人間失格 「シゲ子の本当のお父ちゃんがほしいの、シゲ子はね「 自分がシゲ子。敵。くらくら目まいしました、ぎょっとして ここにも自、とにかく、シゲ子が自分の敵なのか、の敵なのか 不可解な他、他人、分をおびやかすおそろしい大人がいたのだ にわかにそのように見、シゲ子の顔が、秘密だらけの他人、人 。えて来ました あの、この者も、やはり、と思っていたのに、シゲ子だけは 不意に虻「 あぶ 自分。を持っていたのでした」を叩き殺す牛のしっぽ シゲ子にさえおどおどしなければならなくなり、それ以来、は 。ました ! 色魔「 しきま 「?いるかい また自分のところへたずねて来るようになっていた、堀木が あれほど自分を淋しくさせた男なの、あの家出の日に。のです
人間失格 。幽かに笑って迎えるのでした、それでも自分は拒否できず、に ア。なかなか人気が出ているそうじゃないか、お前の漫画は「 こわいもの知らずの糞度胸、マチュアには くそどきょう があるからかなわね ちっともなってやし、デッサンが。油断するなよ、しかし。え 「ないんだから 「お化け「自分のあの。お師匠みたいな態度をさえ示すのです とれいの、どんな顔をするだろう、こいつに見せたら、の絵を 空転の身悶 みもだ 、えをしながら 「ぎゃっという悲鳴が出る。それを言ってくれるな「 、いよいよ得意そうに、堀木は 「ボロが出るからな、いつかは、世渡りの才能だけでは「 ほんとうに苦笑の他はありま、自分には。……世渡りの才能 自分のように、しかし!世渡りの才能、自分に。せんでした
人間失格 れいの俗諺、ごまかしているのは、避け、人間をおそれ ぞくげん さわ「の とかいう怜悧」らぬ神にたたりなし れいり 狡猾 こうかつ の処生訓を遵奉してい 人間、ああ。という事になるのでしょうか、同じ形だ、るのと まるっきり間違って見てい、お互い何も相手をわからない、は 相、それに気附かず、一生、無二の親友のつもりでいて、ながら 泣いて弔詞なんかを読んでいるのではないでしょ、手が死ねば 。うか それはシヅ子に押してたのまれてしぶしぶ引、 (何せ、堀木は 自分の家出の後仕末に立ち合った)受けたに違いないのですが 月下氷人の、自分の更生の大恩人か、まるでもう、ひとなので もっともらしい顔をして自分にお説教めいた事、ように振舞い ま、酔っぱらって訪問して泊ったり、深夜、また、を言ったり 。借りて行ったりするのでした)きまって五円でした(五円、た
人間失格 これ以上。女道楽もこのへんでよすんだね、お前の、しかし「 「ゆるさないからな、世間が、は 人間の複数でしょう。何の事でしょう、いったい、世間とは け。その世間というものの実体があるのでしょう、どこに。か とばかり思っ、こわいもの、きびしく、強く、何しろ、れども 、堀木にそう言われて、しかし、てこれまで生きて来たのですが 、ふと 「君じゃないか、世間というのは「 堀木を怒らせるのが、舌の先まで出かかって、という言葉が 。ひっこめました、イヤで (ゆるさない、それは世間が( (?ゆるさないのでしょう、あなたが。世間じゃない( (世間からひどいめに逢うぞ、そんな事をすると(
人間失格 (?あなたでしょう。世間じゃない( (いまに世間から葬られる( (?あなたでしょう、葬むるのは。世間じゃない( 汝 なんじ 、 悪辣、 怪奇、汝個人のおそろしさ、は あくらつ 、性 古狸 ふるだぬき 性 妖婆 ようば を知 自、さまざまの言葉が胸中に去来したのですが、などと!れ 、ただ顔の汗をハンケチで拭いて、分は 」 と 「冷汗 、冷汗 ひやあせ 。言って笑っただけでした (世間とは個人じゃないか、 (自分は、その時以来、けれども 。思想めいたものを持つようになったのです、という 個人ではなかろうかと思いは、世間というものは、そうして 自分の意志で動く、いままでよりは多少、自分は、じめてから 、シヅ子の言葉を借りて言えば。事が出来るようになりました
人間失格 、また。おどおどしなくなりました、自分は少しわがままになり 、また。へんにケチになりました、堀木の言葉を借りて言えば あまりシゲ子を可愛がらなくな、シゲ子の言葉を借りて言えば 。りました キ、 「シゲ子のおもりをしながら、毎日々々、笑わず、無口で またノンキなトウサンの歴、やら」ンタさんとオタさんの冒険 「 ノンキ和尚「然たる亜流の おしょう 「セッカチピンチャン、 「また、やら という自分ながらわけのわからぬヤケクソの題の連載漫画やら シヅ子の社の他からも注文、ぽつりぽつり(各社の御注文、を シヅ子の社よ、すべてそれは、が来るようになっていましたが (もっと下品な謂わば三流出版社からの注文ばかりでした、りも 自分の画の運筆、 (のろのろと、実に実に陰鬱な気持で、に応じ 酒代がほしいばか、いまはただ)非常におそいほうでした、は
