者は。返事も何も出来やしないんです 。した 「いいでしょう、本が「 。まじめな顔をして言いました、長兄は
人間失格 「そうか「 パチと手帖を閉じ、興覚め顔に手帖に書きとめもせず、父は 。ました 父の復讐、自分は父を怒らせた、何という失敗 ふくしゅう お、きっと、は いまのうちに何とかして取りかえし、そるべきものに違いない 蒲団の中でがたがた震えながら考、とその夜、のつかぬものか 手帖をしまい込んだ、父が先刻、そっと起きて客間に行き、え パラパラめくっ、手帖を取り上げ、筈の机の引き出しをあけて 、手帖の鉛筆をなめて、お土産の注文記入の個所を見つけ、て 、自分はその獅子舞いのお獅子を。と書いて寝ました、シシマイ 本のほうがいい、かえって。ちっとも欲しくは無かったのです 父がそのお獅子を自分に買っ、 自分は、 けれども。くらいでした 、父のその意向に迎合して、て与えたいのだという事に気がつき
人間失格 客間に忍び込むという冒、深夜、父の機嫌を直したいばかりに 。敢えておかしたのでした、険を 果して思いどおりの大、この自分の非常の手段は、そうして 、父は東京から帰って来て、やがて。成功を以て報いられました 。自分は子供部屋で聞いていました、母に大声で言っているのを ここ、これ、この手帖を開いてみたら、仲店のおもちゃ屋で「 はて。私の字ではない、これは。と書いてある、シシマイ、に 葉蔵のいたず、 これは。思い当りました、 と首をかしげて?な にやにやして黙って、私が聞いた時には、あいつは。らですよ どうしてもお獅子が欲しくてたまらなくなっ、あとで、いたが 知。変った坊主ですからね、あれは、どうも、何せ。たんだね そんなに欲しかったのな。ちゃんと書いている、らん振りして おもちゃ屋の店先で笑いまし、私は。そう言えばよいのに、ら
人間失格 「葉蔵を早くここへ呼びなさい。たよ 下男の、下男や下女たちを洋室に集めて、自分は、また一方 ひとりに滅茶苦茶 めちゃくちゃ 田舎ではありま、 (にピアノのキイをたたかせ 自)そろっていました、たいていのものが、その家には、したが 分はその出鱈目 でたらめ インデヤンの踊りを踊って見せ、の曲に合せて フラッシュを焚、次兄は。皆を大笑いさせました、て た 自、いて 、その写真が出来たのを見ると、分のインデヤン踊りを撮影して それは更紗(自分の腰布 さらさ 小さ、の合せ目から)の風呂敷でした 。これがまた家中の大笑いでした、いおチンポが見えていたので これまた意外の成功というべきものだったかも、自分にとって 。知れません ま、とっていて、新刊の少年雑誌を十冊以上も、自分は毎月 たその他 ほか さまざまの本を東京から取り寄せて黙って読ん、にも
人間失格 ナンジャ、また、メチャラクチャラ博士だの、でいましたので たいへんな馴染、モンジャ博士などとは なじみ 、講談、怪談、また、で 小咄 江戸、 落語 こばなし 剽軽、 かなり通じていましたから、などの類にも ひょうきん 家の者たちを笑わせるのには、な事をまじめな顔をして言って 。事を欠きませんでした !学校 、嗚呼、 しかし ああ 尊敬される。尊敬されかけていたのです、そこでは、自分は 甚、 という観念もまた はなは ほとんど。おびえさせました、だ自分を 或るひとりの全知全能の、そうして、完全に近く人をだまして 死ぬる以上の赤恥を、木っ葉みじんにやられて、者に見破られ という状態の自分の定義」尊敬される、 「それが、かかせられる 誰かひとり、ても」尊敬され、 「人間をだまして。でありました そのひとりか、やがて、人間たちも、そうして、が知っている
