・ 調音点は、両唇(‟上の唇‟①と‟下の唇‟②)
・ 口のなかは、05-2 の「ひゃ」行のかたちに
準じる。‟舌先” ⑪の縁辺部分を‟下の前歯
の付け根” ⑩に当てて、‟前舌” ⑫の奥の方
を持ち上げ、この持ち上げた部分と上顎の
間に、適当な間隔を空ける。
・ 両唇は軽く閉じ、口の中に押し込めた息を
両唇の間を突き破るように一気に吐き出し
母音を発音する。発音時、上顎に当てた
‟前舌”⑫の奥は、自然に下に放れる。
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07-1 や-()-ゆ-()-よ ---有声適隔音
舌のかたち
この部分が、共鳴する。
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・ 調音点は、‟上顎の中央‟ ⑧(硬口蓋)
・ ‟舌先” ⑪の縁辺部分を‟下の前歯の付け根”
⑩に当てて、舌全体を上顎の天井に近づけ
*、舌の両端を上に少し持ち上げて、息の
通り道を少し狭めてから母音を発音する。
*06-2 の ほど近づけない。
・ 「ゆ」は、「う」音が口をすぼめるので、
息の通り道もすこし狭まる。息の通り道の
幅は、「や」>「よ」>「ゆ」。
「や」と「よ」は、発音後、下顎が下がる。
・ はじめに、「い・あ」 「い・う」 「い・
お」と発音させる。これを、数回繰り返し
た後、今度は「いあ」「いう」「いお」を、
少しづつ早めながら繰り返し、「や」「ゆ」
「よ」に、近づける。
適隔音:音声を調音する際、下の調音器官と
上の調音器官を接近させて、やや
狭めの間隙を作り、 そこに声帯音
を共鳴させて作り出す無摩擦の子音。
一般的には、「接近音」と呼ばれて
いる。
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08-1 ら-()-る-れ-ろ ----有声顫動音
この部分が、顫動する。
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・ 調音点は、‟上の歯茎‟ ⑤(歯茎)
・ ‟舌先” ⑪の先端(前歯四歯分ほど)を少し
上に向けて、‟上の歯茎”⑤に軽くつけ、息
をせき止め、舌先を前方にすばやく突き出
しながら、息を出して、母音を発音する。
顫動音:ふるえ音の一種。舌が,弾くように
一回だけふるえるような調音。
舌先で歯茎を軽く叩くことで発音。
一般的には「弾き音」と呼ぶ。
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08-2 りゃ-り-りゅ-()-りょ ----有声顫動音
この部分が、顫動する。
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・ 調音点は、‟上の歯茎‟ ⑤(歯茎)
・ ‟舌先” ⑪の縁辺(前歯六歯分ほど)を、
‟上の歯茎の奥” ⑥に押し付け、息をせき
止めて、すぐに息を出しながら一瞬遅れる
ような感じ*で、舌先を前方に突き出して、
母音を発音する。
* 舌先が上顎に粘着している感じ
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09-0 ん(後続音がない場合)(有声)鼻音
口蓋垂
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・ 調音点は、口蓋垂。
・ 声帯振動を伴う有声音。
・ ‟奥舌”⑬と口蓋垂*で閉鎖を作って口
腔への息の通り道をふさぐ。
* この部分を、「後舌と軟口蓋の後端で閉鎖を作り、口
蓋帆を下げて呼気を鼻へも通すことによって生じる音」
と説明するものもある。
** 後続音がある場合については、「資料Ⅵ「ん」 の異音
について」を参照。
後続音が t/d/n/r の場合は調音点が‟上の歯茎 ”⑤にな
り、後続音が m/b/p の場合は、調音点が上下の両唇にな
る鼻音であることに留意するべきではあるが、実際の発
音が、このような厳密な分類に従っているわけではな
い。
練習では、「後続音がない場合」が理解できれば十分
であり、後は、自然に任せれば十分と考えている。
「入門」が詳述していない理由もここにあると推測する。
終わり
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あとがき
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日本語を母語としないひとびとに、日本語の
発音を教える現場では、CD や youTube などを
視聴したり、実際に日本人の発声を聴いて、そ
の音(おん)をまねながら、何回も練習を重ね
ることが、普通だろうと思います。
ただ、ある日本語の発音が、学習者の国や地
方で使われていない場合、学習者は、その音に
近接する音で聞いてしまい、なかなか、正しく
発音できないという問題があります。この解決
のためには、もちろん、学習者と指導者の強い