人間失格 シヅ子が社から帰るとそれと交代にぷ、そうして、りに画いて バアで安く・高円寺の駅近くの屋台やスタンド、いと外へ出て 、少し陽気になってアパートへ帰り、て強い酒を飲み ノンキ。お前は、へんな顔をしているねえ、見れば見るほど「 「お前の寝顔からヒントを得たのだ、実は、和尚の顔は 四十。ずいぶんお老けになりましてよ、あなたの寝顔だって「 「男みたい 人の身はあ、水の流れと。吸い取られたんだ。お前のせいだ「 「何をくよくよ川端やなあぎいサ。サ ごはんをあ、それとも。早くおやすみなさいよ、騒がないで「 「?がりますか 。まるで相手にしません、落ちついていて い、人の流れと。人の身はあサ、水の流れと。酒なら飲むがね「
人間失格 「水の身はあサ、水の流れえと、や シヅ子の胸に自分、シヅ子に衣服をぬがせられ、唄いながら 。それが自分の日常でした、の額を押しつけて眠ってしまう してその翌日 あくるひ 、も同じ事を繰返して 昨日 きのう に異 かわ らぬ慣例 しきたり 。に従えばよい 即ち荒っぽい大きな歓楽 よろこび を避 よ 、けてさえいれば 自然また大きな悲哀 かなしみ もやって来 こ 。ないのだ ゆくてを塞 ふさ ぐ邪魔な石を 蟾蜍 ひきがえる 。は廻って通る こんな、クロオとかいうひとの・シャルル・上田敏訳のギイ 自分はひとりで顔を燃えるくらいに赤くし、詩句を見つけた時
人間失格 。ました ) 。蟾蜍 葬むる。ゆるさぬもない、世間がゆるすも。自分だ、それが 犬よりも猫よりも劣等な動物な、自分は。葬むらぬもない、も (のそのそ動いているだけだ。蟾蜍。のだ 高円寺駅附近だ。次第に量がふえて来ました、自分の飲酒は 外泊する事、銀座のほうにまで出かけて飲み、新宿、けでなく 「 慣例「 ただもう、さえあり しきたり バアで無頼漢の振、に従わぬよう あの情死以、また、つまり、片端からキスしたり、りをしたり あの頃よりさらに荒、いや、前の すさ 金、んで野卑な酒飲みになり 。シヅ子の衣類を持ち出すほどになりました、に窮して 、あの破れた奴凧に苦笑してから一年以上経って、ここへ来て またもシヅ子の帯やら襦袢、自分は、葉桜の頃 じゅばん やらをこっそり
人間失格 二晩つづけ、お金を作って銀座で飲み、持ち出して質屋に行き 無意識、さすがに具合い悪い思いで、三日目の晩、て外泊して 、アパートのシヅ子の部屋の前まで来ると、に足音をしのばせて 。シヅ子とシゲ子の会話が聞えます、中から 「?お酒を飲むの、なぜ「 ないんで、お酒を好きで飲んでいるのでは、お父ちゃんはね「 「......、だから、あんまりいいひとだから。すよ 「?お酒を飲むの、いいひとは「 「......、そうでもないけど「 「びっくりするわね、きっと、お父ちゃんは「 「箱から飛び出した、ほら、ほら。おきらいかも知れない「 「セッカチピンチャンみたいね「 「そうねえ「
人間失格 。しんから幸福そうな低い笑い声が聞えました、シヅ子の 白兎の子、ドアを細くあけて中をのぞいて見ますと、自分が 親子はそれを追っ、はね廻り、ぴょんぴょん部屋中を。でした 。ていました この二人、自分という馬鹿者が。この人たちは、幸福なんだ( つつ。いまに二人を滅茶苦茶にするのだ、のあいだにはいって 自分のよ、もし神様が、ああ、幸福を。いい親子。ましい幸福 生涯にいち、いちどだけ、うな者の祈りでも聞いてくれるなら (祈る、どだけでいい 、そっと。そこにうずくまって合掌したい気持でした、自分は そのアパー、それっきり、また銀座に行き、自分は、ドアを閉め 。トには帰りませんでした 、バアの二階に自分は・京橋のすぐ近くのスタンド、そうして
人間失格 。寝そべる事になりました、またも男めかけの形で それがぼんやりわかりかけて来た、どうやら自分にも。世間 その、しかも、個人と個人の争いで。ような気がしていました 、その場で勝てばいいのだ、しかも、場の争いで 、 人 、 間 、 は 、 決 、 し 、 て 、 人 、 間 、 に 、 服 、 従 、 し 、 な 、 奴隷でさえ奴隷らしい卑屈なシッペがえし、い 、人間にはその場の一本勝負にたよる他、だから、をするものだ 大義名分らしいものを称、生き伸びる工夫がつかぬのだ とな えてい 、個人を乗り越えてまた個人、努力の目標は必ず個人、ながら 大洋、 個人の難解、世間の難解は オーシャン 、個人なのだ、は世間でなくて 多少解放せられ、と世の中という大海の幻影におびえる事から 謂わ、あれこれと際限の無い心遣いする事なく、以前ほど、て いくぶん図々しく振舞う事を覚、ば差し当っての必要に応じて 。えて来たのです