人間失格 その時の人間たち、だまされた事に気づいた時、ら教えられて 想像し。どんなでしょうか、まあ、いったい、復讐は、の怒り 。身の毛がよだつ心地がするのです、てさえ で「俗にいう、金持ちの家に生れたという事よりも、自分は 自分。学校中の尊敬を得そうになりました、事に依って」きる また一学年ちか、よく一つき二つき、子供の頃から病弱で、は 、それでも、くも寝込んで学校を休んだ事さえあったのですが 学年末の試験、病み上りのからだで人力車に乗って学校へ行き いるようで」できて「クラスの誰よりも所謂、を受けてみると 、さっぱり勉強せず、自分は、からだ具合いのよい時でも。した 休憩時間にはそれ、学校へ行っても授業時間に漫画などを書き 。笑わせてやりました、をクラスの者たちに説明して聞かせて 滑稽噺、 綴り方には、また こっけいばなし 、先生から注意されても、ばかり書き
人間失格 実はこっそり自、先生は。やめませんでした、自分は、しかし 知っていたか、分のその滑稽噺を楽しみにしている事を自分は 自分が母に連れら、れいに依って、自分は、或る日。らでした おしっこを客車の通路にある痰壺、れて上京の途中の汽車で たんつぼ に 自分は痰壺と、その上京の時に、しかし(してしまった失敗談 子供の無邪気をてらっ。知らずにしたのではありませんでした ことさらに悲しそうな筆、を)そうしたのでした、わざと、て きっと笑うという自信がありまし、先生は、致で書いて提出し そっとつけて、職員室に引き揚げて行く先生のあとを、たので 自分のその綴り方、教室を出るとすぐ、先生は、行きましたら 廊下を歩、他のクラスの者たちの綴り方の中から選び出し、を やがて職員室にはいっ、クスクス笑い、きながら読みはじめて 他の先、顔を真赤にして大声を挙げて笑い、て読み終えたのか
人間失格 た、自分は、さっそくそれを読ませているのを見とどけ、生に 。いへん満足でした 。お茶目 尊敬され。所謂お茶目に見られる事に成功しました、自分は 通信簿は全学科とも十。のがれる事に成功しました、る事から 六点だっ、七点だったり、操行というものだけは、点でしたが 。それもまた家中の大笑いの種でした、たりして 凡、 そんなお茶目さんなどとは、けれども自分の本性は およ そ対蹠 たいせき 哀、 女中や下男から、既に自分は、その頃。的なものでした かな し その、幼少の者に対して。犯されていました、い事を教えられ 人間の行い得る犯罪の中で最も醜悪で下、ような事を行うのは 、しかし。自分はいまでは思っています、残酷な犯罪だと、等で 人間の特質を見たとい、これでまた一つ。忍びました、自分は
人間失格 も。力無く笑っていました、そうして、うような気持さえして 彼、悪びれず、本当の事を言う習慣がついていたなら、し自分に し、等の犯罪を父や母に訴える事が出来たのかも知れませんが その父や母をも全部は理解する事が出来なかっ、自分は、かし その手段には少しも期待で、自分は、人間に訴える。たのです お巡、母に訴えても、父に訴えても。きませんでした まわ りに訴え 世間に通り、結局は世渡りに強い人の、政府に訴えても、ても 。のいい言いぶんに言いまくられるだけの事では無いかしら 人間 、所詮、 わかり切っている、必ず片手落のあるのが しょせん に訴 忍、本当の事は何も言わず、自分はやはり、えるのは無駄である 無い気持なので、そうしてお道化をつづけているより他、んで 。した お前は?へえ?人間への不信を言っているのか、なんだ
