人間失格 酒池肉、おどろくな。夢の国に連れて行く、そんなら、よし「 「......、林という 「?カフエか「 「そう「 「!行こう「 はしゃ、堀木は、市電に乗り、というような事になって二人 、いで 女給にキスして。女に飢え渇いているんだ、今夜は、おれは「 「もいいか あまり好んでいな、堀木がそんな酔態を演じる事を、自分は 自分にそんな念、それを知っているので、堀木も。いのでした 。を押すのでした きっとキス、おれの傍に坐った女給に。キスするぜ。いいか「
人間失格 「いいか。して見せる 「かまわんだろう「 「おれは女に飢え渇いているんだ!ありがたい「 ツネ子、その所謂酒池肉林の大カフエに、銀座四丁目で降りて あいているボッ、をたのみの綱としてほとんど無一文ではいり ツネ子ともう、クスに堀木と向い合って腰をおろしたとたんに そのもう一人の女給が自分の傍、一人の女給が走り寄って来て 自、ドサンと腰かけたので、堀木の傍に、そうしてツネ子は、に 。いまにキスされる、ツネ子は。ハッとしました、分は もとも、自分には。惜しいという気持ではありませんでした たまに幽かに惜しむ気持は、また、と所有慾というものは薄く 人と争うほどの気力が、その所有権を敢然と主張し、あっても 自分の内縁の妻が犯されるの、自分は、のちに。無いのでした
人間失格 。黙って見ていた事さえあったほどなのです、を 。人間のいざこざに出来るだけ触りたくないのでした、自分は ツネ子と自。おそろしいのでした、その渦に巻き込まれるのが 自分のものではあり、ツネ子は。一夜だけの間柄です、分とは 自分に持てる筈はあり、など思い上った慾は、惜しい。ません 。ハッとしました、自分は、けれども。ません そのツネ子の、堀木の猛烈なキスを受ける、自分の眼の前で 堀木によごされたツネ。ふびんに思ったからでした、身の上を しかも自分、自分とわかれなければならなくなるだろう、子は も、ああ、ツネ子を引き留める程のポジティヴな熱は無い、にも とツネ子の不幸に一瞬ハッとした、これでおしまいなのだ、う 堀木とツネ、すぐに自分は水のように素直にあきらめ、ものの 。にやにやと笑いました、子の顔を見較べ
人間失格 もっと悪く展開せられ、実に思いがけなく、事態は、しかし 。ました 「!やめた「 、口をゆがめて言い、と堀木は 「......、こんな貧乏くさい女には、さすがのおれも「 苦、腕組みしてツネ子をじろじろ眺め、閉口し切ったように 。笑するのでした 「お金は無い。お酒を「 浴びるほど、それこそ。小声でツネ子に言いました、自分は ツネ子は、所謂俗物の眼から見ると。飲んでみたい気持でした 貧乏くさい、みすぼらしい、ただ、酔漢のキスにも価いしない 自分には霹靂、意外とも、案外とも。女だったのでした へきれき に撃ち 、これまで例の無かったほど、自分は。くだかれた思いでした
人間失格 ツネ、ぐらぐら酔って、お酒を飲み、いくらでも、いくらでも 哀、 子と顔を見合せ かな しく微笑 ほほえ いかにもそう言われてみ、み合い と思う、こいつはへんに疲れて貧乏くさいだけの女だな、ると 陳腐のよ、貧富の不和は(金の無い者どうしの親和、と同時に やはりドラマの永遠のテーマの一つだと自分は今では、うでも 胸に込み上げて来、その親和感が、そいつが)思っていますが われから積極、生れてこの時はじめて、ツネ子がいとしく、て 。吐きました。微弱ながら恋の心の動くのを自覚しました、的に こんなに我を失うほど、お酒を飲んで。前後不覚になりました 。その時がはじめてでした、酔ったのも 本所の大。枕もとにツネ子が坐っていました、眼が覚めたら 。工さんの二階の部屋に寝ていたのでした 冗談かと思、なんておっしゃって、金の切れめが縁の切れめ「
人間失格 ややこしい切れ。来てくれないのだもの。本気か、うていたら 「だめか、かせいであげても、うちが。めやな 「だめ「 という」死「女の口から、夜明けがた、女も休んで、それから 女も人間としての営みに疲れ切っていた、言葉がはじめて出て 、わずらわしさ、世の中への恐怖、自分も、また、ようでしたし とてもこの上こらえて、考えると、学業、女、れいの運動、金 。そのひとの提案に気軽に同意しました、生きて行けそうもなく という」死のう「実感としての、その時にはまだ、けれども がひそん」遊び「どこかに。出来ていなかったのです、覚悟は 。でいました 喫。二人は浅草の六区をさまよっていました、その日の午前 。牛乳を飲みました、茶店にはいり
人間失格 「払うて置いて、あなた「 袂、 自分は立って たもと 、銅銭が三枚、ひらくと、からがま口を出し 羞恥 しゅうち よりも凄惨 せいさん たちまち脳裡、の思いに襲われ のうり 、に浮ぶものは 、制服と蒲団だけが残されてあるきりで、仙遊館の自分の部屋 、質草になりそうなものの一つも無い荒涼たる部屋、あとはもう これが、マント、他には自分のいま着て歩いている絣の着物と とはっきり思い知りまし、生きて行けない、自分の現実なのだ 。た 自分のがま口をの、女も立って、自分がまごついているので 、ぞいて 「?たったそれだけ、あら「 じんと骨身にこたえるほど、これがまた、無心の声でしたが 、恋したひとの声だけに、はじめて自分が。に痛かったのです