熱意と意欲が必要ですが、正しい指導法に基づ
かなければ意味がありません。
この手引きは、学習者が正しく発音するため
には、どこに注意して発声すればよいのかを、
個別具体的に説明しています。調音点や調音法
を明確に示し、どのように唇や舌を形作り、ど
のように息を通すのかを、詳述しています。学
習者に発声練習させる前に、指導者は、各説明
に載せている図を見せ、実際に口のなかをどの
ように形作るかを丁寧に説明し、学習者に、頭
のなかで視覚化させることがとても大切です。
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この指導方法については、個人的な経験だけ
で申し上げているわけではありません。国立国
会図書館で公開しているデジタル資料のひとつ
に、日本言語文化研究会論集 2006 年第 2 号【特
定課題研究報告】として、「ベトナム語母語話
者による日本語のザ行音・ジャ行音・ヤ行音の
聞き分け」と題する論考があります。著者の
PHẠM THU HƯƠNG 氏は、冒頭で、「ベトナ
ムの日本語教育における発音や聞き取りの指導
方法の改善案を提示した。」と述べています。
要約しますと、つぎのような提言がなされてい
ます。
① 「現地の教師が両言語の音韻上の違いを踏
まえた上で効果的な指導を行う。」
② 「調音点や調音法の面でそれぞれの音の違
いを確認させ、舌の位置を分かりやすく説
明する。」
③ 学習者の発音を録音し、学習者に舌の形を
比較させることによって発音・聴解の両面
から各自の問題意識を高める。
そして、結びとして、「難しい調音の違いに
ついて分かりやすく説明することは、ネイティ
ブスピーカーよりも、むしろノンネイティブス
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ピーカーの教師に期待されることではないか」
と、述べられています。
( 論考の提言部分は、あとがき文末に掲載 )
最後に、 深くお詫びいたします。 本手引き
は、平易な説明につとめ、だれにでも気軽に手
にとれるようにと願い、つくりはじめましたが、
結局、用語や説明がわかりにくいものになって
しまいました。
また、手引き制作に際し、先人のお仕事に随
分助けていただきました。改めて、参考資料を
下に列記し、お礼にかえたいと存じます。
2018 年 8 月 1 日
制作者 伊吹 洋一郎
盛夏のホーチミン市にて
参考資料
・「日本語教育学入門」研究社刊
著者 姫野伴子/小森和子/柳澤絵美
・「拗音から考える外国語音への感性」講義録 福居誠二
・「言語学入門」研究社刊
著者 佐久間淳一、加藤重広、町田健
・ 「ベトナム語母語話者による日本語のザ行音・ジャ行
音・ ヤ行音 の聞き分け」日本言語文化研究会論集 2006
年第2 号【特定課題 研究報告】 著者 PHẠM THU
HƯƠNG
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§§§
8.音声教育への提言
ベトナムの日本語音声教育においては、初級段階で
五十音図を紹介する際に、単音の発音も聞き取りも
同時に導入されるというのが一般的である。それは、
誤りがまだ固定化していない初級段階から音声教育
を導入したほうが正しい聞き取りおよび発音に近づ
きやすいと考えられているためである。しかし、実
際には、五十音図を使って行う授業は、時間が短く、
内容も文字習得が中心になっており、単音の発音や
聞き取りが充分に行われていないのが実情である。
その結果、発音や聞き取りに誤りがあっても、学習
者本人も気づかず、その状態のまま、中上級に進み
化石化してしまう。被験者に対するインタビューで
も「こんなに聞き取りが難しいとは思わなかった」
「既習単語でないと聞き取れない」という声が 3 年
生 4 年生からも多く聞かれた。この「気づき」は音
声教育において大切な第一歩である。つまり、学習
者に聞き取りの混同を意識化させることは学習者が
自律学習を行うための最初のステップとして重要で
ある。今回の調査の過程において、北部の大学の若
手教師と話す機会があったが、それによると、教師
自身が発音指導に自信がなく、主にテープ・ビデオ
などの物的リソースとネイティブスピーカーである
日本人という人的リソースに頼りがちであるという
ことがわかった。しかし、海外での日本語教育にお
いて、ネイティブスピーカーやテープだけに頼るこ
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とは危険なことでもある。区別しにくいザ行音・ジ
ャ行音・ヤ行音のような音については、現地の教師
が両言語の音韻上の違いを踏まえた上で効果的な指
導を行うことが求められている。例えば、ザ行音・
ジャ行音・ヤ行音の各ミニマルペアを導入し、ベト
ナム語の各方言に存在するかを説明しながら学習者
に丁寧に聞かせる。そして調音点や調音法の面でそ
れぞれの音の違いを確認させ、舌の位置を分かりや