人間失格 と、いつクリスチャンになったんだい ちょうしょう する人も或いはある 嘲笑 必ずしもすぐに宗、人間への不信は、しかし、かも知れませんが 自分には思われるのです、教の道に通じているとは限らないと 、人間は、現にその嘲笑する人をも含めて。けど 、 お 、 互 、 い 、 の 、 不 、 信 、 の 、 中 、 平気で生きているではあ、エホバも何も念頭に置かず、で 父、自分の幼少の頃の事でありましたが、やはり。りませんか 自分、この町に演説に来て、の属していた或る政党の有名人が そ、満員で。は下男たちに連れられて劇場に聞きに行きました 見、この町の特に父と親しくしている人たちの顔は皆、うして 聴衆は雪、演説がすんで。大いに拍手などしていました、えて クソミソに今夜の演、の夜道を三々五々かたまって家路に就き 父と特に親しい人、中には。説会の悪口を言っているのでした れいの有名人、父の開会の辞も下手。の声もまじっていました
人間失格 同志た「とその所謂父の、わけがわからぬ、の演説も何が何やら そうしてそのひと。が怒声に似た口調で言っているのです」ち 今夜の演説会、自分の家に立ち寄って客間に上り込み、たちは しんから嬉しそうな顔をして父に言ってい、は大成功だったと 今夜の演説会はどうだったと母に聞か、下男たちまで。ました 演。と言ってけろりとしているのです、とても面白かった、れ 下男 、と帰る途々、説会ほど面白くないものはない みちみち たちが嘆き 。合っていたのです 。ほんのささやかな一例に過ぎません、こんなのは、しかし しかもいずれも不思議に何の傷もつか、互いにあざむき合って 実、 あざむき合っている事にさえ気がついていないみたいな、ず 人、それこそ清く明るくほがらかな不信の例が、にあざやかな 自分に、けれども。間の生活に充満しているように思われます
人間失格 さして特別の興味もあ、あざむき合っているという事には、は 朝から晩まで人間を、お道化に依って、自分だって。りません 修身教科書的な正義とか何と、自分は。あざむいているのです あ、自分には。あまり関心を持てないのです、かいう道徳には 、ざむき合っていながら 、 清 、 く 、 明 、 る 、 く 、 朗 、 ら 、 か 、 或い、に生きている 人。は生き得る自信を持っているみたいな人間が難解なのです ついに自分にその妙諦、間は みょうてい そ。を教えてはくれませんでした 必、また、人間をこんなに恐怖し、自分は、れさえわかったら 人間の生活。すんだのでしょう、死のサーヴィスなどしなくて 夜々の地獄のこれほどの苦しみを嘗、と対立してしまって な めず 自分が下男下女たちの憎むべき、つまり。にすんだのでしょう 人間への不信から、誰にも訴えなかったのは、あの犯罪をさえ 葉、人間が、また勿論クリスト主義のためでもなく、ではなく
人間失格 蔵という自分に対して信用の殻を固く閉じていたからだったと 見、時折、自分にとって難解なものを、父母でさえ。思います 。せる事があったのですから 多、自分の孤独の匂いが、誰にも訴えない、その、そうして 本能に依って嗅、くの女性に か 自分、後年さまざま、ぎ当てられ 。がつけ込まれる誘因の一つになったような気もするのです 恋の秘密を守れる男であっ、女性にとって、自分は、つまり 。たというわけなのでした
人間失格 第二の手記 真、といってもいいくらいに海にちかい岸辺に、波打際、海の 、かなり大きいのが二十本以上も立ちならび、黒い樹肌の山桜の 褐色のねばっこいような嫩葉、山桜は、新学年がはじまると わかば と その絢爛、青い海を背景にして、共に けんらん 、やがて、たる花をひらき 海面を、花びらがおびただしく海に散り込み、花吹雪の時には 鏤 ちりば その、波に乗せられ再び波打際に打ちかえされる、めて漂い そのまま校庭として使用せられている東北の或る、桜の砂浜が