人間失格 、銅銭三枚は、これだけもない、それだけも。痛かったのです 自分が未、それは。どだいお金でありません いま だかつて味わった とても生きておられない屈辱でし。事の無い奇妙な屈辱でした 所詮。 た しょせん まだお金持ちの坊ちゃんという種属、その頃の自分は みず、自分は、その時。から脱し切っていなかったのでしょう 、からすすんでも死のうと 、 実 、 感 、 と 、 し 、 。て決意したのです こ、女は。鎌倉の海に飛び込みました、自分たちは、その夜 帯を、と言って、の帯はお店のお友達から借りている帯やから 同じ所に、自分もマントを脱ぎ、畳んで岩の上に置き、ほどき 一緒に入水、置いて じゅすい 。しました 。自分だけ助かりました、そうして。死にました、女のひとは 、また父の名にもいくらか、自分が高等学校の生徒ではあり 新聞にもかなり大きな、ヴァリュがあったのか・所謂ニュウス
人間失格 。問題として取り上げられたようでした 故郷から親戚、自分は海辺の病院に収容せられ しんせき の者がひとり くにの父、そうして、さまざまの始末をしてくれて、駈けつけ これっきり生家とは義絶、をはじめ一家中が激怒しているから けれども。と自分に申し渡して帰りました、になるかも知れぬ めそめそ泣、死んだツネ子が恋いしく、そんな事より、自分は あの貧、いままでのひとの中で、本当に。いてばかりいました 。すきだったのですから、乏くさいツネ子だけを 短歌を五十も書きつらねた長い手紙が来まし、下宿の娘から 五、というへんな言葉ではじまる短歌ばかり」生きくれよ。 「た 看護婦たちが陽気に笑いなが、自分の病室に、また。十でした 自分の手をきゅっと握って帰る看護婦もいまし、ら遊びに来て 。た
人間失格 これ、その病院で発見せられ、自分の左肺に故障のあるのを 罪 幇助 やがて自分が自殺、がたいへん自分に好都合な事になり ほうじょ 、警察では、という罪名で病院から警察に連れて行かれましたが 。特に保護室に収容しました、自分を病人あつかいにしてくれて 寝ずの番をしていた年寄り、保護室の隣りの宿直室で、深夜 のお巡 まわ 、間のドアをそっとあけ、りが 「!おい「 、と自分に声をかけ 「あたれ、こっちへ来て。寒いだろう「 。と言いました 椅子に腰、わざとしおしおと宿直室にはいって行き、自分は 。かけて火鉢にあたりました 「死んだ女が恋いしいだろう、やはり「
人間失格 「はい「 。消え入るような細い声で返事しました、ことさらに 「やはり人情というものだ、そこが「 。大きく構えて来ました、彼は次第に 「どこだ、女と関係を結んだのは、はじめ「 彼。もったいぶって尋ねるのでした、ほとんど裁判官の如く あたかも彼、秋の夜のつれづれに、自分を子供とあなどり、は 自分から猥談、自身が取調べの主任でもあるかのように装い わいだん め 自分は素早く。いた述懐を引き出そうという魂胆のようでした 噴き出したいのを怺、それを察し こら そ。えるのに骨を折りました いっさい答を拒否しても、には」非公式な訊問「んなお巡りの 、しかし、自分も知っていましたが、かまわないのだという事は その、あくまでも神妙に、自分は、秋の夜ながに興を添えるため
人間失格 刑罰の軽重の決定もそのお、お巡りこそ取調べの主任であって 巡りの思召 おぼしめ という事を固く信じて疑わない、し一つに在るのだ や、彼の助平の好奇心を、ような所謂誠意をおもてにあらわし 。をするのでした」陳述「や満足させる程度のいい加減な わ、何でも正直に答えると。それでだいたいわかった、うん「 「そこは手心を加える、しらのほうでも 「よろしくお願いいたします。ありがとうございます「 何、自分のためには、そうして。ほとんど入神の演技でした 。とくにならない力演なのです、一つも、も 本、こんどは。自分は署長に呼び出されました、夜が明けて 。式の取調べなのです 、署長室にはいったとたんに、ドアをあけて い、こんな。お前が悪いんじゃない、これあ。いい男だ、おう「
人間失格 「い男に産んだお前のおふくろが悪いんだ い。大学出みたいな感じのまだ若い署長でした、色の浅黒い 自分の顔の半面にべったり赤痣、きなりそう言われて自分は あかあざ で みじめな気がしまし、みにくい不具者のような、もあるような た この 。 実にあっさ、柔道か剣道の選手のような署長の取調べは 執拗、 あの深夜の老巡査のひそかな、りしていて しつよう きわまる好色 署、訊問がすんで。雲泥の差がありました、とは」取調べ「の 、検事局に送る書類をしたためながら、長は 血痰。 いかんね、からだを丈夫にしなけれゃ「 けったん が出ているよう 「じゃないか 。と言いました へんに咳、その朝 せき ハンケチで、自分は咳の出るたびに、が出て