人間失格 、バアのマダムに・京橋のスタンド、高円寺のアパートを捨て 「わかれて来た「 そ、つまり一本勝負はきまって、それで充分、それだけ言って 自分は乱暴にもそこの二階に泊り込む事になったの、の夜から 自分に何の危害、は」世間「おそろしい筈の、しかし、ですが に対して何の弁明」世間「また自分も、も加えませんでしたし それですべて、その気だったら、マダムが。もしませんでした 。がいいのでした 、亭主のようでもあり、その店のお客のようでもあり、自分は はたから、親戚の者のようでもあり、走り使いのようでもあり 見て甚 はなは だ得態 えたい は少しも」世間、 「の知れない存在だった筈なのに 、葉ちゃん、自分を、そうしてその店の常連たちも、あやしまず そうしてお酒を飲ませ、ひどく優しく扱い、葉ちゃんと呼んで
人間失格 。てくれるのでした 世の。次第に用心しなくなりました、自分は世の中に対して と、おそろしいところでは無い、そんなに、中というところは 、これまでの自分の恐怖感は、つまり。思うようになりました 春の風には百日咳 ひゃくにちぜき の黴菌 ばいきん 目のつぶれる黴、銭湯には、が何十万 病 床屋には禿頭、菌が何十万 とくとう 省線の吊皮、の黴菌が何十万 つりかわ には 疥癬 かいせん 、牛豚肉の生焼けには、おさしみ、または、の虫がうようよ 何やらの卵などが必ずひ、ジストマやら、さなだ虫の幼虫やら はだしで歩くと足の裏からガラスの小さい、また、そんでいて その破片が体内を駈けめぐり眼玉を突いて失、破片がはいって におびやかさ」科学の迷信「明させる事もあるとかいう謂わば たしかに何十万もの、それは。れていたようなものなのでした 正確な、にも」科学的、 「黴菌の浮び泳ぎうごめいているのは
人間失格 そ、その存在を完全に黙殺さえすれば、と同時に。事でしょう れは自分とみじんのつながりも無くなってたちまち消え失せる 自分は知るように、に過ぎないのだという事をも」科学の幽霊「 千万人が一、お弁当箱に食べ残しのごはん三粒。なったのです 米何俵をむだに捨てた、日に三粒ずつ食べ残しても既にそれは 一日に鼻紙一枚の節約を千万人が行、或いは、とか、事になる 科学的統「などという、どれだけのパルプが浮くか、うならば ごはんを一粒でも食べ、どれだけおびやかされ、自分は、に」計 山ほどのパル、山ほどの米、また鼻をかむ度毎に、残す度毎に 自分がいま重大な罪を犯して、プを空費するような錯覚に悩み それこそ、しかし、いるみたいな暗い気持になったものですが 三粒のごはんは集めら、で」数学の嘘」 「統計の嘘」 「科学の嘘「 まことに原始、掛算割算の応用問題としても、れるものでなく
人間失格 あの穴、電気のついてない暗いお便所の、的で低能なテーマで 、または、に人は何度にいちど片脚を踏みはずして落下させるか プラットホームの縁、省線電車の出入口と へり 乗、とのあの隙間に そんなプロバビリティ、客の何人中の何人が足を落とし込むか それは如何、を計算するのと同じ程度にばからしく いか にも有り得 お便所の穴をまたぎそこねて怪我、る事のようでもありながら 科学的「そんな仮説を、少しも聞かないし、をしたという例は 恐怖、それを全く現実として受取り、として教え込まれ」事実 笑いたく思ったく、していた昨日までの自分をいとおしく思い 世の中というものの実体を少しずつ知って来、自分は、らいに 。たというわけなのでした 自分、まだまだ、やはり人間というものが、そうは言っても お酒をコップで一杯、店のお客と逢うのにも、にはおそろしく
人間失格 こわいもの見。ぐいと飲んでからでなければいけませんでした 実は少し、子供が、それでもお店に出て、毎晩、自分は。たさ かえって強くぎゅっと握ってし、こわがっている小動物などを 店のお客に向って酔ってつたない芸術論を吹き、まうみたいに 。かけるようにさえなりました 大きな歓楽、自分は、しかし、ああ。漫画家 よろこび 大き、また、も な悲哀 かなしみ いかに大きな悲哀。もない無名の漫画家 かなしみ があとでやって 荒っぽい大きな歓楽、来てもいい よろこび が欲しいと内心あせってはい 、お客とむだ事を言い合い、自分の現在のよろこびたるや、ても 。お客の酒を飲む事だけでした 、こういうくだらない生活を既に一年ちかく続け、京橋へ来て 駅売りの粗悪で卑猥、 子供相手の雑誌だけでなく、 自分の漫画も ひわい 生、情死(上司幾太、自分は、な雑誌などにも載るようになり