すく説明する。学習者にそれらの音を模倣・発音さ
せるとともに、聴覚上に自分の発音や舌の形をテー
プなどで比較させることによって発音・聴解の両面
から各自の問題意識を高めるなどの方法が考えられ
るであろう。つまり、難しい調音の違いについて分
かりやすく説明することは、ネイティブスピーカー
よりも、むしろノンネイティブスピーカーの教師に
期待されることではないかと考えられる。音声教育
のための時間が少ないという現実問題に直面してい
る現場では、音声は会話と聴解の授業に任せるとい
う教師の声が多かったが、他の授業でも教師が発音
に関する「気づき」というヒントを与えることが非
常に重要であろう。本稿で検証した結果を多くのノ
ンネイティブスピーカーの教師と共有することは筆
者の期待するところでもある。
§§§
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資料
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10-1 子音の分類について 「入門」より引用
10-2 日本語の子音 「入門」より引用
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10-3 硬口蓋化について
発音する際、音声の通路を狭めたり閉じたりして音
声を調節する場所があり、これを調音点と呼ぶ。硬
口蓋化とは、 母音 が、直前の音の調音点を硬口
蓋( =‟上顎の前”⑦と‟上顎の中央”⑧ )の付近へ移動
させてしまう現象である。
日本語では、母音の前に“子音”および“拗音
の子音”がある場合、硬口蓋化が常に起きる。例え
ば、「た」行の「い」段は、その昔tiであったが、
硬口蓋化現象の結果、となった。「入門」では、
つぎのように説明している。
10-4 ザスゼゾ ジ・ジャ行の破擦音について
「入門」より引用
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10-5 「ん」 の異音について
「言語学入門」研究社刊(著者 佐久間淳一、加藤重広、
町田健)では、つぎのように述べられている。
§§§
日本語の「ン」を例に考えてみましょう。「本」
「本棚」「本箱」「本会議」「本意」「本案」とい
う語は、いずれも文字で書けば「ホン」となる音声
を含んでいます。しかし、この六つの語の「ン」は
すべて音声学的に異なる音です。
① 口蓋垂鼻音 [ N ]
(「本」のように「ン」で言い切りになる場合は口
蓋垂鼻音が普通ですが、ぞんざいな発音では鼻母
音になることもあります)
② 歯茎鼻音 [ n ]
(「本棚」のように、次に t/d/n/r が続くときは、
歯茎鼻音が普通)
③ 両唇鼻音 [ m ]
(「本箱」のように、次に m/p/b が続くときは、
両唇鼻音が普通)
④ 軟口蓋鼻音 [ ŋ ]
(「本会議」のように、次に k/g/ ŋ が統くときは、
軟口蓋鼻音が普通)
⑤ 前舌狭口の鼻母音
(「本意」のように、前舌母音やヤ行子音』が縞く
ときは前舌狭口の鼻母音で発音されることが多い)
⑥ 後舌狭口の鼻母音
(「本案」のように後舌母音やわ行子音 w が続くと
きは後舌狭口の鼻母音で発音されることが多い)
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普通、「ン」をローマ字表記するときには n で書
くことが多いため、日本語を母語とする私たちは、
「ン」はみんな n で発音しているものだと思ってい
ることが多いようです。しかし、実際には、いずれ
も鼻腔から気流が抜ける音声という共通点はあるも
のの、さまざまに異なる音で発音されているわけで
す。ところが、私たちは「ン」が音声的に多様であ
るにもかかわらず、「ン」は一つだけだと思ってい
ます。このことは、日本語において「ン」にあたる
音素は心理的実在として一つしかない、ということ
です。つまり、①~⑥の音声は「ン」という一つの
音素の異音にあたるのです。したがって、「ン」を
ナ行子音 n と同じ音だとする理解は、( 実際にその
ような音が用いられることもありますが )文字に引
きずられた結果の誤った認織だということができま
す。
§§§
* 朱色の下線は補記。他に「1つ」等の表記に
違和感を覚えたため修正したが、あくまで私見。
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補遺
―間違えやすい発音について―
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(1) 「つ」が「ちゅ」になる場合
「おつかい」→「おちゅかい」
A 「す」から教える
A1 「すー」「すー」「すっ」と数回発音さ
せる。「すー」は「う」を意識させない。
A2 A1 と同じだが、声を出さず、息だけを
出させる。何回も繰り返す。
A3 「す」の声道断面図を見せながら、舌の
形を説明する。つぎに、「す」の口の作