人間失格 そのハンケチに赤い霰、口を覆っていたのですが あられ が降ったみた 喉、 それは、けれども。いに血がついていたのです のど から出た血 そ、耳の下に出来た小さいおできをいじって、昨夜、ではなく それを言い、自分は、しかし。のおできから出た血なのでした 便宜な事もあるような気がふっとしたもので、明さないほうが 、ただ、すから 「はい「 。殊勝げに答えて置きました、伏眼になり、と 、署長は書類を書き終えて お前、それは検事殿がきめることだが、起訴になるかどうか「 きょう横浜の検事局に来ても、電報か電話で、の身元引受人に お前、あるだろう、誰か。たのんだほうがいいな、らうように 「の保護者とか保証人とかいうものが
人間失格 商 骨董 父の東京の別荘に出入りしていた書画 こっとう 、の渋田という 父のたいこ持ちみたいな役も勤めていた、自分たちと同郷人で 自分の学校の保証人になってい、ずんぐりした独身の四十男が 、殊に眼つきが、その男の顔が。自分は思い出しました、るのを 父はいつもその男をヒラメと呼、ヒラメに似ているというので 。そう呼びなれていました、自分も、び 、ヒラメの家の電話番号を捜し、自分は警察の電話帳を借りて 横浜の検事局に来てくれ、ヒラメに電話して、見つかったので ヒラメは人が変ったみたいな威張った、るように頼みましたら 。とにかく引受けてくれました、それでも、口調で 血痰、何せ。すぐ消毒したほうがいいぜ、その電話機、おい「 「が出ているんだから お巡りたちにそう言、また保護室に引き上げてから、自分が
人間失格 保護室に坐っている自分の耳、いつけている署長の大きな声が 。とどきました、にまで それはマントで隠、細い麻繩で胴を縛られ、自分は、お昼すぎ しっ、その麻繩の端を若いお巡りが、すことを許されましたが 。二人一緒に電車で横浜に向いました、かり握っていて 、あの警察の保護室も、自分には少しの不安も無く、けれども 自分 、嗚呼、 老巡査もなつかしく ああ 、はどうしてこうなのでしょう そうしてゆった、かえってほっとして、罪人として縛られると 本当に、いま書くに当っても、その時の追憶を、り落ちついて 。のびのびした楽しい気持になるのです その時期の、しかし 、 な 、 つ 、 か 、 し 、 、たった一つ、い思い出の中にも 。生涯わすれられぬ悲惨なしくじりがあったのです、冷汗三斗の 検事の簡単な取調べを受けま、検事局の薄暗い一室で、自分は
人間失格 もし自分が美貌だったと、 (検事は四十歳前後の物静かな。した それは謂、しても い 、わば邪淫の美貌だったに違いありませんが 聡明な、とでも言いたいような、正しい美貌、その検事の顔は 静謐 せいひつ コセコセしない人柄のようでし)の気配を持っていました 、ぼんやり陳述していたのですが、自分も全く警戒せず、たので ふ、自分は袂からハンケチを出し、れいの咳が出て来て、突然 この咳もまた何かの役に立つかも知れぬとあ、とその血を見て お、ゴホンと二つばかり、ゴホン、さましい駈引きの心を起し まけの贋 にせ の咳を大袈裟 おおげさ ハンケチで口を覆ったま、に附け加えて 、間一髪、ま検事の顔をちらと見た 「?ほんとうかい「 いま思い出し、いいえ、冷汗三斗。ものしずかな微笑でした あの馬鹿、中学時代に。きりきり舞いをしたくなります、ても
人間失格 と言われて脊中、ワザ、ワザ、の竹一から せなか 地獄に蹴落、を突かれ けおと 決して過言では無い気、その時の思い以上と言っても、された 自分の生涯に於ける演技の大失、二つ、これと、あれと。持です 検事のあんな物静かな侮蔑。敗の記録です ぶべつ いっ、に遭うよりは ましだったと思う事、そ自分は十年の刑を言い渡されたほうが 。時たまある程なのです、さえ 、けれども一向にうれしくなく。自分は起訴猶予になりました 引取、検事局の控室のベンチに腰かけ、世にもみじめな気持で 。り人のヒラメが来るのを待っていました 鴎、 背後の高い窓から夕焼けの空が見え かもめ という字み」女、 「が 。たいな形で飛んでいました
人間失格 第三の手記 竹一 一 惚。 はずれました、一つは、一つは当り、の予言の ほ れら きっ、あたりましたが、名誉で無い予言のほうは、れるという 。はずれました、祝福の予言は、と偉い絵画きになるという 無名の下手な漫画家にな、粗悪な雑誌の、わずかに、自分は 。る事が出来ただけでした