人間失格 、汚いはだかの絵など画き、ふざけ切った匿名で、という)きた それにたいていルバイヤットの詩句を插入 そうにゅう 。しました 無駄な御祈りなんか止 よ せったら 涙を誘うものなんかかなぐりすてろ 好いことばかり思出して まア一杯いこう よけいな心づかいなんか忘れっちまいな 不安や恐怖もて人を脅やかす奴輩 やから は みずから の作りし大それた罪に怯 自 おび え 死にしものの復讐 ふくしゅう に備えんと みずから の頭にたえず計いを為 自 な す
人間失格 酒充ちて我ハートは喜びに充ち よべ けささめて只 ただ に荒涼 いぶかし一夜 ひとよ さの中 気分 様変りたる此 この よ 祟 たた りなんて思うこと止 や めてくれ 遠くから響く太鼓のように 何がなしそいつは不安だ 屁 へ 一々罪 ひったこと迄 まで に勘定されたら助からんわい ?正義は人生の指針たりとや さらば血に塗られたる戦場に 暗殺者の切尖 きっさき に
人間失格 ?何の正義か宿れるや ?いずこに指導原理ありや いかなる叡智 えいち ?の光ありや 美 うる わしくも怖 おそろ しきは浮世なれ かよわき人の子は背負切れぬ荷をば負わされ どうにもできない情慾の種子を植えつけられた許 ばか りに 善だ悪だ罪だ罰だと呪 のろ わるるばかり どうにもできない只まごつくばかり 抑え摧 くだ く力も意志も授けられぬ許りに どこをどう彷徨 うろつき まわってたんだい
人間失格 ?再認識 検討 ナニ批判 ヘッ空 むな しき夢をありもしない幻を 酒を忘れたんでみんな虚仮 エヘッ こけ の思案さ 涯 此 どうだ はて もない大空を御覧よ 此中にポッチリ浮んだ点じゃい 此地球が何んで自転するのか分るもんか 反転も勝手ですわい 公転 自転 至る処 ところ 至高の力を感じ に あらゆる国にあらゆる民族に 同一の人間性を発見する 我は異端者なりとかや
人間失格 みんな聖経をよみ違えてんのよ でなきゃ常識も智慧 ちえ もないのよ 生身 いきみ 酒を止めたり の喜びを禁じたり 大嫌い いいわムスタッファわたしそんなの とすすめる処女がい、自分に酒を止めよ、その頃、けれども 。ました 「酔っていらっしゃる、お昼から、毎日、いけないわ「 ヨシちゃ。八の娘でした、 小さい煙草屋の十七、 バアの向いの 煙草を、自分が。八重歯のある子でした、色の白い、んと言い 。笑って忠告するのでした、買いに行くたびに あるだけの酒をの。どうして悪いんだ。いけないんだ、なぜ「
人間失格 むかしペルシャ、ってね、憎悪を消せ消せ消せ、人の子よ、んで 、悲しみ疲れたるハートに希望を持ち来すは、まあよそう、のね ただ微醺 びくん 「わかるかい。ってね、をもたらす玉杯なれ 「わからない「 「キスしてやるぞ。この野郎「 「してよ「 。ちっとも悪びれず下唇を突き出すのです 「......、貞操観念。馬鹿野郎「 あきらかに誰にも汚されて、ヨシちゃんの表情には、しかし 。いない処女のにおいがしていました そ、自分は酔って煙草を買いに出て、としが明けて厳寒の夜 たすけてく、ヨシちゃん、の煙草屋の前のマンホールに落ちて 、右腕の傷の手当を、ヨシちゃんに引き上げられ、と叫び、れえ
人間失格 、しみじみ、その時ヨシちゃんは、ヨシちゃんにしてもらい 「飲みすぎますわよ「 。と笑わずに言いました 怪我をして出血してそうし、自分は死ぬのは平気なんだけど ヨ、まっぴらごめんのほうですので、て不具者などになるのは もういい、酒も、シちゃんに腕の傷の手当をしてもらいながら 。と思ったのです、加減によそうかしら 「一滴も飲まない、あしたから。やめる「 「?ほんとう「 僕のお嫁になって、ヨシちゃん、やめたら。やめる、きっと「 「?くれるかい 。お嫁の件は冗談でした、しかし 「モチよ「
人間失格 その、モガだの、モボだの。の略語でした」勿論、 「モチとは 。頃いろんな略語がはやっていました 「きっとやめる。ゲンマンしよう。ようし「 そうして翌 あく 。やはり昼から飲みました、自分は、る日 、ヨシちゃんの店の前に立ち、ふらふら外へ出て、夕方 「飲んじゃった。ごめんね、ヨシちゃん「 「酔った振りなんかして。いやだ、あら「 。酔いもさめた気持でした。ハッとしました 酔った振りなんか。本当に飲んだのだよ。本当なんだ、いや「 「してるんじゃない 「ひとがわるい。からかわないでよ「 。てんで疑おうとしないのです 。お昼から飲んだのだ、きょうも。見ればわかりそうなものだ「
人間失格 「ゆるしてね 「うまいのねえ、お芝居が「 「キスしてやるぞ。馬鹿野郎、芝居じゃあないよ「 「してよ「 お嫁にもらうのもあきらめなくちゃ。僕には資格が無い、 いや「 「飲んだのだよ?赤いだろう、顔を見なさい。ならん 。だめよ、かつごうたって。夕陽が当っているからよ、それあ「 ゲンマ。飲む筈が無いじゃないの。きのう約束したんですもの 「ウソ、ウソ、ウソ、飲んだなんて。ンしたんですもの あ、薄暗い店の中に坐って微笑しているヨシちゃんの白い顔 、自分は今まで、よごれを知らぬヴァジニティは尊いものだ、あ どんな大き、結婚しよう、自分よりも若い処女と寝た事がない な悲哀 かなしみ 荒っぽいほどの、がそのために後からやって来てもよい