人間失格 どうやら、自分は受験勉強もろくにしなかったのに、中学校に その中学の制帽の徽章、そうして。無事に入学できました きしょう 、にも 。桜の花が図案化せられて咲いていました、制服のボタンにも 自分の家と遠い親戚に当る者の家、その中学校のすぐ近くに 父がその海と桜の中学、その理由もあって、がありましたので その家にあずけら、自分は。校を自分に選んでくれたのでした 朝礼の鐘の鳴るのを聞いてか、何せ学校のすぐ近くなので、れ かなり怠惰な中学生でした、走って登校するというような、ら 日一日とクラスの人気、れいのお道化に依って、それでも、が 。を得ていました 自分に、謂わば他郷へ出たわけなのですが、生れてはじめて ずっと気楽な、自分の生れ故郷よりも、その他郷のほうが、は 自分のお道化もその頃に、それは。場所のように思われました
人間失格 人をあざむくのに以前ほ、はいよいよぴったり身について来て と解説しても、どの苦労を必要としなくなっていたからである 故郷と他、肉親と他人、それよりも、しかし、いいでしょうが どのような天、そこには抜くべからざる演技の難易の差が、郷 存在してい、たとい神の子のイエスにとっても、才にとっても 最も演じにく、俳優にとって。るものなのではないでしょうか 全部 眷属 しかも六親、故郷の劇場であって、い場所は けんぞく そろって いかな名優も演技どころで、坐っている一部屋の中に在っては けれども自分は演じて来ま。は無くなるのではないでしょうか それほ。かなりの成功を収めたのです、それが、しかも。した どの曲者 くせもの 万が一にも演じ損ねるなどという事、他郷に出て、が 。は無いわけでした それは以前にまさるとも劣らぬくらい烈、自分の人間恐怖は
人間失格 しく胸の底で蠕動 ぜんどう 演技は実にのびの、しかし、していましたが いつもクラスの者たちを笑わ、教室にあっては、びとして来て とてもいいクラ、このクラスは大庭さえいないと、教師も、せ 手で口を覆って笑ってい、と言葉では嘆じながら、スなんだが あの雷の如き蛮声を張り上げる配属将校をさ、自分は。ました 。実に容易に噴き出させる事が出来たのです、え 自分の正体を完全に隠蔽、もはや いんぺい 、し得たのではあるまいか 自分は実に意外にも背後から突き刺、とほっとしかけた矢先に 、背後から突き刺す男のごたぶんにもれず、それは。されました そうしてた、顔も青ぶくれで、クラスで最も貧弱な肉体をして しかに父兄のお古と思われる袖が聖徳太子の袖みたいに長すぎ る上衣 うわぎ 教練や体操はいつも見学、学課は少しも出来ず、を着て その生徒にさ、自分もさすがに。という白痴に似た生徒でした
人間失格 。え警戒する必要は認めていなかったのでした 姓はいま記憶していません(その生徒、体操の時間に、その日 れいに、その竹一は)名は竹一といったかと覚えています、が 自。自分たちは鉄棒の練習をさせられていました、依って見学 えいっ、鉄棒めがけて、わざと出来るだけ厳粛な顔をして、分は 、そのまま幅飛びのように前方へ飛んでしまって、と叫んで飛び 計画的な失敗でし、すべて。砂地にドスンと尻餅をつきました 自分も苦笑しながら起き上って、果して皆の大笑いになり。た 竹一が、いつそこへ来ていたのか、ズボンの砂を払っていると 低い声でこう囁、自分の背中をつつき ささや 。きました 「ワザ。ワザ「 自分は震撼 しんかん 人もあろ、ワザと失敗したという事を。しました 自。竹一に見破られるとは全く思いも掛けない事でした、うに
人間失格 世界が一瞬にして地獄の業火に包まれて燃え上るのを眼、分は と叫んで発狂しそうな!わあっ、前に見るような心地がして 。気配を必死の力で抑えました 。自分の不安と恐怖、それからの日々の 表面は相変らず哀しいお道化を演じて皆を笑わせていました ふっと思わず重苦しい溜息、が ためいき 何をしたってすべて竹、が出て そのう、そうしてあれは、一に木っ葉みじんに見破られていて それを言いふらして歩くに違いない、ちにきっと誰かれとなく 狂人みた、額にじっとり油汗がわいて来て、と考えると、のだ あたりをキョロキョロむなしく見廻したり、いに妙な眼つきで 竹一の傍、四六時中、晩、昼、朝、できる事なら。しました そば から 。離れず彼が秘密を口走らないように監視していたい気持でした 自分のお道、彼にまつわりついている間に、自分が、そうして