人間失格 ヒ、自分は、高等学校からは追放せられ、鎌倉の事件のために 、故郷からは月々、三畳の部屋で寝起きして、ラメの家の二階の ヒラメのと、それも直接に自分宛ではなく、極めて小額の金が それ、しかも、 (ころにひそかに送られて来ている様子でしたが 父にかくして送ってくれているという形式、は故郷の兄たちが あとは故郷とのつなが、それっきり)になっていたようでした ヒラメはいつも不、そうして、断ち切られてしまい、りを全然 人間というものは、笑わず、自分があいそ笑いをしても、機嫌 それこそ手のひらをかえすが如くに変化で、こんなにも簡単に むしろ滑稽に思われるくら、いや、あさましく、きるものかと 、ひどい変り様で、いの 「出ないで下さいよ、とにかく。出ちゃいけませんよ「 。そればかり自分に言っているのでした
人間失格 、にらんでいるらしく、自分に自殺のおそれありと、ヒラメは 女の後を追ってまた海へ飛び込んだりする危険がある、つまり 自分の外出を固く禁じているのでし、と見てとっているらしく 朝、ただ、煙草も吸えないし、酒も飲めないし、けれども。た 古雑誌なんか読ん、から晩まで二階の三畳のこたつにもぐって 自殺の気力さえ失わ、で阿呆同然のくらしをしている自分には 。れていました 青、書画骨董商、大久保の医専の近くにあり、ヒラメの家は 一棟、だなどと看板の文字だけは相当に気張っていても、竜園 、店内はホコリだらけで、店の間口も狭く、その一戸で、二戸の ヒラメはその店、もっとも、 (いい加減なガラクタばかり並べ こっちの所、のガラクタにたよって商売しているわけではなく あっちの所謂旦那にその所有権をゆず、謂旦那の秘蔵のものを
人間失格 店)お金をもうけているらしいのです、る場合などに活躍して むずかしそうな、たいてい朝から、に坐っている事は殆ど無く こ、八の小僧ひとり、留守は十七、顔をしてそそくさと出かけ ひまさえあれば近所の子供、れが自分の見張り番というわけで 二階の居候をまる、たちと外でキャッチボールなどしていても 大人、 で馬鹿か気違いくらいに思っているらしく おとな の説教くさい ひとと言い争いの出来ない、自分は、事まで自分に言い聞かせ 質 たち 感心したような顔をしてそれ、また、疲れたような、なので この小僧は渋田のかくし。服従しているのでした、に耳を傾け 渋田は所謂親子の名乗り、それでもへんな事情があって、子で 何やらその辺に理由が、また渋田がずっと独身なのも、をせず 自分の家の者たちからそれに、自分も以前、あっての事らしく 就いての噂 うわさ 自分、ちょっと聞いたような気もするのですが、を
人間失格 あまり興味を持てないほうなの、どうも他人の身の上には、は 、その小僧の眼つきにも、しかし。深い事は何も知りません、で 妙に魚の眼を聯想 れんそう 本、或いは、させるところがありましたから 二人は実に淋、それならば、でも、……当にヒラメのかくし子 二人でお、二階の自分には内緒で、夜おそく。しい親子でした 。そばなどを取寄せて無言で食べている事がありました 二階のやっ、ヒラメの家では食事はいつもその小僧がつくり かい者の食事だけは別にお膳 ぜん に載せて小僧が三度々々二階に持 階段の下のじめじめし、ヒラメと小僧は、ち運んで来てくれて カチャカチャ皿小鉢の触れ合う音をさせな、た四畳半で何やら 。いそがしげに食事しているのでした、がら ヒラメは思わぬもうけ口にでもありつい、三月末の或る夕方 その二つの推察、 (または何か他に策略でもあったのか、たのか
人間失格 さらにまたいく、おそらくは、ともに当っていたとしても、が 自分などにはとても推察のとどかないこまかい原因も、つかの 自分を階下の珍らしくお銚子)あったのでしょうが ちょうし など附いて ごちそうの、ヒラメならぬマグロの刺身に、いる食卓に招いて 主人 あるじ 賞讃、 みずから感服し しょうさん ぼんやりしている居候にも少し、し 、くお酒をすすめ 「これから、いったい、どうするつもりなんです「 卓上の皿から、自分はそれに答えず たたみいわし その、をつまみ上げ 畳鰯 酔いがほのぼの発して来、小魚たちの銀の眼玉を眺めていたら つ、堀木でさえなつかしく、遊び廻っていた頃がなつかしく、て かぼそく泣きそうにな、ふっと、が欲しくなり」自由「くづく 。りました 、道化を演ずる張合いさえ無く、自分がこの家へ来てからは
人間失格 ヒラメのほう、ただもうヒラメと小僧の蔑視の中に身を横たえ 自分と打ち解けた長噺をするのを避けている様子で、でもまた 自分もそのヒラメを追いかけて何かを訴える気などは、したし 間抜けづらの居候になり切っていた、ほとんど自分は、起らず 。のです ならな、そんなものには、前科何犯とか、起訴猶予というのは「 更生が出、あなたの心掛け一つで、まあ、だから。い模様です 、あなたのほうから、改心して、もし、あなたが。来るわけです 「私も考えてみます、真面目に私に相談を持ちかけてくれたら この、世の中の全部の人の話方には、いや、ヒラメの話方には どこか朦朧、ようにややこしく もうろう 逃腰とでもいったみた、として そのほとんど無益と思われるくらい、いな微妙な複雑さがあり 無数といっていいくらいの小うるさい駈引と、の厳重な警戒と