人間失格 大きな歓楽 よろこび そ、処女性の美しさとは、生涯にいちどでいい、を 、れは馬鹿な詩人の甘い感傷の幻に過ぎぬと思っていたけれども 結婚して春になったら、やはりこの世の中に生きて在るものだ 所、その場で決意し、と、二人で自転車で青葉の滝を見に行こう その花を盗むのにためらう事をしませんで、で」一本勝負「謂 。した それに依って得た歓楽、やがて結婚して、そうして自分たちは よろこび その後に来た悲哀、必ずしも大きくはありませんでしたが、は かなしみ 凄惨、 は せいさん 大き、実に想像を絶して、と言っても足りないくらい やはり底知れ、は」世の中、 「自分にとって。くやって来ました 、そんな一本勝負などで、決して。おそろしいところでした、ず なまやさしいところでも、何から何まできまってしまうような 。無かったのでした
人間失格 堀木 二 。と自分 互いに軽蔑 けいべつ そうして互いに自、しながら附き合い みずか らをくだら というものの姿だ」交友「それがこの世の所謂、なくして行く に違い」交友「まさしく、自分と堀木との間柄も、とするなら 。ありませんでした バアのマダムの義侠心・自分があの京橋のスタンド ぎきょうしん 、にすがり 、しかし、言葉の奇妙な遣い方ですが、 女のひとの義侠心なんて( 少くとも、自分の経験に依ると 、 都 、 会 、 男よりも女、の男女の場合 義侠心とでもいうべきものをたっぷりと持っ、その、のほうが
人間失格 おていさい、おっかなびっくりで、男はたいてい。ていました あの煙草屋のヨシ子を内)ケチでした、そうして、ばかり飾り 隅田川 、そうして築地、縁の妻にする事が出来て つきじ 木造、の近く ふたりで住、の二階建ての小さいアパートの階下の一室を借り そろそろ自分の定った職業になりかけて来た、酒は止めて、み 帰、夕食後は二人で映画を見に出かけ、漫画の仕事に精を出し い、花の鉢を買ったりして、また、喫茶店などにはいり、りには それよりも自分をしんから信頼してくれているこの小さい、や これは自分も、動作を見ているのが楽しく、花嫁の言葉を聞き いまにだんだん人間らしいものになる事が出、ひょっとしたら 悲惨な死に方などせずにすむのではなかろうかという甘、来て 堀木がまた、い思いを幽かに胸にあたためはじめていた矢先に 。自分の眼前に現われました
人間失格 いくらか分別くさい顔に、これでも?おや。色魔!よう「 「高円寺女史からのお使者なんだがね、きょうは。なりやがった お勝手でお茶の仕度をして、急に声をひそめ、と言いかけて いるヨシ子のほうを顎 あご とたずね?大丈夫かい、でしゃくって 、ますので 「何を言ってもいい。かまわない「 。と自分は落ちついて答えました 京橋の、信頼の天才と言いたいくらい、ヨシ子は、じっさい 自分が鎌倉で起した事件を知、バアのマダムとの間はもとより それは自分が嘘がう、ツネ子との間を疑わず、らせてやっても あからさまな言い方を、時には、まいからというわけでは無く それがみな冗談としか聞、ヨシ子には、する事さえあったのに 。きとれぬ様子でした
人間失格 たいした事じゃないが、なに。しょっていやがる、相変らず「 高円寺のほうへも遊びに来てくれっていう御伝、たまには、ね 「言さ 記憶の傷口をそ、 怪鳥が羽ばたいてやって来て、 忘れかけると の嘴 くちばし ありあ、たちまち過去の恥と罪の記憶が。で突き破ります 坐っ、わあっと叫びたいほどの恐怖で、りと眼前に展開せられ 。ておられなくなるのです 「飲もうか「 。と自分 「よし「 。と堀木 そっくりの人間の。ふたり似ていました、形は。自分と堀木 安い酒をあ、もちろんそれは。ような気がする事もありました
人間失格 ふたり、とにかく、ちこち飲み歩いている時だけの事でしたが みるみる同じ形の同じ毛並の犬に変り降雪のち、顔を合せると 。またを駈けめぐるという具合いになるのでした 自分たちは再び旧交をあたためたという形にな、その日以来 とうと、そうして、京橋のあの小さいバアにも一緒に行き、り 高円寺のシヅ子のアパートにもその泥酔の二匹の犬が訪問、う 。宿泊して帰るなどという事にさえなってしまったのです、し よ、堀木は日暮頃。むし暑い夏の夜でした。しません、忘れも きょ、れよれの浴衣を着て築地の自分のアパートにやって来て その質入が老母に知れ、う或る必要があって夏服を質入したが とにかく、すぐ受け出したいから、るとまことに具合いが悪い 、あいにく自分のところにも。という事でした、金を貸してくれ ヨシ子の、ヨシ子に言いつけ、例に依って、お金が無かったので