人間失格 ほんものであったというよう思、では無くて」ワザ「所謂、化は 彼と無二、あわよくば、い込ませるようにあらゆる努力を払い 不可能、その事が皆、もし、の親友になってしまいたいものだ とさえ思いつめま、彼の死を祈るより他は無い、もはや、なら 彼を殺そうという気だけは起りませ、さすがに、しかし。した これまでの生涯に於、自分は。んでした お 人に殺されたい、いて 人を殺したいと思っ、と願望した事は幾度となくありましたが おそるべき相手、それは。いちどもありませんでした、た事は 。かえって幸福を与えるだけの事だと考えていたからです、に 顔に偽クリスチャンの、まず、彼を手なずけるため、自分は 媚笑」 優しい「ような びしょう を湛 たた 彼、首を三十度くらい左に曲げて、え そうして猫撫、の小さい肩を軽く抱き ねこな で声に似た甘ったるい声 彼を自分の寄宿している家に遊びに来るようしばしば誘い、で
人間失格 黙ってい、ぼんやりした眼つきをして、いつも、彼は、ましたが たしか初夏の頃の、或る日の放課後、自分は、しかし。ました 生徒たちは帰宅に困っていた、夕立ちが白く降って、事でした 自分は家がすぐ近くなので平気で外へ飛び出そ、ようでしたが 竹一がしょんぼり立っている、ふと下駄箱のかげに、うとして 臆する竹一、と言い、傘を貸してあげる、行こう、のを見つけ 二、家に着いて、一緒に夕立ちの中を走り、の手を引っぱって 竹一を二、人の上衣を小母さんに乾かしてもらうようにたのみ 。階の自分の部屋に誘い込むのに成功しました 眼鏡を、三十くらいの、五十すぎの小母さんと、その家には いちどよそへお、この娘は(病身らしい背の高い姉娘、かけて 自分。家へ帰っているひとでした、それからまた、嫁に行って アネサと呼、ここの家のひとたちにならって、このひとを、は
人間失格 、最近女学校を卒業したばかりらしい、それと)んでいました 三人だけの、セッちゃんという姉に似ず背が低く丸顔の妹娘と 文房具やら運動用具を少々並べていまし、下の店には、家族で なくなった主人が建てて残して行った五六、主な収入は、たが 。棟の長屋の家賃のようでした 「耳が痛い「 。立ったままでそう言いました、竹一は 「痛くなったよ、雨に濡れたら「 膿。 ひどい耳だれでした、両方の耳が、見てみると、自分が うみ 。いまにも耳殻の外に流れ出ようとしていました、が 「痛いだろう。いけない、これは「 と自分は大袈裟 おおげさ 、におどろいて見せて 「ごめんね、引っぱり出したりして、雨の中を「
人間失格 、それから、謝り」優しく「と女の言葉みたいな言葉を遣って 竹一を自分の膝、下へ行って綿とアルコールをもらって来て ひざ を 、竹一も。念入りに耳の掃除をしてやりました、枕にして寝かせ これが偽善の悪計であることには気附かなかったよ、さすがに 、うで 女に惚、きっと、お前は「 ほ 「れられるよ 無智なお世辞を言ったくらいでし、と自分の膝枕で寝ながら た しかしこれは 。 、あの竹一も意識しなかったほどの、おそらく、 自分は、おそろしい悪魔の予言のようなものだったという事を 惚れられると言、惚れると言い。後年に到って思い知りました やにさがっ、いかにも、ふざけて、その言葉はひどく下品で、い そこへ、の場であっても」厳粛「どんなに所謂、たものの感じで