人間失格 どうでもいいやという気分になっ、いつも自分は当惑し、には または無言の首肯で一さいおまかせ、お道化で茶化したり、て 。謂わば敗北の態度をとってしまうのでした、という だいたい次のように簡単、自分に向って、この時もヒラメが それですむ事だったのを自分は後年に到って知、に報告すれば 世の中の人たちの不可解な、いや、ヒラメの不必要な用心、り 。何とも陰鬱な思いをしました、おていさいに、見栄 。ただこう言えばよかったのでした、その時、ヒラメは どこかの学校へはいり、とにかく四月から、官立でも私立でも「 もっ、くにから、学校へはいると、あなたの生活費は。なさい 「 。と充分に送って来る事になっているのです そのようになっ、事実は、 ずっと後になってわかったのですが 自分もその言いつけに従ったでしょ、 そうして。ていたのでした
人間失格 ヒラメのいやに用心深く持って廻った言い方、それなのに。う 自分の生きて行く方向もまるで変って、妙にこじれ、のために 。しまったのです 仕様、真面目に私に相談を持ちかけてくれる気持が無ければ「 「がないですが 「?どんな相談「 。本当に何も見当がつかなかったのです、自分には 「?あなたの胸にある事でしょう、それは「 「?たとえば「 「これからどうする気なんです、あなた自身、たとえばって「 「?いいんですか、働いたほうが「 「いったいどうなんです、あなたの気持は、いや「 「......、学校へはいるといったって、だって「
人間失格 あ。お金でない、問題は、しかし。お金が要ります、そりゃ「 「なたの気持です となぜ一こ、くにから来る事になっているんだから、お金は 自分の気持、その一言に依って。言わなかったのでしょう、と 。ただ五里霧中でした、自分には、きまった筈なのに、も あ、とでもいったものが、将来の希望、何か?どうですか「 ひとをひとり世話している、どうも、いったい?るんですか 世話されているひ、どれだけむずかしいものだか、というのは 「わかりますまい、とには 「すみません「 いったんあなたの世話、私も。心配なものです、そりゃ実に「 生半可、 あなたにも、を引受けた以上 なまはんか な気持でいてもらいたく という覚悟のほどを見、立派に更生の道をたどる。ないのです
人間失格 それ、あなたの将来の方針、たとえば。せてもらいたいのです まじめに相談を持ちかけて来、に就いてあなたのほうから私に ど、それは。私もその相談には応ずるつもりでいます、たなら 以前のような、貧乏なヒラメの援助なのですから、うせこんな あなたの気、しかし。あてがはずれます、ぜいたくを望んだら 将来の方針をはっきり打ち樹、持がしっかりしていて た そう、て 、たといわずかずつでも、私は、して私に相談をしてくれたら お手伝いしようとさえ思っているんで、あなたの更生のために これ、あなたは、いったい。私の気持が?わかりますか。す 「どうするつもりでいるのです、から 「......、働いて、置いてもらえなかったら、ここの二階に「 いまのこの世の?そんな事を言っているのですか、本気で「 「......、たとい帝国大学校を出たって、中に
人間失格 「サラリイマンになるんでは無いんです、いいえ「 「何です、それじゃ「 「画家です「 。それを言いました、思い切って 「?へええ「 頸、 その時の、自分は くび いか、をちぢめて笑ったヒラメの顔の 、軽蔑の影にも似て。にもずるそうな影を忘れる事が出来ません その海の千尋、世の中を海にたとえると、それとも違い ちひろ の深さ おと、何か、そんな奇妙な影がたゆとうていそうで、の箇所に なの生活の奥底をチラと覗 のぞ 。かせたような笑いでした ちっとも気持がしっかりし、そんな事では話にも何もならぬ と、今夜一晩まじめに考えてみなさい、考えなさい、ていない 別に何、寝ても、自分は追われるように二階に上って、言われ
人間失格 ヒラ、あけがたになり、そうして。の考えも浮びませんでした 。メの家から逃げました 左記の友人の許。間違いなく帰ります、夕方 もと 将来の方針、へ ほんとう。御心配無く、に就いて相談に行って来るのですから に と 。 浅草の堀木正雄の、それから、用箋に鉛筆で大きく書き、 。ヒラメの家を出ました、こっそり、住所姓名を記して くやしくて逃げたわけではあり、ヒラメに説教せられたのが 気持の、ヒラメの言うとおり、まさしく自分は。ませんでした 将来の方針も何も自分にはまるで見、しっかりしていない男で 、ヒラメの家のやっかいになっているのは、この上、当がつかず 自分にも発、もし万一、そのうちに、ヒラメにも気の毒ですし その更生資金をあの貧、志を立てたところで、奮の気持が起り