人間失格 ま、堀木に貸しても、衣類を質屋に持って行かせてお金を作り だ少し余るのでその残金でヨシ子に しょうちゅう アパートの、を買わせ 焼酎 隅田川から時たま幽かに吹いて来るどぶ臭い風を、屋上に行き 。まことに薄汚い納涼の宴を張りました、受けて 悲劇名詞の当てっこをはじめ、喜劇名詞、自分たちはその時 すべて男、名詞には、自分の発明した遊戯で、これは。ました それと、中性名詞などの別があるけれども、女性名詞、性名詞 たと、悲劇名詞の区別があって然るべきだ、喜劇名詞、同時に いず、市電とバスは、汽船と汽車はいずれも悲劇名詞で、えば それのわからぬ者は芸術を談、なぜそうなのか、れも喜劇名詞 喜劇に一個でも悲劇名詞をさしはさんでいる劇、ずるに足らん といっ、悲劇の場合もまた然り、既にそれだけで落第、作家は 。たようなわけなのでした
人間失格 「?煙草は?いいかい「 。と自分が問います 悲劇。 ( トラ「 トラジディ 「 (の略 。と堀木が言下に答えます 「?薬は「 「?丸薬かい?粉薬かい「 」 「注射「 「トラ 「ホルモン注射もあるしねえ?そうかな「 「立派なトラじゃないか、お前、針が第一。断然トラだ、いや「 あれで案、薬や医者はね、君、しかし。負けて置こう、よし「 喜劇( コメ、外 コメディ 「?死は。なんだぜ)の略 牧師も和尚。コメ「 おしょう 「も然りじゃね
人間失格 「生はトラだなあ、そうして。大出来「 「コメ、それも。ちがう「 では。何でもかでも皆コメになってしまう、それでは、いや「 コメとは、よもや?漫画家は、もう一つおたずねするが、ね 「?言えませんでしょう 「!大悲劇名詞。トラ、トラ「 「大トラは君のほうだぜ、なんだ「 下手な駄洒落、こんな だじゃれ つま、みたいな事になってしまっては 世界のサロ、しかし自分たちはその遊戯を、らないのですけど ンにも嘗 か つて存しなかった頗 すこぶ る気のきいたものだと得意がって 。いたのでした 自分は発明していまし、 これに似た遊戯を当時、またもう一つ 対義語、 それは。た アントニム 対義語( 黒のアント。の当てっこでした アントニム の
人間失格 。黒、赤のアントは。赤、白のアントは、けれども。白、は)略 「?花のアントは「 、堀木は口を曲げて考え、と自分が問うと 「月だ、花月という料理屋があったから、ええっと「 同義語、 むしろ。それはアントになっていない、いや「 シノニム 星。だ と菫 すみれ 「アントでない。シノニムじゃないか、だって 蜂、 それはね、わかった「 はち 「だ 「?ハチ「 牡丹「 ぼたん 蟻、…… に あり 「?か それは画題、なあんだ「 モチイフ 「ごまかしちゃいけない。だ 「......、花にむら雲!わかった「 「月にむら雲だろう「 「風、花のアントは。風だ。花に風。そう、そう「
人間失格 それは浪花節、まずいなあ「 なにわぶし おさとが知れ。の文句じゃないか 「るぜ 琵琶、 いや「 びわ 「だ およそこの世で最も花、……花のアントはね。なおいけない「 「それをこそ挙げるべきだ、らしくないもの 「女か、なあんだ、待てよ、……その、だから「 「?女のシノニムは、ついでに「 君「 「臓物「 、どうも、は ポエジイ 「?臓物のアントは、 それじゃあ。を知らんね 詩 」 「牛乳「 オン。恥。その調子でもう一つ。ちょっとうまいな、これは 「トのアント 「流行漫画家上司幾太。恥知らずさ「
人間失格 「?堀木正雄は「 、焼酎の酔い特有の、この辺から二人だんだん笑えなくなって 陰鬱な気分になっ、 あのガラスの破片が頭に充満しているような 。て来たのでした 繩目の恥辱など受、おれはまだお前のように。生意気言うな「 「けた事が無えんだ 真人間あつかいに、自分を、堀木は内心。ぎょっとしました 恥知らず、死にぞこないの、自分をただ、していなかったのだ 謂、 阿呆のばけものの、の い 生ける「わば しかばね としか解してくれ 」屍 自分を利用できるところだ、彼の快楽のために、そうして、ず 、と思ったら、だったのだ」交友「それっきりの、けは利用する 堀木が自、しかしまた、さすがにいい気持はしませんでしたが 、自分は昔から、もっともな話で、分をそのように見ているのも