人間失格 みるみる憂鬱の伽藍、この言葉が一言でもひょいと顔を出すと がらん ただのっぺらぼうになってしまうような心地がする、が崩壊し 、などという俗語でなく、惚れられるつらさ、ものですけれども あながち憂鬱、とでもいう文学語を用いると、愛せられる不安 奇妙なもの、の伽藍をぶちこわす事にはならないようですから 。だと思います お前は惚れ、自分に耳だれの膿の仕末をしてもらって、 竹一が ただ顔を赤、自分はその時、られるという馬鹿なお世辞を言い 、実は、しかし、何も答えませんでしたけれども、らめて笑って 幽 かす 「惚れられる、 「でも。かに思い当るところもあったのでした というような野卑な言葉に依って生じるやにさがった雰囲気 ふんいき に などと書く、思い当るところもある、そう言われると、対して お、ほとんど落語の若旦那のせりふにさえならぬくらい、のは
人間失格 そんなふ、自分は、まさか、ろかしい感懐を示すようなもので わけ」思い当るところもあった、 「やにさがった気持で、ざけた 。では無いのです 男性よりもさらに数倍難解、人間の女性のほうが、自分には ま、女性のほうが男性よりも数が多く、自分の家族は。でした の女中」犯罪「またれいの、女の子がたくさんあり、た親戚にも 女とばかり遊んで育った、自分は幼い時から、などもいまして し、また、それは、といっても過言ではないと思っていますが その女のひとたちと附合って、薄氷を踏む思いで、実に、かし 五里。つかないのです、まるで見当が、ほとんど。来たのです ひどい痛、虎の尾を踏む失敗をして、そうして時たま、霧中で 男性から受ける笞、それがまた、手を負い むち 内出血、とちがって なかなか治癒、みたいに極度に不快に内攻して ちゆ 。し難い傷でした
人間失格 人のいるとこ、女は、或いはまた、つっ放す、女は引き寄せて 邪慳、 ろでは自分をさげすみ じゃけん ひしと、誰もいなくなると、にし 女は眠るために生き、女は死んだように深く眠る、抱きしめる 女に就いてのさまざまの観、その他、ているのではないかしら 同じ人、幼年時代から得ていたのですが、すでに自分は、察を 全く異った生きもののよ、男とはまた、類のようでありながら この不可解で油断のならぬ生きも、そうしてまた、うな感じで なんていう」惚れられる。 「奇妙に自分をかまうのでした、のは 自分の場合にはちっ、という言葉も」好かれる「また、言葉も ま、とでも言ったほうが」かまわれる、 「ふさわしくなく、とも 。だしも実状の説明に適しているかも知れません 自分。くつろぐようでした、道化には、男よりも更に、女は 男はさすがにいつまでもゲラゲラ笑ってもい、がお道化を演じ
人間失格 調子に乗ってあまり、それに自分も男のひとに対し、ませんし 、お道化を演じすぎると失敗するという事を知っていましたので 女、必ず適当のところで切り上げるように心掛けていましたが 自分にお道、いつまでもいつまでも、は適度という事を知らず へとへ、自分はその限りないアンコールに応じて、化を要求し 、女は、いったいに。よく笑うのです、実に。とになるのでした 。男よりも快楽をよけいに頬張る事が出来るようです ひ、妹娘も、自分が中学時代に世話になったその家の姉娘も 自分はその度、二階の自分の部屋にやって来て、まさえあれば ひたすらお、そうして、毎に飛び上らんばかりにぎょっとして 、びえ 」 「?御勉強「 「いいえ
人間失格 、と微笑して本を閉じ 「コンボウという地理の先生がね、学校でね、きょうね「 。心にも無い滑稽噺でした、とするする口から流れ出るものは 「眼鏡をかけてごらん、葉ちゃん「 アネサと一緒に自分の部屋へ、妹娘のセッちゃんが、或る晩 、さんざん自分にお道化を演じさせた揚句の果に、遊びに来て 。そんな事を言い出しました 「?なぜ「 「アネサの眼鏡を借りなさい。かけてごらん、いいから「 、道化師は。こんな乱暴な命令口調で言うのでした、いつでも 笑、二人の娘は、とたんに。素直にアネサの眼鏡をかけました 。いころげました 「そっくり、ロイドに。そっくり「