人間失格 とても心苦し、乏なヒラメから月々援助せられるのかと思うと 。いたたまらない気持になったからでした、くて 相談、堀木ごときに、を」将来の方針「所謂、自分は、しかし ヒラメの家を出たのでは無かっ、に行こうなどと本気に思って ヒラ、つかのまでも、わずかでも、ただ、それは。たのでした 少しでも遠くへ、その間に自分が、 (メに安心させて置きたくて そんな置手紙、逃げのびていたいという探偵小説的な策略から そんな気持も幽、いや、というよりは、を書いた かす かにあったに いきなりヒラ、やはり自分は、それよりも、違いないのですが おそろ、彼を混乱当惑させてしまうのが、メにショックを与え いくらか正確かも知、とでも言ったほうが、しかったばかりに そのとおりに、ばれるにきまっているのに、どうせ。れません 自、必ず何かしら飾りをつけるのが、おそろしくて、言うのが
人間失格 と呼ん」嘘つき「それは世間の人が、分の哀しい性癖の一つで 自分は自分に利、しかし、で卑しめている性格に似ていながら 、益をもたらそうとしてその飾りつけを行った事はほとんど無く ただ雰囲気 ふんいき 、窒息するくらいにおそろしくて、の興覚めた一変が れいの自、後で自分に不利益になるという事がわかっていても 馬鹿らしい、それはたといゆがめられ微弱で」必死の奉仕「分の つい一言の飾りつけを、その奉仕の気持から、ものであろうと し、してしまうという場合が多かったような気もするのですが 大い、たちから」正直者「世間の所謂、この習性もまた、かし 記憶の底、ふっと、その時)に乗ぜられるところとなりました 用箋の端にしたた、から浮んで来たままに堀木の住所と姓名を 。めたまでの事だったのです そ、懐中の本を売り、新宿まで歩き、自分はヒラメの家を出て
人間失格 皆にあ、自分は。やっぱり途方にくれてしまいました、うして いちども実感した、というものを」友情、 「いそがいいかわりに いっさいの附き、堀木のような遊び友達は別として、事が無く その苦痛をもみほぐそう、ただ苦痛を覚えるばかりで、合いは わ、へとへとになり、かえって、として懸命にお道化を演じて 往来な、それに似た顔をさえ、ずかに知合っているひとの顔を めまいするほどの不快、一瞬、ぎょっとして、どで見掛けても 人、人に好かれる事は知っていても、な戦慄に襲われる有様で を愛する能力に於 お 。いては欠けているところがあるようでした の」愛、 「果して、世の中の人間にだって、自分は、もっとも( そのよ)たいへん疑問に思っています、能力があるのかどうか そのうえ自分、など出来る筈は無く」親友「所謂、うな自分に 「 訪問、 「 には ヴィジット 自、他人の家の門は。の能力さえ無かったのです
人間失格 その門、あの神曲の地獄の門以上に薄気味わるく、分にとって おそろしい竜みたいな生臭い奇獣がうごめいている、の奥には 。実感せられていたのです、誇張でなしに、気配を 。訪ねて行けない、どこへも。附き合いが無い、誰とも 。堀木 書い、あの置手紙に。冗談から駒が出た形でした、それこそ 。自分は浅草の堀木をたずねて行く事にしたのです、たとおりに 自分のほうから堀木の家をたずねて行った事、自分はこれまで たいてい電報で堀木を自分のほうに呼び寄、いちども無く、は それに落ち、いまはその電報料さえ心細く、せていたのですが 来て、堀木は、電報を打っただけでは、ぶれた身のひがみから を」訪問「何よりも自分に苦手の、くれぬかも知れぬと考えて 溜息、 決意し ためいき この世の中、自分にとって、をついて市電に乗り
人間失格 、と思い知ったら、あの堀木なのか、でたった一つの頼みの綱は 何か脊筋 せすじ の寒くなるような凄 すさま 。じい気配に襲われました 堀木は二、二階家で、汚い露路の奥の。在宅でした、堀木は そ、堀木の老父母と、下では、階のたった一部屋の六畳を使い 下駄の鼻緒を縫ったり叩いたりして製、れから若い職人と三人 。造しているのでした 彼の都会人としての新しい一面を自分に見、その日、堀木は 田舎。俗にいうチャッカリ性でした、それは。せてくれました 愕然、 者の自分が がくぜん ずるいエ、冷たく、と眼をみはったくらいの とめどなく流れるたち、ただ、自分のように。ゴイズムでした 。の男では無かったのです 全く呆、お前には「 あき ま。お許しが出たかね、親爺さんから。れた 「だかい
人間失格 。言えませんでした、とは、逃げて来た 堀、すぐ、いまに。ごまかしました、れいに依って、自分は 。ごまかしました、木に気附かれるに違いないのに 「どうにかなるさ、それは「 馬鹿もこのへん、忠告するけど。笑いごとじゃ無いぜ、おい「 こ。用事があるんだがね、きょうは、おれは。でやめるんだな 「ばかにいそがしいんだ、の頃 「?どんな、用事って「 「座蒲団の糸を切らないでくれよ、おい、おい「 自分の敷いている座蒲団の綴糸、自分は話をしながら とじいと という くくり紐、のか ひも あの総、というのか ふさ のような四隅の糸の一つを ぐいと引っぱったりなどしていた、無意識に指先でもてあそび 座蒲団の糸一本でも、堀木の家の品物なら、堀木は。のでした