人間失格 やっぱり堀木にさ、人間の資格の無いみたいな子供だったのだ 、と考え直し、え軽蔑せられて至当なのかも知れない 「むずかしいぞ、これは。何だろう、罪のアントニムは。罪「 。言うのでした、と何気無さそうな表情を装って 「法律さ「 自分は堀木の顔を見直し、堀木が平然とそう答えましたので 、近くのビルの明滅するネオンサインの赤い光を受けて。ました 、自分は。鬼刑事の如く威厳ありげに見えました、堀木の顔は つくづく呆 あき 、れかえり 「そんなものじゃないだろう、君、罪ってのは「 みん、世間の人たちは、しかし!法律とは、罪の対義語が 澄まして暮しているのかも知れ、なそれくらいに簡単に考えて 。と、刑事のいないところにこそ罪がうごめいている。ません
人間失格 どこかヤソ坊主、お前には?神か、なんだい、それじゃあ「 「いや味だぜ。くさいところがあるからな 二人で考えて見、も少し。軽く片づけるなよ、まあそんなに「 このテーマに対。面白いテーマじゃないか、これはでも。よう 「そのひとの全部がわかるような気がするのだ、する答一つで お、つまり。善良なる市民。善さ、 罪のアントは。……まさか「 「れみたいなものさ 罪のアント。善は悪のアントだ、しかし。よそうよ、冗談は「 「ではない 「?悪と罪とは違うのかい「 人間が勝。善悪の概念は人間が作ったものだ。と思う、違う「 「手に作った道徳の言葉だ な。神、神。神だろう、やっぱり、それじゃ。うるせえなあ「
人間失格 「腹がへったなあ。神にして置けば間違いない、んでも 「したでヨシ子がそら豆を煮ている、いま「 「好物だ。ありがてえ「 仰向、 両手を頭のうしろに組んで あおむけ 。にごろりと寝ました 「まるで興味ないらしいね、罪というものが、君には「 おれ。罪人では無いんだから、お前のように、そりゃそうさ「 女から金を巻き上げたりな、女を死なせたり、は道楽はしても 「んかはしねえよ と心の何処、巻き上げたのではない、死なせたのではない どこ か 、また、しかし、けれども必死の抗議の声が起っても、で幽かな 。いや自分が悪いのだとすぐに思いかえしてしまうこの習癖 焼。正面切っての議論が出来ません、どうしても、自分には 気持が険しくなって来るのを、酎の陰鬱な酔いのために刻一刻
人間失格 。ほとんど独りごとのようにして言いました、懸命に抑えて 牢屋、 しかし「 ろうや 罪のア。にいれられる事だけが罪じゃないんだ 罪の実体もつかめるような気がするんだけ、ントがわかれば 神にはサ、しかし、……光、……愛、……救い、……神、……ど 愛、救いのアントは苦悩だろうし、タンというアントがあるし 罪と祈、善には悪、光には闇というアントがあり、には憎しみ 、 嗚呼、…… 罪と、罪と告白、罪と悔い、り ああ 、みんなシノニムだ 「罪の対語は何だ 蜜。 ミツさ、ツミの対語は「 みつ 。腹がへったなあ。の如く甘しだ 「何か食うものを持って来いよ 「!君が持って来たらいいじゃないか「 烈しい怒り、ほとんど生れてはじめてと言っていいくらいの 。の声が出ました
人間失格 ヨシちゃんと二人で罪を、したへ行って、それじゃ、ようし「 、いや、蜜豆、罪のアントは。議論より実地検分。犯して来よう 「そら豆か 。ろれつの廻らぬくらいに酔っているのでした、ほとんど 「!どこかへ行っちまえ。勝手にしろ「 「これはシノニムか、いや、空腹とそら豆、罪と空腹「 出鱈目 でたらめ 。を言いながら起き上ります 頭脳の片隅を、ちらとそれが。ドストイエフスキイ。罪と罰 罪、あのドスト氏が、もしも。はっと思いました、かすめて通り アントニムとして置き並べたものと、と罰をシノニムと考えず 相容 氷炭、絶対に相通ぜざるもの、罪と罰?したら あいい れざるも 、腐った池、罪と罰をアントとして考えたドストの青みどろ。の な、……まだ、いや、わかりかけた、ああ、……乱麻の奥底の
人間失格 、どと頭脳に走馬燈がくるくる廻っていた時に 「!来い。そら豆だ、とんだ!おい「 たったいまふらふ、堀木は。堀木の声も顔色も変っています 。かと思うとまた引返して来たのです、ら起きてしたへ行った 「なんだ「 さ、二階から、屋上から二階へ降り、ふたり、異様に殺気立ち 、らに階下の自分の部屋へ降りる階段の中途で堀木は立ち止り 「!見ろ「 。と小声で言って指差します そこから部屋の中が見、自分の部屋の上の小窓があいていて 。二匹の動物がいました、電気がついたままで。えます こ、これもまた人間の姿だ、ぐらぐら目まいしながら、自分は など劇、おどろく事は無い、れもまた人間の姿だ はげ しい呼吸と共