り方を頭の中で思い浮かべるように促す。
「す」の声道断面図 「つ」の声道断面図
→
A4 「す」の口の形*のまま、舌先を上顎の
上に当てるよう指示する。
つまり、「すっ」の「っ」部分の舌の位
置・かたちを思い起こさせる。
*“「す」の 口の形”とは、舌先は平たく せず、
左右の両端を上に持ち上げ、空気 が通る溝をつ
くること。
A5 そのまま軽く息を出させると、舌と上顎
の間の空気が圧縮されるので、その圧迫
感を感じさせる。
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A6 ‟舌先” ⑪を前に突き放すようにして、
舌と上顎の間に圧縮された空気を、放
出させる。このとき、声は出さない。
A7 A4 を思い出しながら、声を出して、A6
を繰り返す。
B 「ちゅ」から教える
B1 「ちゅー」「ちゅー」「ちゅっ」と数回
発音させる。「ちゅー」は「う」を意
識させない。
B2 声をださずに、B1 を繰り返す。
B3 「ちゅっ」のすぐあとに、‟舌先” ⑪を‟上
の歯茎の後” ⑥に押し付ける ことを繰
り返す。このとき、‟舌先” ⑪ はやや緊
張感を保ちながら、つぼめる。
[ 舌のかたちを変える ]
空気の流れ
B4 B3 の口が形作れられたら、舌と上顎の
空間に空気を送り込み、‟舌先” ⑪ を
前に突き放すようにして、舌と上顎の
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間に圧縮された空気を放出させる。この
とき、声はださない。
B5 B4 を何回か繰り返した後、声を出す。
練習用: すみれ / つみれ、すすむ/つつむ、
すき / つき、する / つる
はすかい/はつかい、いすき/いつき
* 「つ」の「ちゅ」音化の便宜的な対策とし
て、‟舌先” ⑪を下の前歯の裏に当て‟前舌”
⑫の奥をを盛り上げ、舌と上顎の隙間を破
擦させて発音するという説明をしている例
がある。(本説明では、「ちゃ」行に該当
か?)勧めないが、この方法で、「つ」に
近い音が出せるようになるひともあるよう
だ。とはいえ、逆に「ちゅ」が発音できな
くなることはないのだろうか。
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(2) 「ざ」が「じゃ」になるになる場合
「ございます」→「ごじゃいます」
A 「じゃ」から教える
A1 「じゃー」「じゃー」「じゃっ」と数回
発音させる。「じゃー」は「あ」を意
識させない。
A2 声をださずに、-1-を繰り返す。
A3 「じゃっ」のすぐあとに、‟舌先” ⑪を‟
上の歯茎” ⑤に当てる。これを繰り返す。
このとき、‟舌先” ⑪はやや緊 張感を保
ちながら、つぼめる。
A4 A3 の口が形作れられたら、舌と上顎の
空間に空気を送り込み、‟舌先” ⑪ を前
に突き放すようにして、舌と上顎の間に
圧縮された空気を放させる。このとき、
声はださない。
A5 A4 を何回か繰り返した後、声を出す。
* (2)A3 以降の部分は、「ざ」を有声破擦音と
して説明している。 ( 資料 10-4 Page 57 参照)
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B 「ざ」を、有声破擦音として教える。
説明は、上記(2)A3 以降に準じる。
練習用: はざかい/はじゃかい
ござる/ごじゃる
あしざま/あしじゃま
やまざくら/やまじゃくら
(3) 「ざ」が「や」になる場合
「ございます」→「ごやいます」
A 「や」から教える
「や」は、‟舌先”⑪の縁辺部分が‟下の前
歯の付け根” ⑩に当たっているが、「ざ」
は、発音開始時、‟舌先” ⑪の縁辺部分が‟
上の前歯” ③に少し当たっ ていて、摩擦音
が出る仕組みである。この違いを理解させ
ることが重要。
説明は、上記(2)A③以降に準じる。
B 「ざ」を、有声破擦音として教える。
説明は、上記(2)A3 以降に準じる。
その他、 「しゃ」が「さ」になる場合、「だ」
が「ら」になる場合、「ど」が「ろ」になる場
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合など、種々発生するが、ふたつの音について、
舌や口のかたちの作り方の違いを、常に手引き
にしたがって説明し、発音の仕組みをよく理解
してもらうことが重要。
「おしゃかさま」→「おさかさま」
「よろしく」→「よどしく」
「らくだ」→「だくら」「だくだ」
「どくろ」→「ろくろ」
補遺 終わり
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「日本語発音の手引き」
eBooked via http://anyflip.com/ on 15 August 2018
with copyright of Yang Labo and CICS in Saigon
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