人間失格 眼に角、それこそ、恥じる色も無く、惜しいらしく かど 自、を立てて これまで自分、堀木は、考えてみると。分をとがめるのでした 。との附合いに於いて何一つ失ってはいなかったのです 。おしるこを二つお盆に載せて持って来ました、堀木の老母が 「これは、あ「 老母に向って恐縮、しんからの孝行息子のように、と堀木は 、言葉づかいも不自然なくらい丁寧に、し 、こんな心配は。豪気だなあ。おしるこですか、すみません「 すぐ外出しなけれゃいけない、用事で。要らなかったんですよ 、せっかくの御自慢のおしるこを、でも、いいえ。んですから おふく。どうだい、お前も一つ。いただきます。もったいない 。うめえや、こいつあ、ああ。わざわざ作ってくれたんだ、ろが 「豪気だなあ
人間失格 おいしそ、ひどく喜び、まんざら芝居でも無いみたいに、と 自分もそれを啜。うに食べるのです すす お湯のにおい、りましたが 自分、それはお餅でなく、お餅をたべたら、そうして、がして その貧しさを軽蔑したの、決して。にはわからないものでした 不味、 その時それを、自分は。 (ではありません まず いとは思いませ 自分に。老母の心づくしも身にしみました、また、んでしたし 無いつもりでい、軽蔑感は、貧しさへの恐怖感はあっても、は そのおしるこを喜ぶ堀木に、それから、あのおしること)ます 内と外をちゃ、また、都会人のつましい本性、自分は、依って んと区別していとなんでいる東京の人の家庭の実体を見せつけ ただのべつ幕無しに人間の生活から、内も外も変りなく、られ 、逃げ廻ってばかりいる薄馬鹿の自分ひとりだけ完全に取残され 狼狽、 堀木にさえ見捨てられたような気配に ろうばい おしるこのは、し
人間失格 げた塗箸 ぬりばし たまらなく侘、をあつかいながら わ びしい思いをしたと 。記して置きたいだけなのです、いう事を 「きょうは用事があるんでね、おれは、わるいけど「 、上衣を着ながらそう言い、堀木は立って 「わるいけど、失敬するぜ「 自分の身の上も急転しま、堀木に女の訪問者があり、その時 。した 、にわかに活気づいて、堀木は あなたのほうへお伺いしようと思っ、いまね。すみません、や「 かまわ、いや、このひとが突然やって来て、ていたのですがね 「どうぞ、さあ。ないんです 自分が自分の敷いている座蒲、あわてているらしく、よほど ま、団をはずして裏がえしにして差し出したのを引ったくって
人間失格 、部屋には。その女のひとにすすめました、た裏がえしにして 客座蒲団がたった一枚しか無かったの、堀木の座蒲団の他には 。です 女のひとは痩 や その座蒲団は傍に。脊の高いひとでした、せて 。入口ちかくの片隅に坐りました、のけて 女は雑誌社。ぼんやり二人の会話を聞いていました、自分は 何だかをかねて頼んでい、堀木にカットだか、のひとのようで 。それを受取りに来たみたいな具合いでした、たらしく 「いそぎますので「 どう、これです。もうとっくに出来ています。出来ています「 「ぞ 。電報が来ました 、上機嫌のその顔がみるみる険悪になり、それを読み、堀木が
人間失格 「どうしたんだい、こりゃ、お前!ちぇっ「 。ヒラメからの電報でした お前を送りとどける、おれが。すぐに帰ってくれ、とにかく「 家。無えや、そんなひまは、おれにはいま、といいんだろうが のんきそうな面、その、出していながら つら 「ったら 「?どちらなのですか、お宅は「 「大久保です「 。ふいと答えてしまいました 「社の近くですから、そんなら「 高、五つになる女児と。甲州の生れで二十八歳でした、女は 三年になる、夫と死別して。円寺のアパートに住んでいました 。と言っていました よ。ずいぶん苦労して育って来たみたいなひとね、あなたは「
人間失格 「可哀そうに。く気がきくわ とい(シヅ子。男めかけみたいな生活をしました、はじめて が新宿の雑誌社に勤めに出)その女記者の名前でした、うのが お、自分とそれからシゲ子という五つの女児と二人、たあとは 母の留、それまでは。となしくお留守番という事になりました シゲ子はアパートの管理人の部屋で遊んでいたようで、守には 、おじさんが遊び相手として現われたので」気のきく、 「したが 。大いに御機嫌がいい様子でした アパートの。自分はそこにいました、ぼんやり、一週間ほど 奴凧、 窓のすぐ近くの電線に やっこだこ 春の、が一つひっからまっていて しつっこく電、それでもなかなか、破られ、ほこり風に吹かれ 何やら首肯、線にからみついて離れず うなず いたりなんかしているの う、夢にさえ見て、赤面し、自分はそれを見る度毎に苦笑し、で
人間失格 。なされました 「ほしいな、お金が「 「?いくら位「…… 本当の事、って、縁の切れ目、金の切れ目が。……たくさん「 「だよ 「......、古くさい、そんな。ばからしい「 僕、このままでは。わからないんだ、君には、しかし?そう「 「逃げる事になるかも知れない、は どっちが逃げる、そうして。どっちが貧乏なのよ、いったい「 「へんねえ。のよ 。煙草を買いたい、いや、お酒、そのお金で、自分でかせいで「 「ずっと上手なつもりなんだ、堀木なんかより、絵だって僕は 自分の脳裡におのずから浮びあがって来るも、このような時