人間失格 に胸の中で呟 つぶや 階段に立ちつくし、ヨシ子を助ける事も忘れ、き 。ていました 大きい咳、堀木は せき ひとり逃げる、自分は。ばらいをしました 雨を含んだ夏の夜空を、寝ころび、ようにまた屋上に駈け上り 嫌悪でも無、怒りでも無く、そのとき自分を襲った感情は、仰ぎ く もの凄、悲しみでも無く、また、 すさ 、それも。まじい恐怖でした 神社の杉木立で白衣の、墓地の幽霊などに対する恐怖ではなく 四の五の言わ、御神体に逢った時に感ずるかも知れないような その夜か、自分の若白髪は。さぬ古代の荒々しい恐怖感でした ひと、いよいよ、すべてに自信を失い、いよいよ、らはじまり よろこ、この世の営みに対する一さいの期待、を底知れず疑い そ、実に。共鳴などから永遠にはなれるようになりました、び まっ、自分は。決定的な事件でした、れは自分の生涯に於いて
人間失格 こうから眉間 みけん どんな人、そうしてそれ以来その傷は、を割られ 。間にでも接近する毎に痛むのでした 。少しは思い知ったろう、 お前もこれで、しかし、同情はするが「 ......。地獄だ、 まるで。二度とここへは来ないよ、 おれは、もう ろ、どうせ、お前だって。ゆるしてやれ、ヨシちゃんは、でも 「失敬するぜ。くな奴じゃないんだから 永くとどまっているほど間、気まずい場所に ま の抜けた堀木で 。はありませんでした おいお、それから、ひとりで焼酎を飲み、自分は起き上って いくらでも泣けるので、いくらでも。い声を放って泣きました 。した そら豆を山盛りにしたお、ヨシ子が、背後に、いつのまにか 。皿を持ってぼんやり立っていました
人間失格 「......、しないからって言って、なんにも「 ひとを疑う事を知らなかったん、お前は。何も言うな。いい「 「豆を食べよう。お坐り。だ 相?信頼は罪なりや、嗚呼。並んで坐って豆を食べました わずかなお金をもったい、自分に漫画をかかせては、手の男は 。振って置いて行く三十歳前後の無学な小男の商人なのでした 自、その後やっては来ませんでしたが、さすがにその商人は さいしょ、その商人に対する憎悪よりも、どうしてだか、分には そのまま、に見つけたすぐその時に大きい咳ばらいも何もせず 自分に知らせにまた屋上に引返して来た堀木に対する憎しみと 眠られぬ夜などにむらむら起って呻、怒りが うめ 。きました ヨシ子は信頼の天才なの。ゆるさぬもありません、ゆるすも それゆえ、しかし。ひとを疑う事を知らなかったのです。です
人間失格 。の悲惨 。信頼は罪なりや。神に問う ヨシ子の信頼が汚された、ヨシ子が汚されたという事よりも 生きておられないほ、自分にとってそののち永く、という事が いやらしくおどお、自分のような。どの苦悩の種になりました ひび割れ、人を信じる能力が、ひとの顔いろばかり伺い、どして ヨシ子の無垢、てしまっているものにとって むく それ、の信頼心は それ。こそ青葉の滝のようにすがすがしく思われていたのです 、ヨシ子は、見よ。黄色い汚水に変ってしまいました、が一夜で 一笑 その夜から自分の一顰 いっぴん 。にさえ気を遣うようになりました 「おい「 もう眼のやり場に困っている様子、ぴくっとして、と呼ぶと 、お道化を言っても、どんなに自分が笑わせようとして。です
人間失格 やたらに自分に敬語を遣うようにな、びくびくし、おろおろし 。りました 。罪の原泉なりや、無垢の信頼心は、果して いろいろ捜して読んで、人妻の犯された物語の本を、自分は ヨシ子ほど悲惨な犯され方をしている女、けれども。みました てんで物語、これは、どだい。ひとりも無いと思いました、は 、ヨシ子とのあいだに、あの小男の商人と。にも何もなりません 自分の気持もかえって、少しでも恋に似た感情でもあったなら ヨシ子が信頼し、夏の一夜、ただ、たすかるかも知れませんが 、しかもそのために自分の眉間は、それっきり、そうして、て ヨシ子は一、まっこうから割られ声が嗄れて若白髪がはじまり たいていの物語。生おろおろしなければならなくなったのです そこに重点を置い、を夫が許すかどうか」行為「その妻の、は
人間失格 そんなに苦しい、それは自分にとっては、ていたようでしたが そのよう、許さぬ、許す。大問題では無いように思われました 、 な権利を留保している夫こそ幸いなる哉 かな とても許す事が出来 さっさと妻を、何もそんなに大騒ぎせずとも、ぬと思ったなら それが出来なかっ、新しい妻を迎えたらどうだろう、離縁して 許 「所謂、 たら いわゆる いずれにしても夫の気持一、我慢するさ」して という気さえするのでし、つで四方八方がまるく収るだろうに たしかに夫にとって大いなる、そのような事件は、つまり。た い、であって」ショック「それは、しかし、ショックであっても 権利の、つまでも尽きること無く打ち返し打ち寄せる波と違い ある夫の怒りでもってどうにでも処理できるトラブルのように 夫に、自分たちの場合、けれども。自分には思われたのでした 考えると何もかも自分がわるいような気がし、何の権利も無く