人間失格 数枚の、の」お化け「あの中学時代に画いた竹一の所謂、のは たびたびの引越しの間、それは。失われた傑作。自画像でした たしかに優、あれだけは、失われてしまっていたのですが、に さまざま画、その後。れている絵だったような気がするのです 自、遠く遠く及ばず、その思い出の中の逸品には、いてみても だるい喪失感になや、胸がからっぽになるような、分はいつも 。まされ続けて来たのでした 。飲み残した一杯のアブサン こっそりそう、その永遠に償い難いような喪失感を、自分は その飲み、自分の眼前に、絵の話が出ると。形容していました あの絵をこの、ああ、残した一杯のアブサンがちらついて来て 、自分の画才を信じさせたい、そうして、ひとに見せてやりたい という焦燥 しょうそう 。にもだえるのでした
人間失格 まじめな顔をして冗談を言うか、あなたは。どうだか、ふふ「 「ら可愛い あの絵を見せてやり、ああ、本当なんだ、冗談ではないのだ と空転の煩悶、たい はんもん 、あきらめて、ふいと気をかえ、をして うまいつも、堀木よりは、漫画なら、すくなくとも。漫画さ「 「りだ かえってまじめに信、ごまかしの道化の言葉のほうが、その 。ぜられました シゲ子にいつもかいて。実は感心していたの、私も。そうね「 、やってみたら。つい私まで噴き出してしまう、やっている漫画 私の社の?どう へんしゅうちょう 「たのんでみてあげてもいいわ、に 編輯長 子供相手のあまり名前を知られていない月刊の、その社では 。雑誌を発行していたのでした
人間失格 何かしてあげ、たいていの女のひとは、あなたを見ると …… そ、おどおどしていて、いつも。……たまらなくなる、たくて ひどく、ひとりで、時たま。……滑稽家なんだもの、れでいて か、いっそう女のひとの心を、そのさまが、沈んでいるけれども 。ゆがらせる おだてられて、そのほかさまざまの事を言われて、シヅ子に それが即、も すなわ 、と思えば、ち男めかけのけがらわしい特質なのだ 女よ、一向に元気が出ず、ばかりで」沈む「それこそいよいよ とにかくシヅ子からのがれて自活したいとひそかに念、りは金 かえってだんだんシヅ子にたよらな、工夫しているものの、じ ほとん、家出の後仕末やら何やら、ければならぬ破目になって 、いっそう自分は、この男まさりの甲州女の世話を受け、ど全部 しなければならぬ結果になっ」おどおど「所謂、シヅ子に対し
人間失格 。たのでした 三人の、それにシヅ子、堀木、ヒラメ、シヅ子の取計らいで そうして、故郷から全く絶縁せられ、自分は、会談が成立して 同棲」 天下晴れて「シヅ子と どうせい シヅ、これまた、という事になり 自分はそ、子の奔走のおかげで自分の漫画も案外お金になって うっ、自分の心細さ、煙草も買いましたが、お酒も、のお金で 沈「それこそ。いよいよつのるばかりなのでした、とうしさは キン「シヅ子の雑誌の毎月の連載漫画、切って」沈み「に」み ふいと故郷の家が、を画いていると」タさんとオタさんの冒険 うつ、ペンが動かなくなり、あまりの侘びしさに、思い出され 。むいて涙をこぼした事もありました 。シゲ子でした、幽かな救いは、そういう時の自分にとって お「何もこだわらずに、その頃になって自分の事を、シゲ子は
人間失格 。と呼んでいました」父ちゃん ほ、何でも下さるって、神様が、お祈りをすると。お父ちゃん「 「?んとう 。そのお祈りをしたいと思いました、自分こそ の本質を」人間、 「われに。われに冷き意志を与え給え、ああ 、われに。罪ならずや、人が人を押しのけても。知らしめ給え 。怒りのマスクを与え給え お、シゲちゃんには何でも下さるだろうけれども。そう、うん「 「駄目かも知れない、父ちゃんには 、神の愛は信ぜられず。おびえていました、自分は神にさえ ただ神の笞、それは。信仰。神の罰だけを信じているのでした むち うなだれて審判の台に向う事のような気がし、を受けるために どうし、天国の存在は、地獄は信ぜられても。ているのでした
人間失格 。ても信ぜられなかったのです 「?ダメなの、どうして「 「そむいたから、親の言いつけに「 みんな言うけ、お父ちゃんはとてもいいひとだって?そう「 「どな 自、このアパートの人たち皆に、だましているからだ、それは 自、しかし、自分も知っている、分が好意を示されているのは 恐怖すればするほど好か、どれほど皆を恐怖しているか、分は 皆か、こちらは好かれると好かれるほど恐怖し、そうして、れ シゲ子に説明し、この不幸な病癖を、ら離れて行かねばならぬ 。至難の事でした、て聞かせるのは 「?神様に何をおねだりしたいの、いったい、シゲちゃんは「 。何気無さそうに話頭を転じました、自分は